【R18/TL】ハイスペックな元彼は私を捉えて離さない

春野カノン

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知らなかった時間を知る者(2)

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その言葉を聞いて私の頭にはある日の記憶がフラッシュバックしてきた。
それは当時の私の心に影を落とすには十分だった、理玖くんの電話の向こうから聞こえた女性の声。


電話越しでも分かる、好意を向けている猫なで声のようなその女性の声を私の耳は今でも覚えていた。
直感的に安井さんが、あの日の女性の主であると感じ取る。


ドクドクと心臓が嫌な感じに暴れだし、呼吸が上手くできない。
私が理玖くんの彼女だと知っているのだろうか。


「当時から四ノ宮くんは優秀でした。仕事もできるし誰にでも優しいし、更にはあの顔立ちですもんね。かなりモテてましたよ」

「そ、そうでしたか」

「私、四ノ宮くんとは少し仲良くさせてもらってたんです。たまに2人で飲みに行ったりもしたんですよ。彼は優しいから家まで送ってくれたりもしました」


次々と出てくる私の知らない理玖くんの話に、直感的に聞きたくないと思った。
振ったのは私からだし、私が知らない間の理玖くんがいることは分かっていたつもりだ。


都合がいいことも分かっているが、私の知らない間の女性関係の話なんて聞きたくもない。
もちろん私と別れてから理玖くんがそういう関係の女性はいなかったと言う言葉を信じているが、やっぱり聞いていていいもんじゃなかった。


(聞きたくないな⋯⋯)


安井さんの顔を見ることが出来ず俯いていると、頭上でクスッと笑われる。
表情を見ていなくてもそれがあまりいい意味での笑いじゃないことくらい分かった。


「ねぇ百瀬さん」

「⋯⋯はい」


名前を呼ばれたため渋々顔を上げると、勝ち誇ったように笑う安井さんと目が合った。
この視線を私は知っている。


大学生の頃に何度も向けられたことがある、嫉妬や憎しみ、そしてほんの少しの羨望が混ざった居心地の悪い視線。
やっぱり安井さんは理玖くんのことが好きなんだ。


きっとそれは昔からで今も変わっていないんだろう。
純粋に恋する女性の1人である安井さんを変えたのはきっと振り向いてくれないことへの苛立ちや、理玖くんが愛を向ける女性に対する憎しみなどからだ。


耳元に唇を寄せてきたと思えば、安井さんは挑発的に囁いた。
その言葉は私への宣戦布告にも取れる。


「私は、あなたの知らない時間の彼を知ってるわ」

「っ!!!」


そのセリフを聞いてハッキリと分かった。
安井さんは当時付き合っていた彼女が私であることを知っていると。


知っていてあえてこの話をしていたんだと分かった。
得意気にニヤッと口角を上げて笑う姿はとても綺麗だが、威圧的で思わずゴクッと生唾を飲み込む。


「四ノ宮くん、あの時からあなたに心酔してたけど、大した子じゃないのね」

「⋯⋯⋯」


安井さんの言葉に私は何も言い返せなかった。
確かに彼女に比べたら私は普通だ。


こんなに綺麗な人でもないし、傍から見れば理玖くんの隣を歩く人は安井さんみたいな人の方が相応しいのかもしれない。
それでも振った私をいつまでも好きできてくれてずっと想ってくれてたのは紛れもない真実で変わらない現実だ。


それが私の心の支えとなっていて、言葉は返せずとも真っ直ぐ見つめるその視線を逸らさないでいられた。
ぐっと拳を握り締め、いろんな感情を押し留める。


「四ノ宮くんを振ったのも驚きだし、振られても尚ずっと好きでいるほどの子だとは思えないし、どういう手を使ったのかしら?」

「⋯私は何もしてません」

「まさか、セックスがすごいとか?」


嘲笑うようにそう言われて思わずカッとなった。
いくらなんでも失礼すぎる。


「どっちでもいいわ。私ね、四ノ宮くんの事が好きなの。彼の隣には私の方が相応しいと思う」

「⋯⋯」

「どんな手を使っても彼を手に入れる」

「⋯⋯理玖くんは私の彼氏です。あなたが入る隙間はないと思います」

「元鞘に戻ったわけね⋯イラッとするわ。自慢?調子乗らないでくれる?」


不機嫌そうにそう呟いた安井さんは私に向けて手を挙げた。
ぶたれると思いギュッと目を瞑るがいつまで経っても衝撃は来ない。


ゆっくりと目を開けると安井さんの手を掴む笠井さんの姿があった。
ここに笠井さんが現れるとは思っていなかったのか、安井さんはバツが悪そうに勢いよく手を引く。


「遅いと思って様子見に来てみたらやっぱこんな事だろうかと思ったよ」

「笠井さん⋯!」

「大丈夫かよ。何もされてねぇか?」

「はい。大丈夫です⋯」

「うちの可愛い後輩に何してくれてるんすかね。そんなんだから理玖が振り向いてくれねぇんだろ」

「なっ⋯!!」


笠井さんは元々安井さんのことを知っているのだろうか。
なんとなくそのセリフからそんな事を想像させた。


安井さんから守るように間に入って盾になってくれる笠井さん。
1人じゃないことにすごく安心する。


「さっさとあんたの上司のとこ戻った方がいいんじゃねぇの」

「ふっ⋯四ノ宮くんだけじゃ足りなくて別の男にも取り入ってるのね。随分ビッチじゃない」

「あーうぜぇそういうのじゃねぇよ。百瀬は俺の後輩だ。大事な後輩を守ることくらい先輩として当たり前なんだよ」

「いいわ、私は諦めない。必ずあなたから奪ってみせる」

「百瀬に手を出したら理玖だけじゃねぇ。俺だって許さねぇからな」


ふっと余裕そうに笑みを浮かべて颯爽と去っていくその姿を笠井さんと一緒に見つめる。
その背中が見えなくなると笠井さんは私の方に身体を向け屈み、顔を覗き込んできた。


「悪い。来るの遅くなった」

「いえ、来てくれると思ってなかったので助かりました」

「何もされてねぇか?」

「はい。大丈夫です」


戻る前に少しだけ休憩しようと笠井さんに廊下に並べられたソファに案内されると、すぐに横山くんも合流してくれた。
心配そうに顔を覗き込む彼に大丈夫、と微笑みかける。


「あいつ、ほんとに百瀬に接触してくるとは」

「笠井さん。安井さんを知ってるんですか?」

「あぁ。四ノ宮からちょっとしつこい女がいるって話を当時聞いててな」

「まさか父の部下である安井さんが四ノ宮さんと繋がりがある方だったとは思いませんでしたね」


元々その話を聞いていたから安井さんには気をつけろと助言をしていてくれたということで話が繋がった。
笠井さんが来てくれなかったらきっと私は今頃彼女にぶたれていただろう。


それにあからさまに向けられた敵意もいい気分じゃなかった。
会社の同僚たちはみんな私と理玖くんのお付き合いを応援してくれていたため、妬まれたりするこの感覚がすごく久しぶりに感じる。


「とりあえず帰ったら四ノ宮とちゃんと話してみろ。あいつなら全部答えてくれるはずだから」

「はい」

「水でも持ってくるからここで待ってろ。横山、頼んだぞ」

「任せてください」
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