【R18/TL】ハイスペックな元彼は私を捉えて離さない

春野カノン

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執着と警告 side理玖

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月日はさらに流れ、俺たちの同棲がスタートする3月がやって来た。
既に購入した家具たちは運び込まれており、今日はこの家からの引っ越しの日だ。


朝から引っ越し業者の人たちが俺や陽葵ちゃんの部屋から次々と物を運び出していく。
どんどん家が空になっていくのを寂しく感じながらも、これから待つ生活を想像すればそれ以上に楽しみな気持ちが勝っていた。


「陽葵ちゃん。遂に俺たち隣人から同居人にランクアップだね」

「確かに。もう行き来する必要ないもんね」

「おはようからおやすみまで全部一緒なんて幸せすぎるんだけど」


一人暮らしの俺たちの部屋にそこまで大量の荷物は無いため、思ったよりも早く引っ越しは終わりそうだ。
それぞれの家から運び出されていくその様子をジーッと見つめる。


何気なく圭哉が言った言葉で俺の引っ越しは決まった。
元々圭哉から陽葵ちゃんの名前を聞いていたがまさか彼女の隣の部屋が空いているなんて運命だろうか。


俺は内見することなく速攻契約をした。
そんな部屋に1年住むことなく引っ越すことになるが後悔は全くない。


これからは陽葵ちゃんと一緒に決めた部屋で陽葵ちゃんと一緒に考えた家具や空間の中で生きていくんだ。
どれだけ夢見た瞬間だったかきっと陽葵ちゃんは俺の想いに気づいていないだろう。


汚れてもいいようなトレーナーにデニムを合わせたいつもとは違うかなりラフな姿の陽葵ちゃんの横顔を見つめた。
何を思っているのか陽葵ちゃんは遠くを見ながら、その口角はほんのり上がっている。


「この部屋に理玖くんが来てくれたから私はまた会えたんだと思うと、隣人になってくれたことが運命だったね」

「まぁそこ考えると俺たちがまた会えたのは圭哉のおかげかもしれないね」

「そういえば笠井さんが教えてくれたんだもんね。私の隣の部屋が空いてるって」

「そう。なんだかんだ俺たちのキューピットかも」


陽葵ちゃんと別れてから彼女と連絡を取る方法は何もなかった。
連絡先も陽葵ちゃんは全部ブロックしていたようだし、こちらから連絡を取ろうとしても方法がなく途方に暮れていた。


陽葵ちゃんがどんな会社に入社したのかも知らず、手掛かりひとつない中でも諦められずにずっと陽葵ちゃんを思って過ごしていたことを思い出す。
そんなタイミングで圭哉の口から出たその名前は、唯一の手がかりで前のめりになることを必死に抑えて陽葵ちゃんの情報を求めていた。


どうやらそれに圭哉は気づいていたみたいだけど。
それでももう1度陽葵ちゃんと出会えたのなら結果オーライだ。


「陽葵ちゃんのご両親も太陽さんも同棲を了承してくれたから安心したよ」

「まさか理玖くんが同棲の挨拶したいなんて言うとは思わなかった」

「え?だって大事な陽葵ちゃんと同棲するんだよ?こういうのはしっかりしないと」

「さすが年上」

「からかわないの~。それに俺、陽葵ちゃんのご両親や太陽さんたちと末永くお付き合いしたいと思ってるからね」


陽葵ちゃんとはこの先の未来をずっと一緒に歩いていきたいと思っている。
それが遠回しにも伝わったのか陽葵ちゃんは頬を赤く染めていた。


(多少は意識してくれるといいんだけど⋯⋯)


陽葵ちゃんのご両親に反対される可能性だって考えていたが思いのほか、2人は快く受け入れてくれた。
お母さんはと言うと陽葵ちゃんに似た綺麗な顔でよろしくね~と笑顔を見せてくれた。


さすがのお父さんは一人娘だしあれだけ可愛がって育ててきた陽葵ちゃんを同棲させることに反対するかと思ったが全くそんなことはなかった。
お父さんが言った言葉はたった一つ。


