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君とともに歩む未来(ヤマト編)
1話 ヤマトとリリカ
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「行ってきます!」
ヤマトはユキコとバートに声をかけると、慌てて走り出した。遅刻しそうだ!
集会所で週三回過ごすのはコロニーで過ごす十八歳以下の義務だ。
それは「社会性を身に付けるため」のルールである。本音を言えば仮想空間でワイワイ話している方が気軽なのに、とヤマトは心の中で毒づいた。
集会所での過ごし方は人それぞれ。運動に興じる者もいれば、学習室で専門の勉強に励む者もいる。集団行動を強いられることはない。人の息遣いを感じる空間で時間を共有することが大事なのだ。
大戦前は「学校」というものがあったらしい。今は学ぶべきことはアバターのバートとネットのライブラリから学んでいる。
集会所に行くのが面倒なヤマトは、決して楽しい気分ではなかった。
十五歳からヤマトはタウン拡張のための設計を専門分野として学んでいた。タウンの機能を拡張する仕事を希望したのには理由があった。
タウンの設計や拡張を仕事として希望する者は義務付けられている「実習」がある。分散型居住地区体験だ。ヤマトはその実習のために専門を選んだ。
世界大戦後、人と人の争いを防ぐために、半径三十キロ以内に一人で生活していた時代があった。今は地球のへき地に残っている遺物的存在になりつつあったが、分散型居住区は最小単位のタウン機能がすべて備わっている。
そこで、実際に生活し様々な機器の調整を実習しなければ、タウンの設計に携わることを許されない。
ヤマトはその実習が始まるのを待っていた。集会所では一人で過ごす方が好きだったし、実際一人で過ごす時間が多かった。気に入ったらそのまま分散型居住区で住み続ける選択も悪くない、実はそんなこともヤマト考えていたのだ。
なぜならば。ヤマトは、タウンでは有名人だったからだ。どこにいっても、何をしても誰かの視線を感じる。
理由は明白だった。ヤマトが自然分娩で生まれた大戦後最初の子供だったからだ。大戦後、人工子宮による胎児の成長と出産しかできなかったことを、ヤマトの母のユキコが自然分娩を成功させたことで、転換期を迎えたのだ。
人工子宮での出産しかなかったのが、自然分娩を選択できる世界をヤマトの母ユキコが切り開いたのだ。
それを批判するつもりはないが、とヤマトは盛大にまたため息をついた。自然分娩第一号ベビーというレッテルが常についてまわることに、ヤマトはうんざりしていた。
経験者がほぼいない中で自然分娩をやってのけた母親のユキコの勇気を否定する気はないし、生んでくれたことを感謝はしている。しかし、賞賛するべきは母親の方であって、生まれてきただけの自分が注目されるいわれはない、とヤマトは感じていた。
「またため息ついているんだね」
声をかけてきたのは、リリカだ。頭の上で結わえたポニーテールを揺らしながら、黒いノースリーブワンピースが、いつもより大人びていた。
「君はいつも力強くてうらやましいよ」
ヤマトがぼやく。リリカもまた、有名で注目の的なのだ。リリカは、ヤマトが生まれた後、人間同士の恋愛で生まれた大戦後初めての子供だったから。
ユキコは生身の男性と性交して自分の子宮で妊娠出産した。が、相手の男性とは結婚しなかった。ユキコにとってのパートナーはあくまでアバターのバートだと、ユキコは繰り返し主張した。
対して、リリカは人間の男女がパートナーとして結婚し出産した子供だった。父と母と暮らす子供――世界大戦前ごく普通に存在していた家族関係を、大戦後初めて成立させたのだ。
世界大戦後、初めて作られた人間密集型居住コロニーに、続けて生まれたヤマトとリリカは、戦後復興のシンボル的存在として注目されている。
そして、二人がカップルになることをいつしか世間は期待するようになっていた。
ヤマトは世間の視線と期待が重かった。好きで初物になったわけでもないのに。
一方でリリカは世間の視線に拒否反応を示すヤマトにイラついていた。気にすることなど何もない。何度幼馴染みに言ったか、ヤマトの返事はいつも煮え切らないものだった。
「ねえ、いつになったら私の気持ちに応えてくれるのかな?」
リリカは、半分怒った声で、ヤマトにぐっと顔を近づけた。
「あなたが好き」
ヤマトとリリカは、その状態でしばらく動かなかった。
が、ヤマトがリリカの視線に負けて、顔を逸らした。
「ごめん……、やっぱり、どうしても君を『パートナー』として意識できないんだ」
リリカの目に涙があふれだす。
パァーン――リリカがヤマトの頬を平手で打った。その勢いでリリカの目にたまっていた涙が飛び散った。
「あの人は……違う、あのアバターは! あなたを見ることはないのにっ」
頬を打たれたヤマトは地面を見つめていた。
そうだ、永遠にあの視線は僕に向かないのだ。彼女の視線はいつまでも僕の遺伝子上の父親を見続けているのだ――ニーナ……。
僕の想いは一方通行なのだ、とヤマトは地面を見続けていた。
(つづく)
挿絵:ミカスケ様のフリーイラスト
ツイッター@oekakimikasuke
インスタグラム:http://instagram.com/mikasuke28
プロフィール:https://profile.coconala.com/users/1055136
ヤマトはユキコとバートに声をかけると、慌てて走り出した。遅刻しそうだ!
集会所で週三回過ごすのはコロニーで過ごす十八歳以下の義務だ。
それは「社会性を身に付けるため」のルールである。本音を言えば仮想空間でワイワイ話している方が気軽なのに、とヤマトは心の中で毒づいた。
集会所での過ごし方は人それぞれ。運動に興じる者もいれば、学習室で専門の勉強に励む者もいる。集団行動を強いられることはない。人の息遣いを感じる空間で時間を共有することが大事なのだ。
大戦前は「学校」というものがあったらしい。今は学ぶべきことはアバターのバートとネットのライブラリから学んでいる。
集会所に行くのが面倒なヤマトは、決して楽しい気分ではなかった。
十五歳からヤマトはタウン拡張のための設計を専門分野として学んでいた。タウンの機能を拡張する仕事を希望したのには理由があった。
タウンの設計や拡張を仕事として希望する者は義務付けられている「実習」がある。分散型居住地区体験だ。ヤマトはその実習のために専門を選んだ。
世界大戦後、人と人の争いを防ぐために、半径三十キロ以内に一人で生活していた時代があった。今は地球のへき地に残っている遺物的存在になりつつあったが、分散型居住区は最小単位のタウン機能がすべて備わっている。
そこで、実際に生活し様々な機器の調整を実習しなければ、タウンの設計に携わることを許されない。
ヤマトはその実習が始まるのを待っていた。集会所では一人で過ごす方が好きだったし、実際一人で過ごす時間が多かった。気に入ったらそのまま分散型居住区で住み続ける選択も悪くない、実はそんなこともヤマト考えていたのだ。
なぜならば。ヤマトは、タウンでは有名人だったからだ。どこにいっても、何をしても誰かの視線を感じる。
理由は明白だった。ヤマトが自然分娩で生まれた大戦後最初の子供だったからだ。大戦後、人工子宮による胎児の成長と出産しかできなかったことを、ヤマトの母のユキコが自然分娩を成功させたことで、転換期を迎えたのだ。
人工子宮での出産しかなかったのが、自然分娩を選択できる世界をヤマトの母ユキコが切り開いたのだ。
それを批判するつもりはないが、とヤマトは盛大にまたため息をついた。自然分娩第一号ベビーというレッテルが常についてまわることに、ヤマトはうんざりしていた。
経験者がほぼいない中で自然分娩をやってのけた母親のユキコの勇気を否定する気はないし、生んでくれたことを感謝はしている。しかし、賞賛するべきは母親の方であって、生まれてきただけの自分が注目されるいわれはない、とヤマトは感じていた。
「またため息ついているんだね」
声をかけてきたのは、リリカだ。頭の上で結わえたポニーテールを揺らしながら、黒いノースリーブワンピースが、いつもより大人びていた。
「君はいつも力強くてうらやましいよ」
ヤマトがぼやく。リリカもまた、有名で注目の的なのだ。リリカは、ヤマトが生まれた後、人間同士の恋愛で生まれた大戦後初めての子供だったから。
ユキコは生身の男性と性交して自分の子宮で妊娠出産した。が、相手の男性とは結婚しなかった。ユキコにとってのパートナーはあくまでアバターのバートだと、ユキコは繰り返し主張した。
対して、リリカは人間の男女がパートナーとして結婚し出産した子供だった。父と母と暮らす子供――世界大戦前ごく普通に存在していた家族関係を、大戦後初めて成立させたのだ。
世界大戦後、初めて作られた人間密集型居住コロニーに、続けて生まれたヤマトとリリカは、戦後復興のシンボル的存在として注目されている。
そして、二人がカップルになることをいつしか世間は期待するようになっていた。
ヤマトは世間の視線と期待が重かった。好きで初物になったわけでもないのに。
一方でリリカは世間の視線に拒否反応を示すヤマトにイラついていた。気にすることなど何もない。何度幼馴染みに言ったか、ヤマトの返事はいつも煮え切らないものだった。
「ねえ、いつになったら私の気持ちに応えてくれるのかな?」
リリカは、半分怒った声で、ヤマトにぐっと顔を近づけた。
「あなたが好き」
ヤマトとリリカは、その状態でしばらく動かなかった。
が、ヤマトがリリカの視線に負けて、顔を逸らした。
「ごめん……、やっぱり、どうしても君を『パートナー』として意識できないんだ」
リリカの目に涙があふれだす。
パァーン――リリカがヤマトの頬を平手で打った。その勢いでリリカの目にたまっていた涙が飛び散った。
「あの人は……違う、あのアバターは! あなたを見ることはないのにっ」
頬を打たれたヤマトは地面を見つめていた。
そうだ、永遠にあの視線は僕に向かないのだ。彼女の視線はいつまでも僕の遺伝子上の父親を見続けているのだ――ニーナ……。
僕の想いは一方通行なのだ、とヤマトは地面を見続けていた。
(つづく)
挿絵:ミカスケ様のフリーイラスト
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インスタグラム:http://instagram.com/mikasuke28
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