私が鬼になったら私を殺してください―大正妖恋奇譚

麻路なぎ

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25 帰宅して

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 かくれんぼうをしている子供たち。
 隠れて見つかったら負けだけど、見つけてくれると信じて隠れてる。
 
「みーつけた!」

 そんな声が響き、見つかった子供は残念そうな声を上げた後鬼と一緒に別の子供を探している。
 いつかきっと誰かが見つけてくれるから安心して隠れていられるんだよね。
 皆鬼に見つかったのに、嬉しそうな声をあげている。
 昴さんは私の言葉を聞いて、すっと、目を細めた。
 
「そうならないことを願うよ。ねえ、来週の満月の日、僕は仕事に行くんだけど君も来る?」

「え、あ……お仕事、ですか?」

 なんでこの流れで仕事の話が出てきたんだろう。
 不思議に思いながら私は頷き答えた。

「お仕事をお手伝いする約束ですし……もちろん行きますよ」

「そう。君が着いてきてくれるならたぶん、あれは出てくると思うんだ」

「あ、あの……今度のお仕事はどんなものなんですか……?」

「鬼退治」

 昴さんの言う事はどこまで本気でどこまで冗談なのかわからなくて、その真意が読み取りにくい。
 子供たちが次の鬼を決めている声が聞こえる。
 
 ――ようちゃんが鬼ー!
 ――わーい!

 私はしばらく黙り込んだ後、声を絞り出して尋ねた。

「鬼退治って……」

「そのままだよ」

 そう答えて昴さんは私の頬から手を離す。
 そしていちょうの木から離れて歩き出してしまった。

「帰ろうか、話しすぎて疲れた」

 確かにたくさんの話を聞いて私も頭がおいつかない。

「そ、そうですね。先ほどの……桐ケ谷さんは帰られたでしょうか?」

 すると、昴さんは立ち止まりゆっくりと振りかえる。その顔には嫌そうな表情が浮かんでいた。

「……あいつ、まだいるのかな……」

 と、苦々しげな声で呟く。
 そんなに桐ヶ谷さんといるのが嫌なんだろうか。もう桐ケ谷さんが私に話しそうなことは全部昴さんが話したと思うけど。
 他にもなにか言われそうなのかな。
 結局その後、屋敷に帰ったものの桐ケ谷さんはまだ家にいて、ばつが悪そうな顔をした昴さんの隣で私が彼の話に付き合うことになってしまった。

「遊郭に出入りしてるわ養子いるわ、家族もいない昴が『女の子が喜びそうな場所を教えて欲しい』なんて言ってきた事が嬉しくて嬉しくて」

 桐ヶ谷さんはそんなことを言いながら、目元を手の甲で拭う。

「そう、なんですか……」

 正直、人と話慣れないかつ、少し年上の男性には苦手意識があった私は最初どうしていいかわからないていたけれど、桐ヶ谷さんは話がうまく、当たり障りのない質問をしてきてくれた。
 桐ヶ谷さんは本当に昴さんのことが心配らしい。
 だから、昴さんが連れ帰ったという私がどんな人物が見たかったそうだ。

「女性を家に連れ帰った、としか言わないから人さらいでもしたのかと心配したんですよ。ほら、ここ数ヶ月若いお嬢さんを狙った人さらいが出るというから」

「僕がそんな事するわけないだろう」

 桐ヶ谷さんの言葉に昴さんは憮然とした顔で答える。
 私は昴さんの隣に腰掛けて、桐ヶ谷さんのお喋りに付き合っていた。

「そんな事はわかってるけど、お前だって詳しいことを話さないじゃないか」

「言われてみれば確かに、昴さんの話し方って独特というか……肝心なこと話したがらないかもしれないですね」

 さっきの神社で、仕事に着いてくるように突然言い出したし、詳細は教えてくれなかった。
 私の言葉に桐ヶ谷さんなうんうん、と頷き、

「そうなんですよ。だからどういうことなのかと思って」

「私が……帰る場所がないから『連れて行ってほしい』とお願いしたので……」

「かなめさん、苦労されてるんですね」

 と言い、桐ヶ谷さんはまた手の甲で目元を拭った。
 なんで帰る場所がなくなったのか、ということまで桐ヶ谷さんは聞いてこようとはしなかった。
 それは正直ありがたかった。なにか察したのかな。

「色々とあったから、昴は一生結婚なんてできないと……」

「おい、僕は別に彼女に対して特別な感情があるわけじゃないぞ」

「わ、私もそんな特別な想いなんてないです」
 
 結婚、という言葉に私は顔が一気に熱くなるのを感じた。
 さすがにそんなことあるわけがない。
 そもそも私は父親が誰かもわからない家の子供だし、昴さんは華族だ。身分が違いすぎる。
 昴さんと私が同時に否定すると、桐ヶ谷さんは目を大きく見開いて驚きの顔になる。
 そして、ずい、とテーブルに手をついて前のめりになり言った。

「そうなの?」

「出会って二週間だぞ。そんな感情抱くわけ無いだろう」

「でも一緒に出かけたんだろ?」

「それは……」

 昴さんはそこで黙り込んでしまう。
 私が楽しい想い出を作る手伝いをして欲しい、と頼んだからだけど、その理由なんて言えないからだろう。

「あ、あの……それは私がお願いして……その、私、お出かけとかしたことなかったから……」

 私が必死になって言うと、桐ヶ谷さんは私の方をじっと見つめ、満面の笑みを浮かべて言った。

「東京にはたくさん見るところがありますから、他にも昴に教えておきますよ!」

「あ、は、はい」

 桐ヶ谷さんの勢いに気圧されて返事をすると、昴さんがすくっと立ち上がる。

「そろそろお前帰れ。僕たちは食事にでるから」

「えー? じゃあ俺も一緒に行くよ。まだ話足りないし」

「もう十分話をしただろう」

「『女の子の扱い方なんてわからない』って言って、異性を遠ざけてきたお前がその女の子のためにわざわざどこに連れて行ったらいいかとか聞きに来たの、俺は嬉しかったんだよ」

 真顔で桐ヶ谷さんが言うと昴さんはそのまま固まってしまう。私からは彼の表情が見えないけど、どんな顔しているんだろう。
 桐ヶ谷さんはにこっと笑ったかと思うと立ち上がり、大仰に私に向かって頭を下げた。

「かなめさん、まだ話足りませんが、今日は帰ります。楽しい時間をありがとう」

「は、はい……あの、大したお相手もできずすみません」

 客を放っておいて外に出たのはさすがにわるいかな、と思っているけれど、桐ヶ谷さんは気にした様子もなかった。

「ではまたお会いしましょう」

「今度来るときはお菓子をもってこいよ」

 やたら低い声で昴さんが言うと、桐ヶ谷さんは頷いて、

「甘い物ならなんでもいい?」

 と言った。
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