【R18/TL】ハイスペックな元彼は私を捉えて離さない

春野カノン

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想定していた最悪(2)

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「俺たちは人為的にウイルス感染させられたと思ってます」

「⋯っ!」

「そもそもウイルスバスターも入れてますし、うちの会社が1番気をつけているのがウイルスです。簡単に感染するはずがない。それにこの事実は俺たち4人しか知らないはずなのにどこからか漏れた。それもこんなすぐに」

「⋯⋯⋯」

「明らかに測ったかのようなタイミングです。その部分を明確にしない限り、責任を負うのは待っていただきたい」


1歩も引かずに話し切った笠井さんはすごくかっこいい。
横山くんも安心したように小さく微笑んでいた。


逆に横山さんは不機嫌そうに表情を歪めている。
その表情の奥には何か隠されている気がしてならない。


「そういうことなので、いいですよね?横山さん」

「⋯いいだろう。好きに調べるがいい。だがスケジュール的にもそこまで待てないぞ」

「えぇ。すぐに終わらせますよこんなくだらないこと」


強気な発言に横山さんの眉間のシワはますます濃くなった。
明らかに不機嫌そうな表情を隠すことなく見せている。


一足先に会議室を出ていく横山さんの背中を見つめていると立ち上がった安井さんが私の元にやって来た。
その顔はとても心配そうに心からこの現状を嘆いているように見える。


「そんなに気を落とさないでください百瀬さん。なんとかなりますよ」

「⋯⋯はい」


どういうつもりでそう言ってくれているのかその言葉だけでは分からなかった。
こういうことが起きている以上、安井さんだって容疑者の1人だ。


疑いたくなんてないのに、心のどこかであんな一件もあったため疑り深くなってしまう自分が嫌になる。
そのまま会議室を全員出ていこうと立ち上がり歩き出すと吉岡さんに小さな声で呼び止められた。


「どうしました?」

「あの⋯大丈夫ですか?データ消去のこと」

「はい。ちゃんと調べようと思ってるので大丈夫です」

「もちろん、俺のことも疑っているのかもしれないですけど、何か出来ることがあればいつでも言ってくださいね」

「疑ってなんて⋯⋯!」

「正直な人だあなたは」


フワッと吉岡さんが笑ったかと思えば、それとほぼ同時に私の肩は誰かに抱き寄せられそのまま何かにぶつかった。
私を抱き寄せた人物は理玖くんで、引き寄せられた反動で胸板に身体を預ける。


理玖くんのほんのり甘い香りに包まれてとても安心してしまった。
肩に乗る指先から理玖くんの熱が伝わってくる。


「うちのエンジニアになんの用です?」

「⋯いえ、なんでもないです」

「調査結果が出るまでは残念だけど君も容疑者の1人なので、必要以上に踏み込まないでいただきたい」


思ったよりも厳しい理玖くんの言葉に私は思わず彼の顔を見上げる。
だけど理玖くんはとても真剣に吉岡さんを見つめていて冗談を言っているようには思えなかった。


吉岡さんは私たちに一礼すると足早に去っていく。
その背中を見つめて私は思わず理玖くんの手を掴んでその顔を見上げた。


「どうしたの?」

「どうしたの?じゃないよ。さっきの言い方は何?吉岡さんに失礼じゃないかな」

「⋯⋯誰がやったか分からない現状で必要以上に関わるのは避けるべきでしょ?彼だって関わってないなんて証明できないんだから」

「そうだけど⋯⋯」

「さて、仕事に戻るよ陽葵ちゃん」

「待って、まだ話は⋯⋯」

「続きは帰ってから。今は調べることが先決だよ」


理玖くんはそれ以上話を聞くつもりが今は無いのかゆっくりと歩き出す。
さっきの言い方が引っかかるものの、確かに理玖くんの言う通り調べることを優先させるべきだ。


私たちはその後、会話をすることなく仕事を終えた。
帰りは一緒の時間となったため2人で帰るが、その時の理玖くんはいつもと変わらず優しい。


だけど私は先程の理玖くんの少しだけ冷たい言葉が気になってならなかった。
家に着いたらちゃんと聞こう、そう思い私は絡められた指に力を加える。


***


お風呂を入り終えた私たちはお気に入りのソファに座ってテレビを見ていた。
テーブルには理玖くんが入れてくれたカフェオレがマグカップに注がれている。


理玖くんはぴったりと私にくっつくように肩が触れ合う距離感に座っているため、体温が溶け合っていた。
話すなら今のタイミングしかないと思い、私は理玖くんの方に視線を向ける。


「あの理玖くん。聞きたいことがあるんだけど」

「⋯⋯吉岡さんへの態度のこと?」

「あ、うん。さっきの言い方は冷たくなかった?」

「⋯⋯⋯」

「吉岡さん、自分が疑われていることも知った上で心配してくれただけだよ。そんな人にあの言い方はちょっと失礼じゃないかな?」


理玖くんは私を見つめたまま黙り込んでしまった。
ほんの一瞬、少しだけ悲しそうな表情を浮かべられた気がしたがすぐにいつもの理玖くんの表情に戻る。


「陽葵ちゃん。吉岡さんには気をつけて」

「どういうこと?」

「⋯何考えてるか分からないから、気をつけて欲しいんだ」

「吉岡さんはいい人だよ?ずっとチームで仕事してきたけどいつも真剣に取り組んでくれてた」

「うん、分かってる。でもそれが本心かは分からないでしょ?」


理玖くんが理由もなくこんなこと言うとは思えない。
だけど私もまた、数ヶ月間という短い期間だが一緒に仕事をしてきているため理玖くんよりは吉岡さんと過ごす時間が長いつもりだ。


近くで仕事をしている姿を見ていたが、あれが嘘だったとしたら主演男優賞をプレゼントしたい。
確かに少し熱心すぎるところはあったかもしれないが、それ以外はとても真剣に取り組んでくれていたと思う。


「でも、理玖くんはあまり吉岡さんと話してないでしょ?」

「確かにその通りだね」

「あまり知らないのにそんなふうに言うのは吉岡さんに失礼じゃないかな」

「⋯⋯陽葵ちゃんの方があの人を知ってるって言いたいの?」

「そういうわけじゃないけど⋯⋯」

「俺は吉岡さんも横山さんも、安井さんも全員疑ってる。だから全員白だって分かるまであまり関わらないでほしいんだよ」


こんなに理玖くんが引かないのは初めてかもしれない。
いつも私の意見を大事にしてくれるのに、今回は全然引いてくれない。


「ね、お願い。俺の言うこと、聞いてくれない?」

「⋯⋯⋯うん。分かった」

「ん、ありがとう」


そう言って理玖くんは私の首元にそっと手を添えた。
そのまま流れるように自分の方へ顔を向かせて顎をすくいあげる。


ゆっくりと顔が近づいてくると同時にキスされることが分かったが、私は咄嗟に顔を背けてしまった。
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