18禁BL/ML短編集

結局は俗物( ◠‿◠ )

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主人公じゃなかったから 全14話/三角関係/大学生/陽気攻/意地っ張り受/イラマ/乳首責め

主人公じゃなかったから 1 親友に片想いしてるあいつが気に入らないって話。

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 主人公だったなら幸せにできたのかもね。

 僕の親友の佐伯 達央たつひさは孤高の人って感じだった。それでも来るものは拒まないし去るものは気に掛けるけれど追いはしない。それでいて来てないものにも救いの手を差し伸べる、なんだかヒーローみたいな人だった。素直に認めるのはちょっと癪。
「話聞いてるの?」
 隣の席に座った女の子、名前は忘れたけれどとにかく可愛い子は僕の視界を塞いでしまった。目の前いっぱいに可愛い女の子ってのは、ありがたいことだけど、気になりもする。
「ごめん、ごめん」
 達央たつひさは他所の学科のやつと話していた。眼鏡にほとんどオールバック、ほとんどオールバックって変だな、後ろに髪整えてある感じが真面目で誠実そうな、そんなやつと少し楽しそうに話していた。意外な組み合わせだ。達央は人に囲まれて、自分から多く喋ろうとしなくてもその中で中心でいられるようなタイプで、話してる相手の桐島は1人が好き・群れるのはバカ・馴れ合うなって感じのやつだった。僕はまた気を取られていた。隣の女の子が頬を膨らましてムッとした。達央は髪を遊んでスタイルはいいそれに見合う服装も洒落てる。持って生まれたセンスってやつだ。だから僕も少し達央に合わせて瓶底眼鏡をやめてコンタクトレンズに変えたし髪も染めた。チェックのフランネルシャツも捨てて服にもこだわった。達央は今はちょっと時間が合わなくて席が埋まって離れているけれど普段はすぐ近くにいるから友達がそんなんじゃ達央まで変な目で見られそうで。別に無理をしているわけでもなくそれはそれで僕自身も根暗で人見知り、ヲタクだなんだと揶揄われていた頃から脱却って感じで利でもある。
 桐島と何を話しているんだか達央はけらけら笑っていた。すると達央の周りの奴等も混ざったみたいで、桐島は顔を真っ赤にして達央の前から走っていってしまった。なんか妙な安心感のある達央は別として大人数相手になったからとか、そもそも内気だとか実は恥ずかしがり屋だとかそれとは別にマイペースだとかじゃない。桐島は達央が好きだ。桐島は分かりやすい。太陽と月って感じだ。
 また余所見をした僕に怒って隣の可愛い女の子は本当に怒って行ってしまった。それをただ空いた席で知る。
「タツオ~!こっち来なよ~!」
 大講義室で僕は叫んだ。達央が振り返って僕の場所に気付く。周りの奴等も振り返った。少し心地良い。達央は髪を掻いてやれやれって感じでそれでも僕の隣に来てくれるようだった。何て呟いてるのか分かる。きっと「しゃ~ね~なぁ」って言ってる。
「おはよ、タっちゃん」
「お前なぁ」
「いいじゃん、いいじゃん」
 隣の達央にもう少し寄った。桐島がいるはずの席を振り返る。僕より後方だった。探せど探せど桐島はいなかった。出席登録逃げするようなやつじゃないのにな。
「どした?」
 達央が桐島を探す僕を気にした。見ときなよ、桐島。桐島には達央、全然似合わないよ。



 桐島は裏の会館の陰にいた。青い芝生と太陽に向いてるベンチに座っていた。やっぱりひとり。周りにもそんなに人がいなかった。本館の食堂が改修されてからはもうただの屋根がある休憩所に変わった第二食堂とか喫煙とかちょっと鯉とか亀がいる小さな池があるくらいで僕等は特に用もそんなにない場所だった。
真樹まきち」
 少し怖い顔をした桐島が僕を見た。いつも不機嫌そうに険しい顔をしている。神経質そうだし生きづらそう。僕にもそうだし達央にもそう。
「この前達央と何話してたの」
 ああ僕って性格悪いな。人馴れしてない野良猫みたいに日向ぼっこをしている桐島は僕を睨んだ。ドラ猫ってほどには太々しさみたいなのがない。その日生きるのに精一杯な野良って感じで少し構いたくなるような。少しどころじゃないな。
「君には関係ない」
 僕は達央と居ることで身に付けた笑みを晒す。
「いいじゃん、いいじゃん。教えてよ」
 桐島は僕を睨むのもやめてしまった。つまらない。達央と何話してたのさ。どうして達央とばっか話すのさ。僕のことだって知らない仲じゃないじゃん。ちゃんとした出会いは電車の中だった。痴漢に遭ってる女の子に達央が気付いて桐島は痴漢を捕まえるのに協力した。そこで知り合った。だから出会いは達央と同時。なのに桐島は達央ばっか見てる。なんでかね?達央はみんなの太陽だからかね?なんでかな、桐島くん?
