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83 嫉妬
しおりを挟む「私は仕事と割り切っておりますが、アデライン様がどうお考えになるのかはご自分次第。ですがバーンスタイン侯爵がその手の中から彼女を失いたくないと思っている事は事実ですのよ? 彼自身、私には気持ちは御座いませんし私もそれは同様です。そもそも私は子を成せない体ですので」
「じゃあ、何故あんな嘘を?」
俺の問に彼女は意地悪な顔を一瞬して
「嫉妬ですわね」
「「え?」」
そう言って笑った顔は艶やかで。
「アデライン様は恵まれております。私共のように実の親に売られた訳では御座いませんでしょう?」
「「え?」」
「しかも在学中に私の恋焦がれた方に愛されておりましたのにその手を振り切って侯爵様の元へ嫁がれました。なのにそれ自体を後悔しておられるご様子です」
「・・・え」
彼女は小首を傾げて俺の顔を見た後でふわりと微笑んだ。
「そして今も陽の当たる場所に堂々と立って輝いていらっしゃる」
何でだろう、じっとりとした焦燥感に駆られる・・・
「だからでしょうか? 気まぐれに出席した夜会でバーンスタイン侯爵にお会いして最初は相談の内容に心当たりがあった事、そして彼と貴方様のアデライン様への愛情の深さを知って己の身の上を振り返り、気がついたら嫉妬していましたの」
フフフッっと小さく笑う彼女。
「ですからこれ幸いに意地悪をさせて頂きましたわ」
そう言って彼女は妖艶に微笑んだ後、立ち上がり見事なカーテシーを披露した。
×××
出口で白いレースの日傘を広げるとそれを両手で持ち、暑い中をゆっくり去っていく後ろ姿は優雅で完璧な淑女だと思った。
今回の新聞沙汰は無かったことに本当になるのだろうかとぼんやり考えながら見送る。
「兄さん、モテるじゃん」
「・・・」
隣に立つクリスの独り言が暑い日差しの中で空気にドロリと溶けたように感じた――
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