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終章――虹を越えて

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 凛はばさばさと押入れにしまわれた書類やはがきを掻きだし、双葉の顰蹙を買っていた。

 「ちょっと凛、埃になるじゃない。ちゃんと掃除しといてよ」
 「わかってる。――母さん、あのさ、親戚に外国人とかいる? その、イギリス人とか」
 「突然なーに。友人ならいるけど……それはないわね。きいたことないもの。第一、そういうのって顔に現れるんじゃない? 面白いこと言う子ねえ」
 「はは……そうだよね……」
 昨夜帰宅してから考えに考えたがどう考えても親戚にイギリス人はいない。恐らく母の血筋ではないだろうと思っていたがやはり違った。だとすれば父の血筋だが――。
 (父さんが浮気しているとか考えたくないな。でも父さんは真面目だしそれもないか……おばあちゃんは……)
 祖母についての資料は乏しい。押入れをあさっていてもたいしたものは見つからなかった。早くに亡くなっているのだ。
 (外国人と付き合っていたような感じにも見えないし……イギリス人かあ……イギリス……あっ!)
 凛は思いついた衝撃で物をあさっていた手が止まった。
 (イギリス! おじいちゃんが行ったことがあるって言ってたじゃないか! でも行ったと言っていただけで詳しくは知らない……)
 雪之助の遺したものを調べたが、渡英した記録は見つからない。そもそも雪之助には謎が多いのだ。写真など、晩年の物しかない。
 (イギリスに行ったのはうんと若い時だったのかもしれない。だから何も残って無いのかも……)
 思えばなぜ徹底的に若い時の写真や品などがないのか。戦争で燃えたのだろうか。凛は焦る。自分が知っていた雪之助の姿が形を変えていくようだ。凛の知らない、誰か。
 ――ガサ、と手に紙片があたる。はがきだ。
 (そういえばおじいちゃんに年賀状を出していた人がいたんだった。葬式にもきて……)
 凛はあちこち探り、雪之助の葬式の際使用した名簿をひっぱりだした。さらにはがきも一枚一枚確認し、雪之助の古い学友と思われる名を見つけた。
 (全部で三人、男性だ。電話番号は無い。住所だけ……この三人なら何か知ってるかも)
 凛は早速この三人にあてて手紙を出すことにした。雪之助の孫であること、雪之助について知りたい事があるなど……。緊張で文字を書く手が震えた。三人が生きているかはかなり厳しいところだ。三年前死んだ雪之助は九十七歳だったのだから。

 後日案の定、本人は亡くなっているという手紙が二枚届いた。ため息しか出ない。落胆してこれからどうしようかと思っていた矢先、期待の返事が届いた。白河紺之助という人の代筆というはがきだった。雅に、桜の花が織り込まれた和紙で出来ている。内容は、本人は手紙先の家にはおらず、今は老人ホームに入っているのでそこを訪ねてほしいとのことだった。老人ホームの住所と電話番号が書いてある。凛はネットで通行手段を調べ、電話をかけて面会時間を確認した。

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