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第4話 悲しみと欲望
しおりを挟む勤務を終え、更衣室を出た瞬間、背後から声が聞こえた。
振り向くより先に、手首を掴まれ引っ張られる。
「なっ...」
白衣を脱いだ彼がいた。驚く俺にも目をくれず、手首を掴んで歩いていく。
「……ちょっと来い」
低く、拒めない響き。
胸が跳ね、喉が塞がる。断りたいのに、言葉は出なかった。
足は勝手に、彼の背を追っていた。
夜の病院は静かで、蛍光灯の白が冷たい。
二人分の足音が廊下に響き、扉の奥へと吸い込まれる。
ドアが閉じた瞬間、壁に押しつけられた。
「...ほんとに、痩せたな」
頬を撫でる指が熱を帯び、視線が絡みつく。
「色気が増したか」
囁きと同時に唇をふさがれて、舌が容赦なく侵入してきた。
「だめ……です」
震えた声はすぐに飲み込まれる。
舌が絡むたび、背筋を駆ける震えは痺れに変わり、抗いきれない。
腕は彼の胸に触れたまま、力を失っていた。
ソファに押し倒され、首筋をなぞる指にゾクリと身を震わせる。
「……っあ」
抑えきれず漏れた声に、自分で驚く。
欲しいなんて思ってない――そう言い聞かせるのに、身体は正直すぎた。
涙が頬を伝いながら、彼の胸を押し退けようとする。
「やだ……やめ……」
震える拒絶はすぐ唇で塞がれ、胸を強く揉まれた瞬間、喉が裏返る。
「先生……っ」
呼ぶ声に、彼が笑った気がした。
その気配を感じて、また涙がこぼれた。
先生は構わずに首筋に舌を這わせ、俺の反応を楽しんでいる。
「んっ...」
声が漏れるたびに、キスし舌を絡めてくる。
先生の手がズボンの中に差し込まれ、硬くなった俺の塊を取り出す。
「もう、こんなになってる」
意地悪そうに笑い、俺の熱を握りしめた。
「んっ...いや...」
「何がイヤなんだ?」
先生の低い声が響く。
俺をうつぶせにし、膝を立てさせると俺の背中に舌を這わせながら指先で太ももを撫で上げていく。
「あっ...」
先生の指先が、今まで先生を受け入れてきた場所を指した。
そこは、あっけなくも簡単に、先生の指を受け入れた。
「あっ...まって...」
「待たない」
先生はそう言って、指を何度も何度も出し入れする。
「んっぁぁ...」
指を出し入れしながら、反対の手で俺の硬い塊をグチュグチュと音を立ててしごく。
「ぁ...もぅ」
「久しぶりだったけど、全然問題ないな」
そういうと、先生は自分の硬くなったものを当てた。
「んっ」
すぐに先生の熱が中に押し込まれてくる。
「はぁっ...んっ」
ズブズブと音が響く部屋で、俺の吐息だけが聞こえる。
「あっ...先生っ...」
俺の中に繰り返し自分の熱を差し入れながら、先生は俺の硬い部分まで掴み、リズム良くしごいていく。
「ダメだっ...もぅっ...」
頭が真っ白になった瞬間、ビリビリと身体が痺れた。
同時にソファに白濁したものが飛び散る。俺の中では先生がビクビクと波打ったことがわかった。
息を整えようとするけれど、うまくいかない。
先生は俺から自分のものを抜くと、ゴムを外したあと乱れたシャツを直し、時計に視線を落とす。
薬指の指輪が光り、胸が冷えた。
「もう帰らないと。遅くなると心配されるから」
当然のように吐き出された言葉が、鋭く突き刺さる。
その時、テーブルの上のスマホが震えた。
彼は画面を一瞥し、迷いなく応答する。
「……ああ。うん、終わったところ。すぐ帰るよ」
低い声は、さっきまで俺に熱を押しつけていた声と同じ。
なのに今は、柔らかく誰かを安心させる響きになっていた。
「買い物?ああ、分かった。帰りに寄る」
短いやり取りの中に、生活の温もりが滲む。
その温もりが、俺には一切届かないことを思い知らされる。
「じゃあな」
通話を切った彼は軽く笑い、背を向けた。
まるでここに俺がいなかったかのように、当然の顔で。
ソファに取り残され、震える手で脱ぎ捨てられた服を握りしめた。
必死に名前を呼ぶたび、彼の熱は深く潜り込み、俺は逃げ場をなくしていく。
心が壊れていくのに、身体は確かに応えてしまっていた。
涙はもう出なかった。ただ熱と虚しさだけが皮膚に残る。
「結局、俺は都合よく扱われただけか。昔も今も。」
呟きは誰にも届かず、夜の静けさに吸い込まれていった。
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