【R18/TL】ハイスペックな元彼は私を捉えて離さない

春野カノン

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その笑顔の裏側には(3)

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足早に自室を出てロビーへ向かうとやはり2人はもう来ていて、横山くんが私に向かって小さく手を振ってくれた。
それに応えるように私も手を振り返す。


ロビーに立つ笠井さんと横山くんはスーツを脱いでおり、ラフなシャツやパンツを身にまとっていた。
私も笠井さんにラフな服装で来い、と言われていたためシャツとデニムという格好に着替えている。


「すみません、お待たせしました」

「さ、肉を食べに行くぞ」

「え、お肉?」

「横山が調べてくれたんだよ。美味しそうな焼肉屋さんがあるって」

「だからラフな格好って言ってたんですね」

「焼肉臭くなったら明日困りますからね」


3人でホテルを出て向かったのは美味しそうな匂いの漂う焼肉屋さんだった。
お昼は配給されたお弁当だったため、お腹が空いている。


お店の中に入るとより焼肉のいい匂いが鼻腔をくすぐり、お腹がぐーっと鳴った。
今ならどれだけでもお肉が食べられそうだ。


「経費で落とすからいっぱい食べろー。横山も遠慮するなよ」

「僕今日はたくさん食べるつもりです。そして飲むつもりです!付き合いますよ笠井さん」

「まじか付き合ってくれるのか嬉しいなぁ」


なぜか横山くんと笠井さんが仲良くなっている。
一体この短時間に何があったというのだろうか。


席に着いた私たちは早速さまざまなお肉を注文した。
2人は生ビールを頼んでおり、私は烏龍茶を頼んだ。


次々と運び込まれてくるお肉たちはどれもとても美味しそうで、ヨダレが垂れてくる。
トングを片手に笠井さんと横山くんがどんどんお肉を網の上に置いていった。


「焼けたぞ。百瀬、さっさと食べろ。今が1番美味しいタイミングなんだ」

「はい。ありがとうございます」

「百瀬さんこっちも焼けましたよ。早く食べないとどんどん溜まってっちゃいます」

「あ、はい。急いで食べます」


甲斐甲斐しく世話を焼かれている気がする。
私の取り皿にはどんどん焼かれたお肉のストックが溜まっていった。


2人に甘えて私はひたすら食べることに徹するが、どのお肉も口に入れた瞬間に溶けるようになくなっていく。
お肉を食べるだけでこんなに幸せになるなんてお肉は偉大だ。


「ん~美味しい!お肉焼いてもらってるから余計に美味しいです」

「おーさっさと食べろーどんどん焼くぞ」

「⋯⋯今日はすみませんでした。父があんな失礼な態度を」


トングでお肉を焼きながら視線を落とす横山くん。
申し訳なさそうに八の字に眉がひそめられており、どこか寂しそうだった。


「俺は徹底的にやり合うつもりだぞ横山」

「え⋯⋯」

「あんなこと言われて黙ってるほどうちの会社は腐ってねぇ。横山を辞めさせなんてしないし、何があっても俺たちが守ってやるから安心しろ」

「あの人は本当に僕を辞めさせようとしてきます。1度決めたら最後までどんな手を使ってもやる人です」

「だから言ったろ?ドンと来いってな」


箸でお肉を掴んだ笠井さんはそれを口に運び、生ビールをそのまま流し込んだ。
美味しそうに食べる姿を見ていると、さっきまでの重苦しい空気が嘘のように感じる。


それは横山くんも同じようでどこか拍子抜けしたように目をぱちくりとさせて驚いていた。
話を聞いていると本当に笠井さんには適わないと思う。


「まぁ、四ノ宮もちゃんと分かってここに横山を送り込んだしな。あいつもあいつで準備を整えてるさ」

「理玖くんが⋯?」

「当たり前だろ。四ノ宮は横山の直属の上司だぞ」


そんなセリフを聞いてここにいない理玖くんがちゃんと上司として部下のために働いてくれているのが分かって誇らしく思えた。
私の上司たちはなんて心強いんだろう。


「だから横山さんのことは安心しろ。大丈夫だ」

「⋯⋯笠井さん、ありがとうございます。どこまでもついていきます!」

「ついて行くのは俺じゃねぇだろ。横山の直属の上司は四ノ宮だ」


笠井さんと横山くんはどんどんお肉を焼いてくれて、それを3人でどんどん食べ進めていく。
2人のお酒を飲む手は全く衰えることなく進んでいくものの、意外と横山くんもお酒が強いのか全く酔っ払わないようだ。


笠井さんのペースに合わせて飲み進められるなんて、こんな可愛らしい顔をしておきながら酒豪さに驚かされる。
私はそんなに2人を眺めながら美味しいお肉をいただいた。


「あ、横山さんの話は一旦置いておいて、あの安井って女には気をつけろ」

「それはどういう意味です?」

「そのまんまの意味だ。あいつには注意しておけ」


思わず横山くんと顔を見合わせてしまう。
笠井さんは安井さんのことを元々知っているのだろうか。


顔色を変えずにお酒を飲みながらお肉を食べ続ける笠井さんの真意は読み取れない。
私も横山くんもその言葉の意味を分からずにいた。


「特に百瀬、あの女には近づくなよ。分かったな?」

「はい⋯?分かりました⋯⋯」


その言葉の意味を知ることになるのは思いのほかすぐやって来るのだった───。
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