91 / 107
第三章︙聖国、地下帝国編
異形なる魔獣2 レオンSIDE
しおりを挟む「逃げろっ!!」
なりふり構わない俺の怒鳴り声に我に返った冒険者達は、死に物狂いで来た道を引き返した。
「アレクさん……」
「分かってる。アレを打ち倒そうなんて塵ほども考えてないからな。考えられるわけがない」
緊迫した表情でハルバードを握り締めるアレクさんは、目を爛々とさせながらも指先は震えていた。
どうせ俺たちが逃げられる状況じゃない。追いつかれて全滅するのが関の山だ。
だったら方法はひとつ。
俺達でこの魔物を食い止めるしかない。
少なくとも、フレイ様たちが到着するまでなんとか持ち堪えられればいい。
「俺が視線を引きつけます。………気配がバレないようにさりげなく援護してください」
俺の言葉にアレクさんは素早く後退し、俺は前に突進してヒュドラへと飛び掛かった。
九つの首が一斉に俺の方を向き、口をパカッと開けた。
数々の魔法が俺に向かって吐き散らされるが、大きく身を躱し回避。
俺はヒュドラの右上にジャンプして即座にひとつの頭を切り落とそうとした。
………硬い。
外皮が、鱗があまりに硬く強靭過ぎて、俺の剣が弾き飛ばされる。
衝撃で手から離れそうになる剣を無理矢理指で抑え込みながら、俺は一旦距離を離す。
ギョロリと向く九つの頭に取り付けられた目が、紅く輝いて俺を貫いた。
途端に俺の周りにある全てのものが石化し崩壊していく。
そして何故か俺自身は石化されなかった。
ヒュドラが石化能力を使うのに制限や条件があるとは到底思えない。
あんなに乱発していたし、現に俺以外の周りの冒険者達を石化することに成功している。
つまり、俺に何かしらの抵抗力………力が働いていて、石化されないと思うのが妥当だろう。
「ヒュドラ………確か弱点は炎だったよな?」
神話によると、九つの首を同時に切り落とし神の炎により焼き尽くされたと記されているけど、つまりあの首を纏めて切り落とせばいいってことだ。
後はフレイ様の炎で焼き尽くせばなんとか……。
正直言って打ち勝つ道筋がまるで見えないこの状況、この首を纏めて切り落とす方法は……
「………まあ考えても仕方ない。取り敢えず少し粘るか」
どうせ俺に石化攻撃は効かないんだ。
だったら嵐のように降ってくる魔法を避けながら時間稼ぎをすればいい。
アレクさんも俺が魔法に当たりそうになるとさりげなく武器を投擲して注意を逸らしてくれるし、なんとかなるだろ。
俺は剣を強く握りしめてヒュドラと一騎打ちへと持ち込んだ。
避ける、斬る、弾かれる。
何度繰り返してきたのか分からないくらいに、俺は自分の出せる最高速度で一撃離脱を繰り返す。
俺自身はまだまだ余裕だ。
この数分でへこたれるような体力はしてないし、魔法ならこんなのよりもっと凄い幼児がいたからな。
精神面でも比較的落ち着いて対処できている。
それでも俺が少し焦っている理由は、俺の手の中にあった。
俺の剣の刃に少し罅が入っている。
そりゃそうだ。
神話級の魔獣と正面から何度もぶつかり合えば、そりゃえげつない速度で摩耗することは目に見えていた。
そしてさらに数え切れないほどの高密度な魔法を防いできたことが、この罅の最もたる原因となっていた。
そもそもこの魔物の魔法を何回も打ち消すことができる剣なんて、普通そこらにあるわけないのだけど……
魔法の雷を口から吐き出すヒュドラに俺は剣を大きく振りかぶって打ち消す。
剣が一瞬純白に光り輝き、魔法を打ち消していく様には、とんでもない既視感があった。
うん。………この魔力……うん。
そういえばダイキ、よく俺の剣を持ち出して振り回していたのを覚えてる。
なんか『われのなは、けんせーなりー!!』とか言いながら剣を振り回していた………実際は剣に振り回されていたほうなんだけど、本人は剣を上手く操っているつもりだったらしいから……。
とにかく、あいつは隙あらば俺の剣を持ち出して振り回していた。
それで感情が昂って魔力が漏れたのか知らないけど……。
俺は剣を大きく振りかぶって魔法を打ち消しながら、罅の入った刀身を見つめた。
あいつは魔力の残滓だけで、目の前の神話級魔獣と互角にやりあえるほどの力がある。
もはや嫉妬すら湧かないほどの圧倒的な力に、俺はいつにもまして剣を握る手に力を込めた。
ダイキの力だろうがなんだろうが、使ってるのは俺なんだ。
それに俺だってこうして神話級の魔獣とやり合うことができてる。
この剣の耐久度的に、残り時間は少ない。
もしものことは考えるな。
その間に、戦力を半減させてやる。
「やるか」
俺は全神経を目の前のヒュドラに絞って、思いっきり地面を踏みしめて前進した。
途端に荒れ狂い飛んでくる数々の魔法を避けて、首の一つに狙いを定める。
「アレクさん!!」
死角から飛んでくる剣の数々の影に隠れながら、俺は飛んでくる剣の速度に合わせて近づいていった。
全力で、叩き潰す!
