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王城で

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「ローゼ。陛下から招待状が届いたわよ。」

「なんて書いてあるの?」

「この間、火竜の巣を動かして未然にトラブルを防いだでしょう?それのお礼と、って。」


「表向きは俺へのお礼を兼ねた社交界、か。いいね。そういえばあいつらの店見た?今まであちらに売っていた魔石が売れなくなって、店先でセールしてたな。国内で売れてるけど安値で売っているから利益は下がってそうだ。」

「私たちへの慰謝料、たくさんもらわなくっちゃ。私の顔を傷つけたこと、父が怒り狂ってたの。馬鹿な嫉妬で身を滅ぼすのね。全く。」


「じゃあ、その日になったら早めに城へ上がろうか。陛下と打ち合わせをしなくちゃ。」

「そうね、父たちは城へ向かうらしいから。久しぶりに会いたいわ。」


薬が完成し、クリアな頭になった母が望んだのは、徹底的な断罪だった。
『運命』に翻弄され、運命の番という熱に侵されて、のこのこと国境を渡り、伯爵の妾に甘んじていた。
そのことについては、自分にも非があるとお母様も分かっている。

母が許せないのは、俺への仕打ちなのだ。
妾が産んだとはいえ、同じ息子なのに、正妻が産んだ子と区別するのは仕方ないにせよ、学園にも通わせず、使用人扱いをしてきたことが許せない。
俺を虐めぬいた正妻の子らも許せない。
そして、自分の顔を焼いた正妻への恨み。


シュバイツァー王国から届いた流行のドレスと正装を着込んで、俺たちは時間より早く登城した。

母方の祖父や叔父が隣国の陛下名代として来ていて、通された応接間で母は十九年ぶりの家族の再会を喜んだ。
母は当時、新たなフェロモン抑制剤や流行り病の特効薬を研究していて、シュバイツァー王国の医学界では期待された研究者だった。
それが、行方不明になり…。数年後、連絡があったと思ったら隣国の貴族の妾となり、子を産み、虐げられていると聞いて、祖父母も叔父も怒り心頭だったようだ。(ちなみに母の失踪のせいで医学の研究が遅れたと向こうの陛下もかなり怒っているらしい…。)
積もる話もあるだろう。
挨拶をして頃合いに、俺はその部屋をそっと出た。

勇者として、陛下の信頼が厚い俺は、多少城の中を散歩していても許されるくらいには権限を与えられている。









「今度は北の山を開拓…!!?イスリス、やめてよ、そんなことしたら…っ!」

「ハハッ、これだからアンタはダメなんだよ、恐れていたら何も始まらない、この国をもっともっと豊かにするんだ、あそこは鉱脈が豊かだろ、掘って掘って掘りまくれば、今よりもっと豊かになるんだ。この国は神から愛された土地だ、これほどの資源がごろごろあるんだからな。資源を採取してシュバイツァー王国にでも売ればそれだけで金持ちになれるんだから簡単なもんだ!」


「でっ、でも…っ。」

「アーサー殿下、いいでしょ?次期陛下になられるイスリス殿下の英断を阻むことなんてできないですよね?」

「カリス伯爵令息…。」

「そんなくだらないことを言っている暇があるなら、俺の代わりに書類を片づけておいてくださいよ、兄上?課題も全部、お願いしますよ?俺は貴方と違って暇ではないので。」

「あぁっ!」

頭からばさばさと大量の書類を撒かれ、カリスに転ばされて、アーサーは足を捻った。


「ハハハっ!王族でなければカリスのとこみたいに追い出せたのにな…っ。でもいいか、追い出せない代わりにずーっと、俺の代わりに仕事をしろよ、飼殺してやる。優秀なのも、功績も名声も全部俺のモノだ!いい女を娶って結婚したら、ヤってるところを見せてやろうか、お前は一生独身、愛人も妾も許さない、ま、なりたいやつもいないだろうが!」

「ふふふ、イスリス殿下、一生独身なんてかわいそうじゃないですか?一生、童貞だなんてねぇ。」

「ははは、そうしたら俺が散々遊んだ女を捨てる前に抱かせてやるか!」


「……女性をそんなふうに扱ってはいけないっ!」

「いいんだよ、女はみんな、優秀で、かっこよくて、次期国王になる俺に抱かれたいんだ。」

「ぐはっ!」

腹を蹴られ、蹲り、二人の笑いを聞きながら、アーサーは怒りに震える。


だが、それを、発露することがどうしてもできない…。


(ああ、またローゼに頼まなくちゃ。あそこは軟弱地盤なんだ。適当に採掘したり開発した日には、大惨事になるのに…。それに、どうしてイスリスは農民や漁民には目を向けないのだろう。彼らがいなければ、食べていけないのに。開発開発というけれど、農地を潰してもしかたなければ、開発で有害なものを出してみろ、一次産業に被害が行くんだ。どうして分かってくれないんだろう…。目先の豊かさに囚われても仕方がないのに。資源なんて、いつかはなくなる。資源を吐き出すだけではだめなのに…。)


「―ッ。」

捻った足首に手をやり、治癒魔法をかける。



そして顔をあげると。


正装姿のローゼが書類の束を持ってこちらを見ていた。

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