私の夫は変わっている

榎南わか

文字の大きさ
2 / 8

そもそもの始まり

しおりを挟む

ここ、エリシア王国の首都トナンから二番目に近い港町を有するシェルニア領で、一番大きな屋敷に住んでいるクロエ・ヴォスボアールは、ヴォスボアール子爵家の長女であり、この国では珍しい黒髪に灰色の瞳を持つ令嬢であった。
社交界デビューのときから、その容姿を取って『黒薔薇姫』なんて少し恥ずかしくなる通り名を貰っていたりもしたものだ。

ヴォスボアール家の領地が港町であったこともあり貿易によって多大な富を得ていたことから、クロエは十四歳の社交界デビューと同時に数多の結婚の申し込みを受けることとなった。
そしてその中に現在の夫である、ウィリアム・アヴァロンの名もあったのだった。
アヴァロン家は侯爵位であり、少し遡ると王族の血も混じる由緒正しきお家柄だ。
けれど今まで特に親交があったわけでも無く、両家共に金銭的に困っているわけでも無いため政略的な意味合いも薄く。
そもそもこちらが貿易で国に貢献しているのに対し、あちらは大学を設立して医学の研究に邁進しているという全く住む畑の違う学者家系なのである。
何の目的があって自分に結婚を申し込んだのか、というのが正直な感想だったけれど申し込みのあった家の中では段違いに格が良かった。
それが、顔も見ない相手を結婚相手に決めた理由である。

***

「それでも、あまりに年が離れすぎてるのは嫌よ」
そう、父であるヴォスボアール子爵に言うと、私より4つ上であるという。
じゃあいま十八か、とホッと胸を撫で下ろして二つ返事で結婚を了承した。
貴族の結婚なんてみんな自分の意思なんてないし、恋愛結婚がいいわ、なんて市井で出回っている小説のようなことを言うつもりはないから、その時の私は心底マシな結婚になると安堵していた。
そこから家と家とがどんどん計画を進めていって、どうやらあと三年か四年後に結婚することになるらしいと知った。とりあえず近々挨拶に行くことになるらしい。

(どういう人なのかしら。……素敵な人だといいわ、ラフィン殿下のような方だったらいいわね…)
エリシア王国の王子何人かいるが、みな見目麗しいことで評判だ。
そのなかでも私の憧れは第一王子であるラフィン殿下だ。剣豪で、がっしりとした身体つきでとても格好良いのだ。
でも素敵な人が簡単にそこらに転がってるわけではないことも知っている。
期待しすぎないほうがいい。
(……でもっ!でもでも凄く素敵な人だったらどうしよう!)
この時の私は若かった。
希望に胸膨らませることができるのだって、若いが故だ。
よって、私は過去の自分を責められない。けれど、同情はする。
ーーその希望、一週間後には打ち砕かれてますよ。
そう、伝えてあげたくはあるのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

旦那様の愛が重い

おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。 毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。 他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。 甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。 本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。

竜帝は番に愛を乞う

浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿で両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。

処理中です...