「放っておいてくれ」
「ふぅん。じゃあ達央に教えてもらえばいいや。内緒話じゃないなら教えてくれるよ」
「……相談」
「相談?」
 僕は桐島の顔を覗き込んだ。でも反対あっち向かれちゃう。ただの世間話じゃない、もっと込み入った話ってことらしかった。僕はまたにやにや笑ってやった。達央に何の相談するの?恋の相談?どうしたら好きな人に好かれるかって?まったく、僕抜きで面白い話してるよな。
「何の相談?」
「何だっていいだろう!」
 桐島はちょっとイライラし始めた。僕は笑って受け流す。本当に分かりやすい。扱い方も簡単。
「気になるんだよ」 
 桐島はベンチから立ち上がって行ってしまおうとした。僕はなんかちょっと年増じじ臭い感じもする腕時計が巻いてある手を掴んで引き止めた。
「放せ!」
 桐島は怒って力いっぱい僕の手を振り払った。潔癖っぽいからね、僕に触られたのが嫌なんだろうな。腕時計を直して僕の触ったところを何度も撫で摩る。そんな汚いかな、僕。トイレの後絶対手、洗ってるんだけどな。それとも僕だから…達央の手じゃないからか。
「ねぇ」
 桐島の気持ちを汲んで直接肌じゃなく袖ごと腕を掴んであげる。僕も達央みたいに話の分かるいい奴だからさ。
「放…っ」
 ベンチの置かれたすぐ傍の裏会館のガラス張りに桐島の背中を叩き付けた。鋭い目が見開いて、ちょっとスカッとした。腕時計がコンクリート打ちの建物にぶつかった。袖に包まれてるから傷は入ってないと思うよ、って教えてあげるには僕にも桐島にも余裕はなかった。怖がっているのか驚いているのかいつもは皺作ってる眉毛が今じゃ可愛いく持ち上がってさ。両腕に閉じ込めちゃった。左腕は僕が握ってるし、肩も押さえてある。あとは「いただきます」って呟いて、少しぽってりした唇に顔を寄せる。でも腕掴まれて、角度的に桐島じゃなかった。
「何してんだ」
 少し呆れたような調子の達央の声だった。僕は「遅いよ~」って言って彼の肩に触れた。見ておきなよ、桐島。
「遅いよ。本当に真樹ちにチッスしちゃうところだったじゃん」
「探したんだよ」
 僕と達央の世界を作っちゃえば桐島は僕にぶつかってどこかに逃げ出した。顔赤くしてさ。桐島の匂いが残ってる。整髪料と見た目に合わない優しい香り。
「あんまり桐島をいじめるなよ」
「ははは、つい可愛くて」
 達央は付近そこにあるベンチに腰掛けた。僕もその隣に座る。適当に置いた手の上が温かくなって重くもなった。達央の厚い手が乗ってる。面倒見いいけど僕にはたまに甘えてくる。みんなの親分兄貴分っていうのも大変なんだろうな。
「冗談だったなら、邪魔しちまって悪かったな」
「え?」
「いや…さっきの」
「ああ、全然!むしろタツオが来てくれてよかったって!僕も収集つかなくなっちゃって困ってたんだ」
 達央は興味無さそうな反応で唇を尖らせた。桐島、聞いてるぅ?達央は全然興味ないよ、あんたのこと。ここまでだといっそ哀れだね。
「ま、冗談でもあんまりやらないことだな。特に女子には」
「女の子にはやらないって!流石にね!」
「どうだか。オレもすぐお前の傍に来られるわけじゃねぇんだし」
 ちらっと達央は僕を見た。息ぴったり。最高の友人。
「え~、すぐ来てよ」
「呼ばれりゃ行くさ」
 達央からこんな言葉聞けたら、桐島はどんなカオするのかな。顔真っ赤にして憎まれ口叩くのかな。喜んでぼろぼろ泣いちゃう?それとも醜悪ぶっさいくに笑うのかな。
「頼もしいね」
 突然肩を抱かれて僕はびっくりした。
「お前を一番に優先するよ」
