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最愛が消えた日~マーキュリー視点~

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私たちの両親は、仲良しだ。

同じ年に生まれた私たちは、いつも一緒だった。

その頃は、アースの方が何か月か先に生まれた分大きくて…。


「まーきゅ、おくちよごれてりゅ。ふきふき。」

ミルクでお口が汚れた私の顔を、アースは小さなお手てでふきふきしてくれた。
たどたどしい力加減だけど、綺麗になって嬉しいのか、ふにゃっとした笑顔を向けられて、私もすごく嬉しくて。

「あーしゅありあとー。」


「まぁまぁ、なんて可愛らしいカップルかしら!アース君はしっかりものねぇ、お兄さんねぇ!うちのマーキュリーをよろしくね!」


「あい!」

「あーしゅたん、あしょぼー」

「あしょぼー!」


「あい!まーきゅもいこ!」


面倒見が良くて、優しくて、皆の人気者のアース。

きっとアースは誰より素敵に成長するだろう。

アースを取られたくなくて、いつか誰かのモノになってしまうのが嫌で、私は強く願ってしまった。



『――――――――いつまでもこのままのアースでいてくれますように。』




いつの間にか、ある年齢からあまり変わらなくなったアースを置いて、私だけが大きくなった。

手を繋いでも、その意味は昔と違う。
キスをして、その先へ行きたい。
アースの体を暴きたい。

そういう風に見ているのは、自分だけなんだろうか。


アースが成長できないのは、きっと私のせい。
だから自業自得。

あの頃、制御できない子どもの純粋な力で歪めてしまったかもしれない願いのろいは、私にも誰にも解除することはできない。

ただ、いつか。

アース自身が成長を始めるのを待つしかないのだ。











「お疲れ。世界軸1397の管理は順調そうだね。」

あれから10年。

互いに親の跡を継ぎ、世界の管理をする傍ら、私はアースの指導係の役目もいただいている。

真っ白に輝く髪に白い肌。
アイスブルーの瞳がキラキラと輝き、幼さの残る顔ながら、整った顔立ちは誰が見ても可愛らしい。

くりんと振り返って私を見る目がちょっと拗ねている。

「マーキュリーの指導がいいからじゃないかな。」

唇を尖らせて、彼は言った。


「お茶にしようか。」

空に円を描くように指を回し、テーブルセットとアフタヌーンティーセットを出現させる。

ケーキの段は苺のショートケーキ。

キラキラ輝く瞳が分かりやすい。

ケーキはボクの好きな苺が乗ったショートケーキ!



もぐもぐとおいしそうに頬張る姿が愛らしい。

椅子に座っても足が浮くから、プランプラン揺れている。


「ふふ。早くオトナになってね。アース。」


彼の口についた生クリームを右手の人差し指で掬って舐めた。

照れる様子が可愛い。


そうだよ、もっと意識して。



「ボクだって同い年なのにぃ!どうしてまだこんなにちっさいんだろう。」


……ごめんね。


「アースは純真すぎるのかもねぇ。私たちの力も、私たちも、全ては自らの心の持ちようだからさ。」

「うぬぬ…。マーキュリーはいつでもお嫁に行けそうだもんね。ボクはまだまだ先なのかなぁ。ああ、お嫁さんは欲しいなぁ。」

「私は嫁より旦那さんになる一択で決めてるからね。嫁には行かない。私たちは確かに両性具有だけどね、私は入れるほうだから。これは譲らない。」

「マーキュリーはいいお母さんになれそうなのにぃ。」

「孔の方は永遠の処女を誓っていますから。それに、アースはお嫁さんになる方ね。決定。」

「えー。入れられる時って痛いんでしょ?ボクやだー。」


見た目は子どもでも、年齢はオトナだから、こうしてちょっとエッチな話もする。
こういう話でも刺激になればいい。



「マーキュリーせんぱぁい!」



甘ったるい声のピンク頭。

全くイラっとする存在がやってきた。

私たちの2つ下の創造神・マーズ。


「ずるいですぅ!僕も誘ってくださぁい!」

「マーズ。私は君に恋愛感情など持っていない。何度言えば分かる。」

めんどくさい。

「えぇ。今は、でしょー?ねえ、アース先輩も僕が先輩にお似合いだって思いません?」


「……う?」


お前…っ!


「センパイはいつまでたってもオトナになれる気配がないですしーぃ。マーキュリー先輩も欲求不満なんじゃないですかぁ?僕ならもうオトナですから。いつでもお嫁にいけますからね、マーキュリー先輩♡何なら、今夜でも……」


「マーズ。帰れ!」


いい加減、腹に据えかねる。


「マーキュリーそんなに怒らなくっても。」


「ほらぁ。先輩もそう言ってますし、3人でお茶しましょうよ!」



「……、あ、じゃボクそろそろ仕事を再開するね!あとはマーズと食べて!」


「アース!」









「あ。」






追いかけた最愛がそこに吸い込まれていくのを、どうにもできなかった。


なんということだ。

アースは、アースの世界に転生してしまった。


転生したら、その生を終えるまで、ここには帰ってこれないというのに。
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