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そもそもの始まり
しおりを挟むここ、エリシア王国の首都トナンから二番目に近い港町を有するシェルニア領で、一番大きな屋敷に住んでいるクロエ・ヴォスボアールは、ヴォスボアール子爵家の長女であり、この国では珍しい黒髪に灰色の瞳を持つ令嬢であった。
社交界デビューのときから、その容姿を取って『黒薔薇姫』なんて少し恥ずかしくなる通り名を貰っていたりもしたものだ。
ヴォスボアール家の領地が港町であったこともあり貿易によって多大な富を得ていたことから、クロエは十四歳の社交界デビューと同時に数多の結婚の申し込みを受けることとなった。
そしてその中に現在の夫である、ウィリアム・アヴァロンの名もあったのだった。
アヴァロン家は侯爵位であり、少し遡ると王族の血も混じる由緒正しきお家柄だ。
けれど今まで特に親交があったわけでも無く、両家共に金銭的に困っているわけでも無いため政略的な意味合いも薄く。
そもそもこちらが貿易で国に貢献しているのに対し、あちらは大学を設立して医学の研究に邁進しているという全く住む畑の違う学者家系なのである。
何の目的があって自分に結婚を申し込んだのか、というのが正直な感想だったけれど申し込みのあった家の中では段違いに格が良かった。
それが、顔も見ない相手を結婚相手に決めた理由である。
***
「それでも、あまりに年が離れすぎてるのは嫌よ」
そう、父であるヴォスボアール子爵に言うと、私より4つ上であるという。
じゃあいま十八か、とホッと胸を撫で下ろして二つ返事で結婚を了承した。
貴族の結婚なんてみんな自分の意思なんてないし、恋愛結婚がいいわ、なんて市井で出回っている小説のようなことを言うつもりはないから、その時の私は心底マシな結婚になると安堵していた。
そこから家と家とがどんどん計画を進めていって、どうやらあと三年か四年後に結婚することになるらしいと知った。とりあえず近々挨拶に行くことになるらしい。
(どういう人なのかしら。……素敵な人だといいわ、ラフィン殿下のような方だったらいいわね…)
エリシア王国の王子何人かいるが、みな見目麗しいことで評判だ。
そのなかでも私の憧れは第一王子であるラフィン殿下だ。剣豪で、がっしりとした身体つきでとても格好良いのだ。
でも素敵な人が簡単にそこらに転がってるわけではないことも知っている。
期待しすぎないほうがいい。
(……でもっ!でもでも凄く素敵な人だったらどうしよう!)
この時の私は若かった。
希望に胸膨らませることができるのだって、若いが故だ。
よって、私は過去の自分を責められない。けれど、同情はする。
ーーその希望、一週間後には打ち砕かれてますよ。
そう、伝えてあげたくはあるのだ。
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