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●もしかしたら
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髪を小さくまとめ、粘土人形に入れる。
たどたどしくもゴーレムとなり動き始めた。
「まぁ、すごい。すごいわ! エリヴィラさんの魔法はこんなことができるの!?」
がばっと机にかじりつき、ゴーレムを眺める姿はまるでおもちゃを目の前にした子供みたい。
机の高さに目線を置き、顔を動かしていろんな角度から観察。
……もう少し丁寧に作ればよかった、かも。
「ええ、古来はネクロマンシーを源流とする呪いです」
「でも、この子は死体じゃないわよね?」
ネクロマンシーを死体を操る術と知りながら、恐れることはない。
それどころか余計に興味を持ったようで、残った粘土を指で突いて確認する。
「私の家系にはゴーレム術として伝わっています」
「ゴーレム。この小さい子ゴーレムなのね」
呪いを解く魔法を持つ彼女。
呪いの情報を集めるために、私に近づいているの?
……だったらいくらでも教えてあげるわ。
どうせ少し調べたら分かること。
それで怖がるでも、利用価値がないと離れるでも好きなようにすればいい。
「自分の髪を入れた無生物を操れます」
「すごいのねー。もっと大きなものも作れたりするの?」
「使う髪を増やせば」
「髪に魔力が宿るのね」
「いえ、魔力は別に込めます。髪は私とゴーレムをつなぐ道具です。髪だけあっても何もできない」
「あら、そうなの」
ゴーレムを見るために顔を傾けすぎて乱れた前髪をさっと払うと、それだけでゆるくうねったウェーブのひと塊になる。
「あなたの髪がきれいなのは魔力が宿っているからなのかと思ったのだけど、そうじゃなかったのね。あ、そうだ、髪結いなおす? 三つ編みぐらいなら私にもできるわ」
「え? なにをっ」
差し出された手を避けた。
髪の採取!?
「ごめんなさい。髪を触られるの嫌だった? そうよね、急にごめんなさい。よくなかったわね」
「……気持ちが悪くないの?」
そこまでして、研究材料が欲しいの?
他の子たちは、絶対に触ったりしないのに。
「気持ち悪い? ぜんぜん、そんなにきれいな髪、気持ち悪いなんてありえないわ」
「……珍しい人ね、あなた」
「けど」
「なに?」
「せっかくきれいな髪なんだから、もっと違う髪型にしてもいいんじゃないかしら? おろした髪も素敵よ」
「……下ろしていると、髪が落ちるかもしれないですから」
別に髪を取られたってどうにかなるわけじゃない。
髪のことは研究されつくしていて、術者とゴーレムをつなぐものでしかないとされている。
それでも、髪を取られるのは気持ちが悪い。
「ああ。それできつく編んでるのね」
「じゃあ、しっかりきつめに編むわね!」
「でもっ」
「粘土で手が汚れてるでしょ? こんな時は助け合いよ」
「あらかじめ濡れタオルは用意してありますから」
「じゃあ、手を拭いてなさいな。私は髪を編むわ」
「………」
ひどく強引だ。
この人、普段はおっとりとにこにこしながら、みんなを眺めているのに。
……そこまで採取がしたいなら、もう好きにすればいい。
呪いの家系だと敬遠されるよりは……まだ研究材料とされている
方がましだ。
それで、何の結果も出ずにがっかりすればいいなんて、意地悪な思いもある。
「本当にきれいな髪ねぇ」
「そう……ですか」
「ええ」
レティシアさんはお世辞を言いながら手櫛で髪を梳き、髪を編み始める。
私はその間に、ことさらゆっくりと丁寧に手をぬぐう。
打算あってのこととわかってはいても、髪を編んでもらうなんてずいぶんと久しぶり。
少し浮かれてしまって、机の上のゴーレムの動きも同じく浮かれている。
「ねぇ、エリヴィラさん、そのゴーレム術って、自分が作ったもの以外の人形でもできるの?」
「ものによりますけど」
あれこれ探りを入れられるが、割り切ってしまえば会話を楽しむ余裕もできる。
……こんなにたくさんしゃべるのも、久しぶり。
「例えば、ドールとか!」
……人形をゴーレムにすることについては……トラウマがある。
「できるけれど……おすすめはしません」
「どうして?」
「私もお人形は好きなので……一度同じことを考えて実行してみたことがあるんですが」
「ええ」
「……動かすことはできたのですが……まったく表情を変えずに動く様子がとても怖くて」
「あら」
「しばらく人形に触れなくなりました」
「ふふっ」
「何がおかしいんですか?」
この人は、本当に楽しそうに笑う。
溶けるように笑う……って言葉がぴったりだ。
緩む、と言えばだらしがなく聞こえるけれど、そうではなくて……
まるで自分が、きれいな花や子猫にでもなったかのように思えるような……
「ごめんなさい。怖いのはわかるんだけど、おかしくて」
「う、動いているのを見たら、笑ってなんかいられないですよ! 本当に怖いんですから!」
「わかってるわ」
「本当ですよっ。今度見せましょうか!?」
「ふふふっ。遠慮するわ。怖いもの」
笑いながらレティシアさんはリボンで髪を縛り、
「はい。これでいいかしら?」
「どうもありがとう」
「さて、私は自分の課題をしないと」
ぱんぱんと手をはたいて、机に置きっぱなしだった箱を手に取る。
……はたいて?
髪を採取した形跡がない。
よっぽど、スリとか手品とかに長けていたら、ばれないように採取することもできるだろうけど、この人にそれができるの?
