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第七章 製造と販売

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 ギルドでもらった地図に従い、うす暗い下水道を進む。俺たちは地下迷宮を目指していた。

 足元の石は濡れており、設置されている魔力灯≪灯火ライティング≫の明かりは心もとない。ところどころにある落書きがやけに目立つ。
 ネズミと目が合う。俺は考える。
 この淀んだ地下にお似合いなのは、盗賊たちよりもむしろ俺の方ではないのかと。

「うええー、ばっちいですねえ。さっさと終わらせて戻りましょ」

 サクラは袴の裾を持ち上げ、ちょいちょいと跳ねるようについてくる。それでも滑りそうになる素振りすら見せないのは、さすがと言ったところか。
 フィッツもかなり身軽なほうだが、基本の動作や体幹、技などが安定しているのは、サクラのほうだ。

「ダンジョンに潜りたがっていたんじゃなかったのか? じっくり楽しんだらどうだ」
「え、私、そんなこと言いましたっけ? まあ、もういいんですよ、イングウェイさんのほうから誘ってくれましたし」
 変な奴だ。
 にやにやするサクラに首をかしげつつ、俺は先を急ぐ。
 確かにこんな陰気なダンジョンは、女の子向きではないのかもしれない。早く敵を見つけて、戦わせてやろう。


 いくつか階段を降り、さらに奥へと進む。ごうごうと水の音が大きくなる。
 これは、下水の音とは違うな。
 冷えた空気が流れてくる。

「うわあ、すっごい!」
「驚いたな、地下にこんな河が流れていたとは」

「イングウェイさーん、ちょっと寒いなー」
「ん? ああ、水場だからな、確かに冷えるかもしれない。くっついて歩くか」
 俺がサクラの肩を抱き寄せた。
「へへへー、嬉しいなー」

 下水道は、自然の大洞窟へとつながっていた。そしてそこを流れる、地底の大河。岩から岩の裂け目へと消えていく。先は真っ暗で見えはしない。
 付近の建築物の古さや下水道の広がり方からして、おそらくアサルセニア王都が作られたかなり初期のころから、すでにここは利用されてきたのだろう。
 先日の事件を思い出す。もしかしたら襲撃時の逃走経路にもなっているのかもしれないな。

「このへんなんですよね、地下迷宮の入り口って」
「ああ、河の対岸のようだな。もしかしてこのあたりは、ほぼ王城の真下じゃないか?」

 ダンジョンの真上に存在する王城。地脈を循環する魔力を取り込んで結界にするなど、魔法的な施設として似たようなものを見たことはあるが。
 まあいいか、今は関係ない。


 俺たちは≪飛行フライ≫の魔法で河を跳び越し、岩の裂け目へと足を踏み入れた。



 ビーッ、ビーッ、ビーッ。

 急にけたたましいサイレンが鳴り響く。侵入警報か? 盗賊のわりに上等なものを用意しているな。

「どうしますっ、イングウェイさんっ!」
 身を低くして、油断なく周囲を警戒するサクラ。
「決まっている、突っ込むぞ。ザコ盗賊ごときに時間はかけたくない」
「はいっ!」

 足音をほとんど立てずに俺のすぐ後ろをついてくるサクラ。
 最初のゴブリン戦のときのような頼りなさはいつの間にか消え、サクラは頼りになる戦士として成長していた。そういえば最近は一緒に依頼をこなすことはなかったので、気付かなかったけど。

 しゅっと風切り音が聞こえ、直後に俺の右方向で魔法陣が青い光を放った。

 俺が展開していた防御魔法に、暗闇から飛来した矢が阻まれたのだ。光の中、岩陰に一瞬見えたのは、白い顔。
 盗賊ではない。というか、人ではない。
 おそらく骸骨(スケルトン)だ。

 足元の土が崩れ落ちる。が、遅い。
「サクラ、飛べ!」
「もう飛んでまっすー!」

 落とし穴。だが、舐めてるのかこいつらは。魔法的な措置をほどこしているならまだしも、普通の落とし穴など、落ちる前に走り抜ければ問題ない。

 ついで前方から襲い掛かる、複数の火の玉。即座に≪反射魔法リフレクト・マジック≫と≪幻影体ファントム・ボディ≫を唱える。

「俺が援護する、サクラ、前に出て魔法使いどもをやれ」

 答えの代わりに、サクラはスピードを上げて俺の前に踊り出る。壁を蹴って火の玉をかわすと、その勢いのまま魔法使いの群れに切りかかる。
「やあぁーーっ!」

 気合とともにサクラは、名刀モモフクをふるう。
 魔法使いどもはほとんど棒立ちのままなぎ倒される。サクラが通り過ぎた後で、深緑のローブが黒く染まっていくのが見える。

 後続を警戒しつつサクラに追いつくと、倒れている魔法使いたちの生体反応と魔力反応を探る。
 思った通りだ、こいつら、最初から生きちゃいない。

「低レベルとはいえ、屍術師リッチの群れか。珍しいな」
「リッチ?」
「ゾンビーウィザードのことだ」
「へー、ぞんびー。って、何で盗賊さんたちが死んでるんですか?」

 俺が知るか。
 盗賊のいるはずの迷宮は、不死者アンデッドどもに占拠されていた。
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