 瞬時に理解した。ふざけてるんだ。どうしてこういう時に桐島見てないかな。僕と達央は親友。だから僕は達央を信用してるし信頼してる。お人好しで面倒事に巻き込まれ体質でなんだかんだ困った人を放っておけない達央が僕を優先するなんて有り得ない。何故ならやっぱり僕等は親友で、達央も僕を信用してるし信頼してるから。
「はい、はい。控えますって」
「しないって言えよ、そこは」
「いやぁ?可愛い子いたら分かんないね」
 僕は前を見たけどまだ達央は僕を見ていて、達央は面倒臭がりのクセに本当に面倒見がいい。
「冗談だって」
 達央は形の良い眉を片方上げた。かっこいい。性格もいい。頭もいい。センスもいい。確か家もなんか凄かったはず。まず住んでるところが高級住宅地だし。少女漫画なら王子様。少年漫画なら…主人公かな?僕が昔からやってたゲームは農民から英雄に成り上がるストーリーだったからな…でもひとつ言えるのは生まれ持って全部揃ってるのに驕らないんだもんな。高校からの付き合いだけれど、教室の隅で本ばっか読んでガリ勉だの陰気だのヲタクだのロリコンだの言われてる僕に構って色々なところに連れ出してくれたのは達央だった。元々僕は人が嫌いだったわけでもコミュニケーションが苦だったわけでもなかったけど、中学の時にいじめられてたから。太ってたし、髪も長くてどもりもあって気持ち悪いって。手がぶつかったクラスで人気の女の子に当時は有る事無い事言い触らされたっけ。これでも小学時代はよく喋ってたほうなんだけれど、思春期辺りでスクールカーストは面白いやつより小洒落て見た目もいいやつが上にいく。残念だけど僕はそのどちらでもなかったから最底辺。見た目も気色悪いし口数も減ったとなればさらに気持ち悪がられて、腫れ物扱いは排他に変わる。いじめを肯定するわけじゃないけれど、当時のアルバムでも見せればじめられてたって言ったらすぐ納得される。この前の合コンじゃ完全に冗談だと思われたし何ならいじめてた側だと思われてたね。達央は呼ばれなかったけど。呼ぶことも禁止された。理由は簡単、女の子全員持ち帰っちゃうから。持ち帰らないけれど。達央はあんまりフツーの女の子には興味ないみたい。よかったじゃん、桐島。でも桐島のことも興味ないけどね。達央はどこかの家柄もよくて美人で学歴も高い教養のあるモデルさんみたいな女の人と結婚するんだろうし、そうでなきゃ釣り合わないし僕は嫌だな。達央の興味を惹く女の子っていえば清潔感もありつつかなりの華やかな美形なんだし。たまに街ですれ違ってあの子可愛いよね、って言ったら大体同意する。桐島みたいな真面目で堅そうで地味なタイプはたとえ女の子でも負け確定かくだったってワケ。残念だね、桐島。
 達央は無言のまま日光を浴びていた。話すことなくても気拙くない。前屈みの広い背中を僕は眺めていた。桐島は出来ないね、隣に座ることだって出来ないんじゃないの。かわいそ。
「桐島と仲良かったんだな」
「いや、全然。どっちかって言うとタツオくんのほうが仲良いんじゃない」
「そうか?」
 達央は僕を振り返る。だってそうでしょ、桐島は僕のところに自分から来たりしない。でもさっき桐島は達央のところにいた。まだ何か訊きたそうなちょっと疑ってるみたいなカオで、面倒見のいい達央のことだから僕が桐島を揶揄ってないか心配なんだな。本当に優しいいいヤツだよ。でも勘違いしないでよ、桐島。達央はみんなに優しいの。桐島だけにじゃない。みんなに優しいし桐島はそのみんなの中のひとりに過ぎないの。だからここで僕が自分から桐島に近付いた、なんて言って達央の注意を引くようなことしないんだからね。
「そう、そう」
「あいつと今度ちょっと買い物行くことになったんだけどさ」
「へぇ!珍しいこともあるじゃん」