まさか、この人は……
たどたどしくもゴーレムとなり動き始めた。
「まぁ、すごい。すごいわ! エリヴィラさんの魔法はこんなことができるの!?」
がばっと机にかじりつき、ゴーレムを眺める姿はまるでおもちゃを目の前にした子供みたい。
机の高さに目線を置き、顔を動かしていろんな角度から観察。
……もう少し丁寧に作ればよかった、かも。
「ええ、古来はネクロマンシーを源流とする呪いです」
「でも、この子は死体じゃないわよね?」
ネクロマンシーを死体を操る術と知りながら、恐れることはない。
それどころか余計に興味を持ったようで、残った粘土を指で突いて確認する。
「私の家系にはゴーレム術として伝わっています」
「ゴーレム。この小さい子ゴーレムなのね」
呪いを解く魔法を持つ彼女。
呪いの情報を集めるために、私に近づいているの?
……だったらいくらでも教えてあげるわ。
どうせ少し調べたら分かること。
それで怖がるでも、利用価値がないと離れるでも好きなようにすればいい。
「自分の髪を入れた無生物を操れます」
「すごいのねー。もっと大きなものも作れたりするの?」
「使う髪を増やせば」
「髪に魔力が宿るのね」
「いえ、魔力は別に込めます。髪は私とゴーレムをつなぐ道具です。髪だけあっても何もできない」
「あら、そうなの」
ゴーレムを見るために顔を傾けすぎて乱れた前髪をさっと払うと、それだけでゆるくうねったウェーブのひと塊になる。
「あなたの髪がきれいなのは魔力が宿っているからなのかと思ったのだけど、そうじゃなかったのね。あ、そうだ、髪結いなおす? 三つ編みぐらいなら私にもできるわ」
「え? なにをっ」
差し出された手を避けた。
髪の採取!?
「ごめんなさい。髪を触られるの嫌だった? そうよね、急にごめんなさい。よくなかったわね」
「……気持ちが悪くないの?」
そこまでして、研究材料が欲しいの?
他の子たちは、絶対に触ったりしないのに。
「気持ち悪い? ぜんぜん、そんなにきれいな髪、気持ち悪いなんてありえないわ」
「……珍しい人ね、あなた」
「けど」
「なに?」
「せっかくきれいな髪なんだから、もっと違う髪型にしてもいいんじゃないかしら? おろした髪も素敵よ」
「……下ろしていると、髪が落ちるかもしれないですから」
別に髪を取られたってどうにかなるわけじゃない。
髪のことは研究されつくしていて、術者とゴーレムをつなぐものでしかないとされている。
それでも、髪を取られるのは気持ちが悪い。
「ああ。それできつく編んでるのね」
「じゃあ、しっかりきつめに編むわね!」
「でもっ」
「粘土で手が汚れてるでしょ? こんな時は助け合いよ」
「あらかじめ濡れタオルは用意してありますから」
「じゃあ、手を拭いてなさいな。私は髪を編むわ」
「………」
ひどく強引だ。
この人、普段はおっとりとにこにこしながら、みんなを眺めているのに。
……そこまで採取がしたいなら、もう好きにすればいい。
呪いの家系だと敬遠されるよりは……まだ研究材料とされている
方がましだ。
それで、何の結果も出ずにがっかりすればいいなんて、意地悪な思いもある。
「本当にきれいな髪ねぇ」
「そう……ですか」
「ええ」
レティシアさんはお世辞を言いながら手櫛で髪を梳き、髪を編み始める。
私はその間に、ことさらゆっくりと丁寧に手をぬぐう。
打算あってのこととわかってはいても、髪を編んでもらうなんてずいぶんと久しぶり。
少し浮かれてしまって、机の上のゴーレムの動きも同じく浮かれている。
「ねぇ、エリヴィラさん、そのゴーレム術って、自分が作ったもの以外の人形でもできるの?」
「ものによりますけど」
あれこれ探りを入れられるが、割り切ってしまえば会話を楽しむ余裕もできる。
……こんなにたくさんしゃべるのも、久しぶり。
「例えば、ドールとか!」
……人形をゴーレムにすることについては……トラウマがある。
「できるけれど……おすすめはしません」
「どうして?」
「私もお人形は好きなので……一度同じことを考えて実行してみたことがあるんですが」
「ええ」
「……動かすことはできたのですが……まったく表情を変えずに動く様子がとても怖くて」
「あら」
「しばらく人形に触れなくなりました」
「ふふっ」
「何がおかしいんですか?」
この人は、本当に楽しそうに笑う。
溶けるように笑う……って言葉がぴったりだ。
緩む、と言えばだらしがなく聞こえるけれど、そうではなくて……
まるで自分が、きれいな花や子猫にでもなったかのように思えるような……
「ごめんなさい。怖いのはわかるんだけど、おかしくて」
「う、動いているのを見たら、笑ってなんかいられないですよ! 本当に怖いんですから!」
「わかってるわ」
「本当ですよっ。今度見せましょうか!?」
「ふふふっ。遠慮するわ。怖いもの」
笑いながらレティシアさんはリボンで髪を縛り、
「はい。これでいいかしら?」
「どうもありがとう」
「さて、私は自分の課題をしないと」
ぱんぱんと手をはたいて、机に置きっぱなしだった箱を手に取る。
……はたいて?
髪を採取した形跡がない。
よっぽど、スリとか手品とかに長けていたら、ばれないように採取することもできるだろうけど、この人にそれができるの?
まさか、この人は……
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