泣かせないでくれ、それだけだった。
以前に会った時もその言葉を掛けてくれたが、お父さんがくれたその言葉が俺にとっての1つの決意になる。


太陽さんもまた陽葵ちゃんへの溺愛ぶりを発揮していた。
陽葵ちゃんに会いにいつでも来てくださいと伝えると太陽さんは嬉しそうに笑っていた。


「相手が理玖くんだからお父さんたちはあんなに快く受け入れてくれたんだと思う」

「そうなの?」

「だって理玖くんすごく人として魅力的だから。その人の良さとか真剣さとか真っ直ぐさがちゃんと伝わってるんだと思うよ」


陽葵ちゃんたちの家族は陽葵ちゃんを心から大切に想い、過保護なほど溺愛している。
それはどことなく俺が陽葵ちゃんへ向ける愛情と似ていて、それがもしかしたら伝わったのかもしれない。


「これからは2人で、一緒に頑張ろう」

「うん。2人で、ね!」


そんなことを話しているとあっという間にお互いの部屋はすっからかんとなった。
家具やカーテンなども一切なく、入居当初のまっさらな状態だ。


長く住んだわけではないが思い入れも多少ある。
死ぬほど嫉妬した時もあったし、復縁して初めて陽葵ちゃんを抱いたのもこの部屋だ。


そんな部屋とも今日でおさらばで、新しい生活が俺たちを待っている。
最後に忘れ物がないかなどを確認した俺たちは扉を閉めてお世話になった部屋に別れを告げた。


陽葵ちゃんと2人でマンションを去ろうと歩き出したと同時に俺たちの前に1人の男が現れる。
切れ長の目元と黒髪が特徴的なその人物は陽葵ちゃんを見て目を見開き、一瞬だけ眉をひそめた。


視線を向けられている陽葵ちゃんを見ると少し脅えたように眉を八の字にさせ、1歩後ずさる。
俺自身も一瞬見ただけだが忘れるはずのないこの人物。


彼は1度は陽葵ちゃんが愛した、元彼だ。
なぜこんなところにその元彼がいるのか。


それは陽葵ちゃんも同じことを思っているようで、ただ困惑した表情を浮かべている。
元彼から守るように陽葵ちゃんを背中に隠すと、あからさまにその男は不快そうに眉間のシワを濃くさせた。


「陽葵。引っ越すの?」


大好きな彼女の名前を呼ばれたことが気に入らないし、ましてや呼び捨てなんてもっと気分が悪い。
その声音からは未だに陽葵ちゃんを想っているような優しさや甘さを感じる。


「関係ないでしょ。もう来ないでって言ったよね」

「なんで引っ越すんだよ。そいつ隣に住んでた男だろ?なんで一緒に⋯⋯」

「俺が陽葵ちゃんの彼氏だからです」


なるべく感情が表に出ないように心を落ち着かせて対峙する。
元彼はという言葉を聞いた瞬間、絶望したように一瞬だけ悲しそうな顔をしたかと思えば、すぐに怒りや嫉妬のような感情を顕にした。


好きだという感情がいつの間にか執着に変わり、未だに忘れられないその想いは傷となりこうして陽葵ちゃんの前に姿を表したんだろう。
もう前に進んでいる陽葵ちゃんなのにまた傷をえぐるような行為はやめてほしかった。


「俺と別れて今度は隣人と付き合ってるのか」

「⋯⋯関係ないのに口挟まないで」

「なんでだよ。別れたこと俺はまだ納得してない」

「もう終わったの!あの日、浮気した時点で全部私たちは終わったの!だから帰って。もう2度と来ないで」


俺の後ろでギュッと服を掴みながら訴える彼女の不安がその指先から伝わってくる。
別れた相手が何度も訪れたらそれは怖いだろう。


俺は陽葵ちゃんに向き直ると頬にそっと触れて自分の方を向かせた。
不安そうに眉は歪められ、涙が滲んでいるのか目元は潤んでいる。
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