ガキーンと物凄い火花を散らせながら、俺はヒュドラの首に全身全霊の一撃を与えた。
ひとつの瞬きの間に、激しくぶつかり合い、衝撃波か撒き散らされる。
そしてふたつ目の瞬きの間に、俺の剣は粉々に砕け散った。
そして内包されていたダイキの魔力の残滓が辺りに拡散し、それは容易くヒュドラの鱗を突き抜けた。
「持ってけ!」
どこからか聞こえたアレクさんの掛け声と共に飛んできたハルバードを握りしめて、俺はダイキの魔力と俺の一撃で完全にボロボロになった鱗めがけて二回目の全力攻撃を放った。
「いけえええぇ!!」
ザシュッ、と音がしてヒュドラの首元部分にハルバードが大きく食い込んだ。
そして俺は身体全体を大きく回して、遠心力を使ってより大きな力でハルバードを振るった。
意外にも、鱗を突き抜ければ後は柔らかな肉が詰まっているだけだった。
ブシュッ、と血が大きく飛び散る音と共に首の一つが吹き飛んだ。
「やった!!」
いくら死ななくても、首を切り飛ばされたのだから弱体化くらいはするはず。
それになにより、九つの口、つまり魔法の砲台のひとつが消えたのだ。これは大きな戦果だろう。
そんな俺の喜びに、ヒュドラは痛みに悶えながらも俺を鋭い目で睨みつけてきた。
まるで、勝負はこれからだというような挑戦的な目が、俺をまっすぐに貫いた。
「………は……え?」
どす黒く光ってみるみる内に再生した首は、先程よりも一回り大きくなっていた。
俺はヒュドラにダメージなんて与えていなかった。
どうして神話級の魔獣と言われているのか。
あのダイキでさえ白色の魔獣を完全に殲滅することはできなかったんだ。
そこらの魔物とは次元が違う。
ここではない、神の世界に位置する、そんな強さを誇るのが魔獣だということを、俺はまだ理解していなかった。
斬られれば斬られるほど力を増す。
圧倒的な再生力と攻撃力。
土台が違う。生物としての壁がそこにはあった。
「は?」
呆然とする俺に、より強く、速い炎雷か飛んできた。
避けるところなんてない。
ヒュドラは完全に俺を消し飛ばすつもりで、この迷宮内五十階層全域に魔法を放ったのだ。
「させない」
誰かが動けない俺を後ろから抱え込んで蹲った直後、超高密度の魔法で視界が閃光に包まれた。
----------------
いつも読んでくださりありがとうございます!
先週更新できなくてすみませんでしたm(_ _)m
土日と続けて予定があり、どうしても更新することができなく申し訳ございません。
またこれからもいつも通りポチポチ日曜に更新していく所存ですので、どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m
139
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした
渡琉兎
ファンタジー
『第3回次世代ファンタジーカップ』にて【優秀賞】を受賞!
2024/02/21(水)1巻発売!
2024/07/22(月)2巻発売!(コミカライズ企画進行中発表!)
2024/12/16(月)3巻発売!
2025/04/14(月)4巻発売!
応援してくださった皆様、誠にありがとうございます!!
刊行情報が出たことに合わせて02/01にて改題しました!
旧題『ファンタジーを知らないおじさんの異世界スローライフ ~見た目は子供で中身は三十路のギルド専属鑑定士は、何やら規格外みたいです~』
=====
車に轢かれて死んでしまった佐鳥冬夜は、自分の死が女神の手違いだと知り涙する。
そんな女神からの提案で異世界へ転生することになったのだが、冬夜はファンタジー世界について全く知識を持たないおじさんだった。
女神から与えられるスキルも遠慮して鑑定スキルの上位ではなく、下位の鑑定眼を選択してしまう始末。
それでも冬夜は与えられた二度目の人生を、自分なりに生きていこうと転生先の世界――スフィアイズで自由を謳歌する。
※05/12(金)21:00更新時にHOTランキング1位達成!ありがとうございます!
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる