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アルバイト市街
第12話 初の魔石研究者エミリー
「名前は?」
女はぴしっと姿勢を正した。
「エミリーです!」
瓶の中で虫が動く。カサカサと音がした。
ガルドが顔をしかめる。
「ほんとにこいつでいいのか……」
「観察と記録ができるやつが必要だ」
俺は言う。
「それができる」
エミリーはぱっと顔を輝かせた。
「できます!めちゃくちゃ細かく書きます!」
「細かすぎて読めねぇやつじゃねぇだろうな」
「読みやすさも工夫します!」
即答だった。
準男爵が小さく笑う。
「じゃあ条件を決めようか」
俺は指を立てる。
「月銅貨六十枚」
「ろ、六十!?」
エミリーが目を丸くする。
「さらに成果に応じて上乗せする」
「せ、成果って……」
「発見だ。再現できるもの」
「……!」
目の色が変わる。
「やります!!」
即決だった。
「いいのかよ、そんなに出して」
ガルドが小声で言う。
「安い」
俺は答える。
「ここは金をかけるところだ」
準男爵も頷いた。
「同意だね」
エミリーはもう机にかじりついていた。
「で、材料なんですけど!」
「早いな」
「血、足りません!」
「……血?」
「新鮮なやつです!乾いたのはダメです!反応が鈍ります!」
(やっぱりそこか)
「どれくらい要る」
「いっぱいです!」
「具体的には」
「瓶で毎日……十本くらい?」
ガルドが吹き出す。
「どんだけだよ!」
「試行回数が命なんです!」
エミリーは真顔だった。
「一回じゃ誤差かもしれないし、条件も変えたいし、比較もしたいし――」
「分かった」
俺は手を上げる。
「用意する」
「ほんとですか!?」
「ああ」
(なら仕組みを作る)
「ギルドに回す」
「え?」
「瓶を配る」
「瓶?」
「魔物の血を入れて持ってこさせる」
ガルドが腕を組む。
「買い取るのか?」
「ああ。一本、銅貨一枚」
「安くねぇか?」
「ついでで取れる量だ。それでいい」
準男爵が頷く。
「確かに、討伐のついでなら悪くないね」
「血なんて今まで捨ててたんだろ」
「まあな」
「なら価値をつける」
エミリーがぶんぶん頷く。
「それで十分集まります!絶対!」
「腐る前に持ってこさせろ」
「保存方法も書きます!」
「頼む」
(これで回る)
「あともう一つ!」
エミリーが手を上げる。
「なんだ」
「これ、小さい魔石しか試してないですよね?」
「今はな」
「大きいのだとどうなるんです?」
一瞬、静かになる。
ガルドが口を開く。
「でかいのは……売っちまってるな」
準男爵も頷く。
「二センチ以上はまとめて商人に」
「いつも通りだ」
(確かに)
「もったいないです!」
エミリーが机を叩く。
「エネルギー量が違うはずです!絶対!」
「エネルギー?」
「はい!大きいほど強いなら、同じ陣でも出力が変わるかもしれないし!」
止まらない。
「もしかしたら配置を簡略化できるかも!三角じゃなくてもいけるとか!」
「……あり得るな」
準男爵が低く言う。
「それに」
エミリーは続ける。
「今のは“たまたま三角”ですけど、最適な形じゃないかもしれないです!」
(そこまで考えるか)
「つまり」
ガルドが言う。
「でかい石で実験したいってことか」
「はい!!」
「でも売っちまってる」
「止めればいいです!」
即答だった。
全員が俺を見る。
(当然そうなる)
「……止める」
ガルドが眉を上げる。
「いいのか?」
「今のまま売っても、ただの石だ」
「でも金にはなる」
「だが――」
俺は言う。
「使えれば、それ以上になる」
沈黙。
準男爵がゆっくり頷いた。
「確かにね」
「価値が跳ね上がる可能性がある」
「なら抱え込む」
ガルドがニヤリと笑う。
「商人に文句言われるぞ」
「言わせておけ」
エミリーが小さく拳を握る。
「……やばいですね」
「何がだ」
「これ、絶対すごいことになります」
(そうだな)
机の上。
小さな魔石。
血の瓶。
雑な三角形。
だが――
「まずは集める」
「はい!」
「次に試す」
「はい!!」
「全部記録しろ」
「任せてください!!!」
ガルドがぼそっと言う。
「……止まんねぇなこいつ」
「止めなくていい」
俺は魔石を手に取る。
(回り始めた)
(ここから加速する)
「大きいのも全部押さえる」
「研究優先だ」
準男爵が静かに笑った。
「辺境の村とは思えないね」
(ここはもう、ただの村じゃない)
エミリーが新しい紙を広げる。
「じゃあまず、血の種類ごとに分類して――」
ペンが走り始めた。
音が止まらない。
(いい)
(そのまま進め)
(次は、“使える形”にする)
※次の話しの題名当てクイズ。題名をニアピンで当てたら、この作品に出演させます。ニックネームも教えて
※締め切り、2026 4/26中
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