 僕は思わず食い気味になって、達央はそれをちょっと笑った。
「あいつの妹さんの誕生日プレゼント選びにな。オレの妹と同い年なんだよ」
「あれ?姉ちゃんいるって言ってなかったっけ?」
「妹もいるんだよ。言ってなかったか?」
 「聞いてないよ」って言ったら「じゃあ今言った」って達央は言った。それよりも僕は、僕の知らなかったことを桐島が知ってることが引っ掛かってなんだがちょっと面白くなかった。
「女同胞きょうだいの真ん中なんだ?これはモテる理由が分かったね」
「生まれ持ったセンスだよ」
「違いない」
 謙遜しないところもいい。だって達央がモテるのは目に見える事実だから。ここで謙遜するほうが傲慢だと思うくらい。多分僕に近付いてくる女の子の半分は達央目当てなんじゃないかな。そのためには僕から探りを入れる必要があるわけだ。将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、ってことわざもあるくらいだし。伊達にひとりで本読んでないからね。
「成瀬は?最近どうなんだよ、色恋コレは」
 小指出して下唇突き出して達央は訊いた。いつの時代だよって感じで僕は思わず笑ってしまった。
「あ~、僕?全然っ!達央といるほうが今は楽しいし」
 可愛い女の子好きだけれどね、やっぱり中学・高校って女の子にも避けられて陰口言われて、痩せてちょっと見た目いじったら擦り寄ってくる…っていうのが別に同じ女の子じゃないけれど、女の子って大雑把な概念の単位でいうと僕はあんまり信用できなくなっちゃった。可愛い女の子とか優しい女の子とかは勿論好きだよ。ただやっぱり付き合うってなるとどうも。
「今は?」
「タっちゃんがカノジョ作ったら僕も考えようかね。ただタツオより一緒に居て楽しいカノジョってハードル高いよ」
 桐島本当に可哀想だよね。達央はノンケで、桐島のことなんか好きにならないよ。桐島は達央の隣も歩けない。男って時点で他の女の子たちよりもずっと難しいことに気付いてさっさと諦めたらいいのに。惨めなやつだよな。それが桐島らしくもあるけど。
「はぁ?オレは成瀬のカノジョかよ?」
「ははは、まぁ、理想のカレシではあるよね」
 達央のカオがちょっと深刻そうなものに変わった。腹でも壊した?
「付き合ってみるか?」
 役者モードに入ったね。女の子と桐島に言ったら本気にしちゃうよ。桐島なんか嬉し過ぎて泣きながら漏らしちゃうんじゃない?かわいい~。恥ずかしさで顔真っ赤にしちゃうんだろうな。絶対その場に居合わせたいしシモの世話までしてあげるよ。恩着せて写真撮って脅して好き放題するのもいいな。そうしたらまず何させようかな。
「フゥ~!タっちゃんかっくぃい~!」
 でも達央は桐島にそんなことしないよ。僕にしか言わないでしょ、こんなリスキーなこと。本気にしてカノジョでも名乗られたら面倒臭いし、何より達央はこういう冗談嫌いでしょ。僕にくらいは許されてるよ、何たって親友だから。
「そろそろ行くか」
「うん」
 僕の頭はもう恩着せて写真撮って脅した桐島に何させるかってことばっかり考えていた。ナース服着させるのもいいし、恥ずかしいこといっぱい言って泣かせるのもいいな。いつも後ろにやっちゃう髪型やめさせてデートでもしてもらおうかな。あ~、でもそんなことは起こらないんだよ、桐島。付き合ってみないか、なんて達央があんたに言うことは億万が一にもないんだよ。可哀想だね、桐島。


 桐島は今日はロッカー棟の裏の芝生にいた。空は晴れて日差しも強いのにそこは軒下だし薄暗かった。どうして一箇所ひとっところに居てくれないかな。芝生に座ってるって潔癖性じゃないの?じゃあこの前の僕が触ったからか。
