百合男子は異世界転移で、魔法学園の愛されお姉様になっちゃいます!

七海椎奈

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●故郷の味

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「……納豆、食べるのね」
 あんまり珍しいから思わず話しかけてしまった。

「え? ええ。おいしいわよね」
 その言葉に嘘はないだろう。
 また一口分の納豆をご飯に乗せる。

「……珍しいわね。こっちでこれを食べる人、初めて見たわ」
「そうなの? えっと私も初めて食べるのだけど、本で読んだことがあって食べてみたかったの」
「納豆が出てくる本? なんていうタイトルかしら?」
「んー。昔のことだから覚えてないわ。ただ納豆のことだけはインパクトがあって」
「確かに、珍しい食べ物ですから」
「学園で昼食に出るなんて思わなかったわ」

 話しながらも箸が止まらない。
 それに本当においしそうに食べる。
 バランスよく口に運び、お味噌汁を飲んでほうと息を吐く。

 少し、嬉しい。
 敬遠されがちな故郷のメニューをおいしそうに食べてもらうのも、本を読んで興味を持ち文化に触れてもらうのも。
 田舎は嫌いだったし、郷土愛はそんなに深くないほうだと思っていたけど……実はそうでもなかったみたいだ。

「お箸の使い方もすごくきれいなんですね」
「ふふ、あなたほどじゃないけど」

 たわいのないおしゃべりをして、食事に戻った。
 もう少し話していたかったけれど、話題もなく無言で食べる。

 孤立しても構わないと思っていたけれど、本当は少し寂しかったのかもしれない。
 だめだ。
 寂しいなんて自覚してしまったら、これからがつらくなるのだから。

 懐かしい味なのに少し寂しい。
 レティシアさんは始終楽しそうに食事をし、食べ終わると両の掌を合わせて、軽く目を閉じる。
 不思議で神秘的な姿だ。

「このメニューはどのくらいの頻度で出るのかしら?」

 ぱちりと目を開き、身を乗り出す。
 雰囲気ががらりと変わって戸惑ってしまう。

「……人気のあるメニューはリクエストが集まってよく出るんだけど……これはあまり」
「まぁ」
「これが、最後になってしまうかもしれません」

 考えたくはないけれど、ありえる話だ。
 悲しいけれど仕方がない。

「このメニューは完璧ね!」

 突然レティシアさんが、不自然に声を上げる。

「な、なに急に……」
「全体的に高たんぱく低カロリー! 納豆や味噌の発酵食品による抗酸化効果により美白美肌効果、デドックスによるダイエット効果を大いに期待できるわ! これは食べなきゃ!」

 その言葉に呼応したかのように教室がざわめき、今まで見向きもしなかった子たちが故郷のメニューを取りに行く。
 露骨な手平返しに少し呆れる。
 あの子たちには自分ってものがないの?

「ごちそう様。後でリクエストの出し方も教えてくださいね」

 それでも、彼女の行動はうれしかった。

「……とう」

 言葉が詰まる。

「はい?」
「ありがとう」
「いえ」

 恩着せがましくもなく、当然のことをしたまでと言った振る舞い。
 持ち得る者とは、こんなに簡単に施しができるものなのか。
 きっと彼女は、そんなつもりはないのだろうけれど……

「けれど、私にはあまり近づかないほうがいいわ」

 彼女ならすぐに私の素性を知るだろう。
 そうしたらもう私に話しかけてくることもないだろう。


 と、思ったのに
「エリヴィラさん。昼食のリクエストの書き方なんだけど」

 休み時間の終わりには、また私に話しかけてきた。

「! あ……この用紙に書けばいいだけだから」
「あのね。私思うのだけど、食べなれていない人にいきなり納豆というメニューはきついと思うの。だからもっと受け入れられやすい料理から浸透させるべきじゃないかしら」

 興奮気味にレティシアさんは料理について語る。
 あれこれと本で読んだというメニューを上げては名前とつづりを聞いてきた。

 彼女が聞いてきたメニューは、確かに受け入れられやすいものだろう。
 なによりレティシアさんの興奮が伝わってくる。
 社交辞令なんかではなく、本当に故郷のメニューに興味があるらしい。

「本当に詳しいのね。それも本で?」
「たぶんそうだと思うけれど、人に聞いたのもあるかもね」

 話しかけてくれるのも、故郷に興味を持ってくれるのもうれしい。
 けれど……

「そう。……じゃあ、これで用は終りね」
「どうもありがとう。またリクエストしたい料理を思い出したら、名前を教えてくださいね」
「私にはかかわらないほうがいいと言ったはずですが」
「ええ、聞いたわ。魔法の系列のことも。けど、私は気にしないわ。あ、もしかしてあなたのほうが何か言われたりするの? だったら控えるけど」
「別に……陰口を言うような弱虫は、陰口以外のことはできないですから」
「ふふっ。強いのね」

 強くなんかないけれど……
 そう思わないと、やってられない。

「けれど、拒絶しているだけじゃ何も変わらないわ」
「変わる必要があるかしら?」
「変わってみたら、面白いことがあったりするのよ」

 私が変わっても、周りは変わらない。
 勝手におびえて離れていく。

「そう。覚えておくわ」
「ええ、覚えといてね」

 きっと彼女は本当にそう思っているのだろう。
 拒絶されることなんか経験したことがない幸せな人。

 ……少し、妬ましくさえ思う。
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