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番外編など

刑執行の日

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私は吉田花梨。

どこで私の人生は間違ってしまったのだろう。


何がいけなかったのだろう。


今でも、自分がやったことがよく分からない。

お父さんを殺してしまったのは、やりすぎたと思うけど、だってお父さんが私の邪魔をするから。

刃物が当たってしまったのよ。



お母さんはもう私に会ってくれなくて、最後に見たときは、叔父さんに平謝りしていた。

叔父さんは、こんなことになる前に会社を譲ってくれていて良かったと、そうでなければ会社が傾くところだったと言っていた。


私の弁護はやり手がいなくて、国選弁護人という人?が担当した。

ベータだけど優秀な男みたい。

でも、毛虫を見るような目で私を見る。



私を訴える側の検事は、若くてハンサムな人だった。

サイト―さんとか言ったかしら。

どうやって調べたのか分からないけど、学生時代に私がやった『ちょっとした意地悪』まで言わなくてもいいじゃない。
だって、拓海は本当にモテたから、排除する必要があったのよ。

どうしても退かないから、ちょっと学校の階段のてっぺんから落としただけよ。大げさね。
足を骨折しただけで、どうしてそんな大騒ぎをするのかしら。
その時の怪我が原因でバレエを踊れなくなったと言われても知らないわよ。


担当弁護士は、私の精神がおかしいからって減刑を求めたけど、サイト―検事は実家においていた私の日記や雇っていた探偵に証言させて、『これだけ計画的に犯行に及んでいるのだから、心神喪失は適用できない。』と突っぱねた。


死刑判決が出て、控訴はできなかった。

役立たずの弁護士から、『そもそも現行犯で捕まってるし、目撃者も多いし、あれだけ証拠があって事実は疑いようもないんだから、控訴しても結果は変わらない。』と言われたし、お母さんはいい弁護士を雇ってくれなかった。




綺麗な病院で出産して、みんなからおめでとうって言われるのを夢見ていたのに、私は刑務所の中で子どもを出産した。

死刑囚だけど、お腹に子どもがいては刑は執行できないから、執行は延ばされていた。

生まれた子どもは取り上げられて、誰に育てさせるかという相談を看守がしていた。

吉田の家は要らないって。

犯罪者の、しかもサイコパスの子だから。同じような子だったら怖いから要らないって。

お母さんにとっては孫なのに。

たった一人しかいない孫なのに。

私は娘ではなく、夫を殺した憎い犯人だった。




…………やめて。

この子は私じゃない。

愛してよ。




この子には一生、『犯罪者の子』というレッテルが付いて回るんだ。




きっと、この子はどこかの養護施設で育つんだ。



絶望の中、個室に連れていかれ、絞首台に上る。


三人の執行役が同時にボタンを押すらしい。


嗤っちゃうわよね。死刑を自分が執行した負い目を緩和するためでしょうけど。




そして、私はこの世から去った。










ああ。暗い。暗いわ。 

私は地獄に連れていかれるのかしら…。


いけない。このままいけない。

蜂谷、あいつだけ幸せになるなんて許さない。

私の拓海を奪って許さない。

呪ってやる!呪ってやる……!!!!!



「花梨!やめなさい!花梨!!!」



黒い霧のようになった私の周りを、白い霧が取り囲み、覆いかぶさる。




おとう……さん?


「やめなさい、花梨。人を羨むのはやめなさい。それが、花梨が失敗したことだよ。」

お父さん。私は貴方を殺したのに、止めてくれるの?


「ごめんね、花梨。もっともっと、早くに私が花梨の心に気づいて止められていたら。君をうまく育てていたら、こんなことにはならなかったのに。」


人生なんて、思い通りにならなくてあたりまえ。

好きな人が出来ても、その好きな人が他の人を選んでも、それは仕方のないこと。

花梨と同じように、拓海君にだって、感情があり、好きな人を自分で選ぶ権利がある。


もっと広い視点を持てていたら。

友達がいれば。

きっと、花梨の番もどこかにいただろう。



「なによ、今更、今更…。」

「ほらごらん、花梨。」


父が指さす先には、氷室がいた。

まだ顔には包帯が巻かれている。

私が傷つけた。


「彼は役者とかである程度立ち回りの経験もあったからかな。傷はそれほど深くはなかったから、手術をすれば、だんだん薄くなるだろう。でも、見てほしいのは彼じゃないんだ。よーく見て。彼の手元を。」


あっ…。



氷室さん………。






「えーっと、ミルクってどう作ればいいんだ。お湯、ああ、まだ熱いかなあ。」

「おぎゃあああ、おぎゃあ。」

赤ちゃんを抱きながら、ポットと哺乳瓶の周りで右往左往している。


「よしよし、ごめんな。お父さん頑張るから!」

氷室はベビーベッドに息子を寝かせた。


「もう!あんな女が産んだ息子なんて施設に入れておけばよかったのに!」
「全くよ!あの疫病神!」


「母さん!姉さん!そんなことは言わないでくれ!俺だって悩んだんだから…。でも、ほら、この子の顔を見たら…。どうしても施設に預けるなんてできないよ。」


氷室の母親と姉が、ベビーベッドの中を覗き込む。


「………そうね。和哉にそっくり。」

「仕方ないわね。厳しく育てて、まともな子にしないとね!血筋より環境よ!」


「さあ、ミルクできたよ。京。」

んくんくとミルクを頬張る赤ちゃんはケイと名付けられたらしい。

飲み終わった赤ちゃんの背中を、氷室はぽんぽんと叩いてげっぷさせた。


「母さん、俺。まじめになるよ。顔の傷は治るけど、やっぱり5Kだとアップが気になるし、舞台中心でお願いしていいかな。足りない稼ぎの分は、事務所の事務でもなんでもする。……この子を見てよ。きっと俺よりハンサムになるぞ!赤ちゃんモデルから初めて…、夢はでっかくハリウッドスター!」


「あらあら。もうステージパパ?」





氷室さんたちに大事にされている我が子をみて、涙がこぼれた。


こんなお母さんでごめん。

犯罪者の子だと、どうか後ろ指をさされませんように。



黒い霧と白い霧は、フッと消えた。

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