「真~樹ち」
 桐島は僕を見た。それであからさまに嫌そうなカオをした。初めて名前を知った時に「女の子みたい」って言っちゃったのを根に持ってるんだな。僕も礼斗あやとだからそんなに人のこと言えないね。でも達央が「良樹と和樹とか直樹とかと同じようなもんだろ」ってフォローして、もしかしてそんなので好きになっちゃったのかな。チョロくない?桐島。
「…何の用だ」
「別に~?たまたま見かけたから」
 たまたま見かけられるような場所じゃないけどね?わざわざ建物の壁とフェンスのある花壇に挟まれた狭い通路通らなきゃまず来られないし。
「達央と買い物行ったんだ?良かったじゃん」
 僕は芝生に座ってる桐島の隣に座った。でも桐島はひとつずれた。黙ったままで僕のこと見てくれもしない。立ち上がってみても、桐島の前に立ってみても。首元まで締めてあるシャツの胸ぐらを掴んで立たせ、ちょっと荒い壁に押し付ける。
「あんまり調子乗らないでよ」
 僕は俯く桐島を遠慮なくじろじろ見た。舐め回すように見た。実際ベロベロ涎まみれになるくらい舐め回しても良かった。達央とデートできたんでしょ?大好だぁいすきな達央と?妹の誕生日プレゼントねぇ?なのになんでそんなつまらなそうなツラしてるかな。いつものコトだけれど。
「酷いな~。僕のコト誘ってくれても良かったのに~」
「…本当にそう思う」
 意外な返しだった。桐島は俯いたままで元気も張り合いもない。つまんない。
「ははは!もしかして会話持たなかったの?誘ったクセに気、遣わせたんだ?」
 桐島は柔らかそうな唇を噛んだ。いつも何か塗ったみたいにツヤがある。図星か。
「……そうだ」
 諦めなよ。可愛い女の子だって達央は無理なのに。可愛くもない、女の子でもない、明るくもないし喋りもしない桐島のこと、達央が好きになるわけないじゃん。
「僕にしなよ」
 少しだけ桐島は僕を見た。180cmある達央は置いといて、173cmある僕より少し背が高いみたいだ。でもほんのちょっと。大差ない。177㎝くらい?線が細いから僕よりもっとずっと低いのかと思った。
「……は?」
「僕にしなよ。達央は無理」
 また俯きそうな顔を覗き込んで逃さなかった。唇を塞いだ途端に抵抗されて噛まれる。熱くなって腫れた感じしたけど関係ない。構わずあのぽってりした唇に僕の口を押し当てる。飲みなよ、僕の出血トマトジュース。桐島は嫌がったけどそうじゃなきゃ意味ないよ。
「や……め、ろ!」
 桐島は首を竦めたり顔を背けたり僕から唇を離そうとするけれど、離すわけないじゃん。首に手を回して頭を固定する。詰めが甘いよ、さすが桐島。僕は開けっ放しの口の中に舌を挿し入れた。ただ揶揄ってると思ってるのかな。こっちは桐島と初めて会った時から意識してるっていうのに。
「ん、んぅ…!」
 こういう時は来てくれないんだよな、達央は。来てくれないっていうか、僕等はすぐ見つかる場所に居ないんだけれど。ちゃんとここでも噛めばいいのに桐島は僕が無理矢理舌を絡めても無抵抗だった。ただ壁がおろし器みたいになって桐島は下に滑っていく。へろへろになっていた。口の中で逃げ回っていた舌がもう僕の思いのまま、れろれろ舌先同士がぶつかり合った。身体は汗ばむほど暑かったのに混ざった唾液は冷たかった。
「ぁ…」
 感じやすいのかな、見た目のとおり。放してあげたら潤んだ目で僕を見上げて、口元を拭った。腹の奥底がじんじんした。ちんこ勃ちそう。桐島は無用心に大股開いて口を気にしていた。僕に遊ばれた口を閉じられないみたいでダラダラ涎垂らして、それは芝生に落ちていく。桐島も勃起してる。情けないし惨めで可哀想な桐島にもちんこ付いてんだな。粗末な包茎に決まってる。スニーカーのままは可哀想だから優しい僕は靴を脱いで靴下でその膨らんだところに足を乗せた。潤んだ目が怯えて僕を見た。スマホが鳴ってる。電話だ。
