拾った少年は、有能な家政夫だった

麻路なぎ

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6君と過ごす2日目

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 この地域独特の、山から吹く冷たく乾いた風が、頬に突き刺さる。
 10月とはいえ、けっこう寒い。
 スーパーの駐車場で車から降り、私は空を見た。
 雲の流れが速い。
 秋が通り過ぎるのは、とても早い気がする。

 来月にはもうクリスマスがどうとかメディアが騒ぎ出すんだ。
 街はイルミネーションで彩られ、クリスマスソングが鳴り響く。
 そんな日々がもうすぐやってくる。
 ……クリスマスは恋人の日みたいな風潮はどうにかならないだろうか。

 だいたい誰が決めた。
 いや、去年もその前も、私はリア充やってたけど。
 斗真と会って、イルミネーションの下でプレゼントの交換なんてやってたけど。
 今年はどうしようか? ミクと遊ぼうかな。

 そんなこと考えながら、スーパーに入って行った。
 今日もレイジに頼まれた買い物しに来た。
 外に出るのは本当に嫌みたいで、家で待っていますと言って、笑顔で私を送り出した。

 彼は何者だろう?
 育ちがいいのは確かだし、家事についてもよく教育されている。
 着ている服もファストブランドなんかじゃなくって、デパートに入っているような高めな服。
 裕福な家の子なのは確かだろう。
 ……よく考えたら、私、やばいよね。

 だって未成年を家に入れて、匿ってるんだもん。
 まあ、あの子が本当に未成年かどうかわからないけど。
 もしかしたらハタチ前後かも知れないし。
 ……まあ、たぶん高校生だろうけど。

 指定の物を買って――昨日と同じで、自分のものっぽいものは一つもメモにはなかった――私は帰宅した。
 アパートの駐車場に車を止めて、荷物を下ろして部屋へと向かう。
 今日は、彼は出てこなかった。理由はすぐに分かった。
 部屋に入ってすぐ、話し声に気が付いた。

「…………るさん、大丈夫ですから、僕は」

 どうやら電話しているらしい。
 電話の相手は、例の幼なじみだろうか。
 とおるさん、と、昨夜うなされながら言っていたし。
 家出している状況で連絡取るってことは、よほど大事な人なんだろうな。

 ……なんでだろう。
 ほんの少しだけ、心にちくりとなにかが刺さる。
 うーん。もしかして、私はこの子供に惹かれているのか?
 そんな馬鹿なこと、あるわけないじゃない。
 首を振り廊下を抜けてリビングへ続く扉を開けると、レイジはこちらを振り返った。

「すみません、もう切ります。本当に、ごめんなさい」

 あたふたと彼は携帯電話を切り、それをポケットに突っ込んだ。
 彼は笑顔を浮かべ立ち上がり、おかえりなさい、と言った。

「すみません。お手伝いしなくて」

「ううん、大丈夫。袋、ひとつだけだし」

 言いながら、私はキッチンの冷蔵庫の前に袋を置いて、中身を取り出した。
 今日は、昨日のひき肉の余りをそぼろにして、サバの味噌煮を作るつもりらしい。

「お昼はチャーハンでいいですか? 朝、ご飯おおめに炊いたので」

「うん。ありがとう」

 そう言って、私は彼に笑いかけた。



 窓の外に見えるうろこ雲が、紅く染まっている。
 レイジは、その後携帯電話を出すことはなかった。
 たぶん電源切っているんだろう。
 電源入れといたら鳴りまくりだろうし。

 結局、三連休はスーパーと家の行き帰りで終わりそうだ。
 本当なら斗真と一緒におでかけとかしたんだろうな。
 ……うん。あんな奴のことは忘れよう。
 好きな相手とやらと、あいつはどうなっただろう?

 共通の友人がいるから、何人かから問い合わせのメールが来た。
 別れたってホント?
 とか。
 結婚すると思ってた。
 とか。
 あいつ、会社の偉い人のお嬢様と付き合い始めた。
 とか。

 最後のはもう、ただのおせっかいにしか見えない。
 最終的に返信するのが面倒になり、

 真実の愛に、あいつは目覚めたの。

 とだけ書いて返信することにした。
 何を言われてもそれだけを返してたら、メールは来なくなった。
 皆好きだね。ゴシップが。
 まあ、気持ちはわかるけど。
 結婚するって思ってた友人が、別れたって聞いたら何があったのか気になるもん、私だって。

「人の不幸を喜ぶ気持ちはわかるけどねー」

 私が呟くと、本を読んでいるレイジが顔を上げる。

「何がです?」

「えーとね。話したと思うけど、彼氏と別れたわけ。そのことが友達に知れて、メール攻勢受けてるの」

「あぁ、そういうことですか」

 レイジは苦笑いする。

「だから携帯が頻繁になってるんですね」

「そう。暇人よね。皆どっか出掛けてるくせに」

 ソーシャルネットサービスを見れば、皆がどこに行って何をしているかが丸わかりだ。
 三連休だもの。どこか出掛けるよね。

「琴美さんは、どこか行かないんですか?」

 思いもよらない問いかけに、私は驚いて目を見開く。

「え? 特に何もないけど」

「……そうしたら、ひとつ、お願いしていいですか」

 彼のお願いはとてもささいなものだった。

 ――夜景が見えるところに行きたいです。

 そんなのでいいのかと聞いたら、はい、と言って、笑顔で頷いた。
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