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いつか教えて。

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…甘いものが食べたい。
家を離れてからもう三年。これまでは甘いだけの砂糖菓子をだましだまし食べていたが、そろそろ限界だ。
ユークが入学してくるまでは我慢するように、と思っていたが…

「クルツ、来て。」
「おお、ディアンか。どうしたのだ?今日は休日であろう?」
「来て。」

「で、買い物をするためだけに私を呼んだのか?」
「うん。」
下町の買い物って面倒なんだよね。色んな人に呼び止められるし、変な男に変な言いがかりつけられるし、変な女に付け回されることもあるし。はあ、本当に面倒。
「いや、買い物位使用人に任せればいいだろう?」
「使用人?」
ああ、そういえば入学前は父様から、入学後は先生から言われていたな。別に自分の物は自分で管理したいし、連れてきてないけど。
「まさか連れていないのか?」
「ん。面倒だから。」
「お前はそればかりだな。お前に面倒でない事はないのか?」
面倒でない事…
「ユークに関連すること。」
「惚気はもうよいと言っておるのに…」
クルツの天使様(仮)がどれだけ美麗だったか語りの方がうざい思うけど。というか天使様はカイラーシ嬢なのにね。
「バター、砂糖、卵、小麦粉。」
チョコレートと粉末のチョコレートはもう持っているし、これ位でいいだろう。
「ちょっと待ってくれ」
「なに?そんなに重かった?それ。」
「今はあえて私に荷物を持たせることは言及しないが…なぜ食料を買い込む!?そんなものは使用人の仕事であろう?」
まあそうなるよね。俺も初めはそう思った。でも自分で選んだ方がいいし。
「クルツにも分けてあげるから。」
「何をだ!?」

寮に帰ってうるさいクルツを置いて…おこうと思ったのに
「あのディアンが菓子を作るだと!?」
と言って調理場までついてきた。
「見世物じゃないぞ。」
「安心しろ、見世物であっても観客は私一人。存分に菓子を作ってくれ!ああ、荷物を運んだ代はできたものを貰えればそれでよい。」
…クルツを買い物に付き合わせたのは間違いだったか。
まあ、一人で食べ切るものでもないしな。
「それで、何を作るのだ?砂糖菓子か?」
「いや、“ぶらうにー”というお菓子を作る。」
砂糖菓子なんていくらでもある。今日作るのはユークに無理行って厨房に入り、調理過程を見た時作っていた菓子。
「ぶらうにー…?」
「どうした?」
「いや、どこかで聞いたことのあるような気がしてな。気のせいのようだが。」
ぶらうにーに聞き覚えがある?どこの書物にも書いていなかったことだから、無いと思うが。クルツは置いて作るか。

まず大きな器にバターを入れ、その一回り大きな器に湯を注いだものの中に器ごと入れる。ユークは湯煎と言っていたな。
そして粉末のチョコレートと砂糖、卵を入れかき混ぜる。
そこに小麦粉を入れ、粉っぽさがなくなるまで混ぜる。
「随分と手際が良いのだな。」
「ユークが作っていたのを見ていただけだが。」
「またユーク…さんの話か。そんなに大切だったんだな。あと一年で入学と言っていたな。是非紹介してくれ。」
ユークのことを呼び捨てにしていいのは俺と、ユークの大切な人だけだ。そう簡単に呼ばせはしない。
「おい、ディアン!!チョコレートが砕けておるぞ!?大丈夫なのか?」
…取り乱し過ぎたな。砕いてしまったか。これは生地に入れるか。
最後にこの器に直接魔力を流し込む。これ位でいいか。
「できたぞ。」
「おお、これがぶらうにーか!!」
一口食べる。
「何だこれは!?こんなにおいしいとは…」
「……………」
何かが違う。ユークの作ったものはもっと美味しくて…
まあ、それもそうか。ユークの作ったものが美味しいのがうまいのは当たり前のことだし。
ユークの作ったぶらうにーは一年後にお預けだな。楽しみだ。

「おお。思い出したぞ!!」
「何が?」
片付けをしている時、クルツが急に叫んだ。うるさい。
「さっきのぶらうにーのことだ。小さいころ師に教えてもらったのだ。」
クルツの師は精霊術者だそうで、その精霊が教えてくれた珍しいお菓子がぶらうにーなのだそうだ。
「そのユークさんも精霊術者なのか?」
「…いちおう契約しているけれど、ユークが作っていたのはそれ以前だ。」
あのすけこましが教えたとは思えない。
「不思議だな。まあ今度聞いてみてはどうだ?」
「ああ、そうする。」
こうして少しの疑問を残して、菓子作りは終わった。

ユークが俺に話してくれていないことがあっても、俺に話せないことがあっても、俺は変わらず愛し続けるから、
いつか教えてほしい。そう思った。
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