5 / 5
1
4
しおりを挟む瑠璃彩side
知らない天井だ――。
目を開けた瞬間、まずそう思った。
白い。
けれど病室の白ではなく、柔らかい乳白色の天蓋。金糸で縁取られ、静かに垂れている。
(……どこ)
身体を起こそうとして、ふと気づく。
ベッドが大きい。
天井が高い。
呼吸をするたび、かすかに香る花の匂い。
森の奥みたいな、少し甘くて落ち着く香り。
「……夢?」
呟いた声は、ちゃんと響いた。
次の瞬間。
コン、コン。
控えめなノック音。
「お目覚めでしょうか?失礼いたします」
扉が開き、入ってきたのはメイド服の女性だった。
確か、セラだ。、
「おはようございます、聖女様」
――聖女。
その言葉に、胸がきゅっと縮む。
そう言って、セラは深く一礼した。
(……夢じゃない)
昨日――いや、時間の感覚があいまいだけど。
光に包まれて、祭壇に立って、神の声を聞いて。
『我が娘』
そう呼ばれた。
現実だ。
「ご体調はいかがですか?」
「……大丈夫、です」
そう答えると、セラはほっとしたように微笑んだ。
「では、王太子殿下がお待ちです。本日より王宮でのご生活について、ご説明があると」
王太子。
頭の中で、金髪碧眼の青年の姿が浮かぶ。
(……あの人)
「身支度をお手伝いしますね」
セラの合図で、別のメイドたちが静かに入ってくる。
柔らかな布。
薄い下着。
その上から、淡い白と水色を基調にしたドレス。
重くない。
けれど、確かに“特別な服”だった。
「……これ」
「聖女様に相応しい正装でございます」
鏡に映る自分は、見慣れない。
腰まで伸びた黒髪。
その中に、ひと束だけ混じるプラチナブロンド。
(……私、だよね)
現実感が、まだ追いつかない。
――――――――――
王太子の執務室は、静かだった。
重厚な扉。
磨かれた床。
窓から差し込む朝の光。
「おはようございます、ルリイ様」
先に立っていた青年が、穏やかに微笑む。
「よく眠れましたか?」
「……はい」
リディム様,,,
この国の王太子。
「昨日は、あまりにも急でしたからね」
彼は椅子を勧めながら、ゆっくり話し始めた。
「今我が国は1000年前に初代皇帝様が聖女様と一緒に封印したとされる魔王が解き放たれようとしています。」
「また、その影響で魔障沼という魔物を生み出す沼が国全体に発生してます。聖女様には魔物や魔障沼をも浄化できる力があると伝承されています。」
「ぜひ力を貸していただきたい。」
(……私にできるかな、
……たくさんの人の前で歌うとは慣れてるけど、それは私の歌を認めてくれた人たち、
この世界は、私を、受け入れてくれるのだろうか、)
俯いてそう思っていると、
「無理に、理解しなくて大丈夫です」
王太子様は優しい眼差しで笑っていた。
「そのようなことしなくてもルリイ様はただ、平和に過ごして頂いても構いません、 。これは私たちの国の事情、ルリイ様に危険な立ち回りは私はさせたくないです。」
「しかし王太子としては、先程のようなことをお願いしなければならないのですけどね?」
王太子様はお茶目な顔をして、人差し指を口元に持っていき笑っていた
「しばらくは王宮で過ごしていただきます。衣食住はすべてこちらで用意します」
「護衛も付きます」
「……護衛」
「はい。現在調整中ですが、それまでは――」
扉の脇に控えていた人物に視線を向けた。
赤のグラデーションがかかった髪。
凛とした立ち姿。
「エルド・シュノワールが、あなたの護衛を務めます」
エルドは一歩前に出て、軽く頭を下げた。
そして、、
「よろしく、ルリ」
と、眩しいほどの笑顔で笑っていた。
呼び捨てされたはずなのに、、
でも、嫌な感じはしなかった。
「強い人です」
リディムは、はっきり言った。
「騎士団所属ではありませんが、私の側近でもあります」
「……はい」
説明を終えると、リディムは立ち上がった。
「私が案内したかったのですけど、これから公務があって、」
「後ほど、またお会いしましょう」
「それまで、エルドに王宮を案内させますね」
案内されながら廊下を歩く途中。
ふと、遠くから響く音が聞こえた。
――金属音。
――人の声。
(……なに)
その瞬間、空気が変わった。
「……騎士団だ」
エルドが、低く言った。
「帰還した」
曲がり角の先。
担架。
血に染まった布。
支えられて歩く騎士たち。
第2騎士団。
魔瘴沼討伐からの帰還だった。
「……っ」
足が、止まる。
誰かが気づいた。
「聖女様だ」
視線が集まる。
「聖女様なら……」
「歌えば……」
言葉が、重なっていく。
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
(……)
何も考えられない。
ただ、音が消える。
エルドが前に出た。
「やめろ」
一言。
「今は治療が先だ」
「ルリ」
振り返る。
「ここで少し待っていてくれ」
「殿下に、報告してくる」
確認する目。
瑠璃彩は、うなずいた。
――――――――――
その間に、治療は進んだ。
ポーション。
魔術。
助かる命。
でも。
「……結局、助けてくれなかった」
「聖女様なのに」
ささやきが、刺さる。
部屋に戻ろうとした、そのとき。
「――君が、聖女か」
低い声。
振り向くと、知らない男が立っていた。
水色がかった銀髪。
冷たい青の瞳。
「名を名乗ろう」
一歩、近づく。
「俺はゼノベルト・シュバルツ」
「この国の公爵であり、王国騎士団総団長だ」
氷のような魔力が、かすかに漂う。
「……」
瑠璃彩は、何も言えない。
「なぜ、魔法を使わなかった」
問い。
逃げ道がない。
「聖女なら、救えた」
「力は、あったはずだ」
言葉が、重なる。
喉が、動かない。
「答えられないのか?」
追い詰める。
「それとも、答えたくない?」
「……っ」
何も、出てこない。
そのとき。
「――そこまでだ」
声が割り込んだ。
エルドだ。
「総団長」
「彼女は、今その問いに答える必要はない」
「神は、守れと言った」
「使えとは、命じていない」
沈黙。
ゼノは、しばらく瑠璃彩を見つめてから、踵を返した。
「……覚えておけ」
「戦場は待ってくれない」
去っていく背中。
エルドは、深く息を吐いた。
「……ごめんな、ルリ」
「ひとりで待たせるんじゃなかった」
「俺の判断ミスだ」
瑠璃彩は、何も言えず、ただ俯いた。
何がアイドルだ、
好きだったはずの歌が、
まだ、遠かった。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです
籠の中のうさぎ
恋愛
日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。
「はー、何もかも投げだしたぁい……」
直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。
十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。
王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。
聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。
そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。
「では、私の愛人はいかがでしょう」
【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする
楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。
ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。
涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。
女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。
◇表紙イラスト/知さま
◇鯉のぼりについては諸説あります。
◇小説家になろうさまでも連載しています。
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
新人さんっぽいけどストーリーは私好みでこれから期待です!!!