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そして私は彼の婚約者(仮)となる4
しおりを挟む「……ねえ、坊っちゃま」
そう彼を呼ぶと、そう呼ばれるのに慣れたものなのか、なんだ?と瓶底眼鏡をキラリと光らせる。
「婚約話が持ち上がってるの、あなたはご存知ですの?」
そうすると、顔を固まらせたまま、男はピョンっと1メートルほど上に飛び跳ねた。
どうやらそれに突っ込まれるとは思わなかったらしい。
「そそそそそその話は、また今度だ!!俺は、断固として認めんっ!
結婚なんかしたら、俺様の趣味の時間が無くなってしまうのだからな!!今はまだ時期尚早ってやつなのだ!」
「じゃあ、貴方も、婚約には反対なのね?」
「勿論だ!」
貴方も、の「も」には全く反応しないのだから、やっぱりこの男は抜けている。それが私が貴方の婚約者であるという意図を含んだ言葉であることなど全く気付いてもくれない。
……自分を天才なんて言い切る奴は、大抵大したことはない。そんな捻くれたことを冷めた頭で考えた。
「……なら、二人で抗議しに行かなきゃ。この婚約を無効にしましょ」
「勿論だ!……ん?」
そこでようやく男はこてんと首を傾げた。
「ん?どうして貴様、新人メイドのくせに俺様の超プライベートを知っておるのだ?
……む、もしや貴様、父上の手先!?」
「察しが悪すぎて、呆れ返るわ……」
そもそもこの豪奢なドレスを見てメイドだと思う方がおかしいのに、そんな常識すらわからないほど、彼は女の服やら生態やらに興味はないのだろう。
彼の興味を掻き立てるのは、それこそ苔だとか草なのだろうか?
「さ、行くわよ」
「な、メイドの分際で俺様を引っ張るな!」
「うわ、なんか服がベタベタする……」
「文句を言うなら離せ!!おい!!!この馬鹿メイド!」
「馬鹿はあんたでしょ!私がメイドに見えるのかッ!」
そうして叫ぶ男を両手で引っ張りながら、外で待つマリアの元へ連れていく。
すると、女子トイレから出てきた不審者もといこの家の坊っちゃまの姿に、あの常に微笑みを浮かべるマリアですら、流石に顔が固まっていた。
✳︎
元いた応接室の扉を開けると、にこやかに座って談笑している二人が目に入った。
その光景に、やはり意気投合してしまったのかと苦虫を噛んだが、それも当事者二人が直談判したら状況も変わるだろうと気合を入れる。
隣でまだギャーギャー騒ぐ小汚い男を無視して、一呼吸して口を開いた。
「ウィリアム様をお連れしました」
ぴた、と父親二人の口が止まりこちらを振り向く。私たち二人が連れ立っていることに目を見張る父親ズをよそに、私はスラスラと言葉を紡ぐ。
「私もウィリアム様も先ほどお互いの意思を確認しましたの。やはり、今回の婚約は時期尚早かと。一度白紙に戻してお互いに考える時間が必要だという結論になりました」
まあ、事実上の破談だ。
そう宣言すると、隣の瓶底眼鏡がクワッと目を見開いた。
「なっ……!?おのれ……さては俺の婚約者かっ!!図ったな!!」
「え、いま気付いたの……?」
本当に誰なんだ、こいつが天才とか言ったやつ。
すると侯爵がガックリと項垂れたのが見えた。そしてその背中を優しく叩く我が父親。ちょっと待てなんだその仕草は。いかにも友情生まれちゃった感じに見えるんですけど。
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