「ああ、タっちゃん?」
 膨らんだところに置いた足を振動させた。敢えて電話の相手の名前を出してあげるとちょっと震えたのが分かった。
「あ~ごめん、先に出てきちゃって。うん、どこだと思う?」
 桐島の意見を仰いであげた。ここは桐島の見つけた場所だからね。爪先と踵で勃起をもっと大きくする。桐島は口を押さえて首を振った。可愛く上目遣いで言わないでって言ってるね、言ってないけど。
「タツオのいる場所どこ?僕が行くよ。売店で飲み物買いたいし」
 桐島は明らかに安心した様子を見せた。油断しないでよ、まだ僕は目の前にいるでしょ?もう少し派手に擦ってやると桐島の身体が強張った。涙を浮かべてる姿も可愛い。情けないね。僕の足コキでイっちゃう?まさか僕が誰かの足コキする日が来るなんて思わなかった。エロ漫画とか官能小説で見たことはあるけれど、されることはあってもすることはないと思ったよ。してみたいと思ったこともないし。でももう完勃ちみたいだし、このままイかせないで自分でやらせたほうが絶対面白い。
「ぁ…あ、ぅ…、」
 こすこすしてた足をスニーカーに戻す。残念そうに桐島は唸った。潔癖っぽいのに桐島もオナニーとかするのかな。するよな、男なんだし。でも夢精するまで溜め込んじゃうとかありそう。達央のコト想って案外大胆なことしてるかもよ。女で用足し…はないな、モテなそうだし童貞っぽいし、やっぱりそういうのに対しても潔癖っぽいから。
「もう行かないと。また遊んでよね、真樹ち」
 僕はもう振り返らずに達央との待ち合わせ場所に向かった。桐島はあの勃起どうするのか考えるだけでも僕はニヤニヤが止まらなかった。


 達央はすぐに見つかった。どうせ誰かのお手伝いとかしてたんでしょ、達央のことだから。達央は僕に会うなりいきなり腕を掴んで引き寄せた。視界いっぱいの男前に僕はちょっとドキっとした。男でも見惚れから仕方ないね。桐島が好きになっちゃうのも仕方ない。
「何?」
「目付きが変だった」
「は?」
 達央はすぐに顔を背けた。僕は意味が分からなかったけれど、ニヤニヤしていたから多分それのことだ。
「いや…なんでもない。忘れてくれよ」
「ああ、僕がイケメンって言いたいんだね。タっちゃんには負けるケド」
「女といたのか?」
 話聞いてないな、ツッコミ待ちだったのに。
「全ッ然。むさいところにいた」
「そうか」
 達央は僕の肩を抱いて腕を叩いた。
「それより、この前真樹ちとデートしたんでしょ?どうだった?」
 デート、だなんて桐島しか思っていたくないよ。とんだ勘違いだよ、桐島。あんたと達央がデートだなんて、寝言は寝て言えって話。でも桐島は別にデートだなんて言ってないか。圧倒的な差が分からないほどバカじゃないよね、桐島は。
「ブレスレットとお揃いのヘアピンを買った」
「ふぅん」
「もう少し会話を回してやれたら良かったんだけどな。どうも…何を話していいやらで」
「あんまり喋るの得意そうじゃないもんね~、真樹ち」
 今頃桐島は何してるんだろう?近くのトイレの個室に入って虚しくシコシコしてるのかな。僕に足コキされたクセに達央のこと考えてさ。
「お前はよく喋ってくれるから助かるよ」
 桐島が見てるわけないのにどっかで桐島が見てる気がして僕は可愛いカノジョみたいに達央の腕を組んだ。見とけよ、桐島。きっと今頃トイレでひとり励んでるんだろうけれど。情けないオナニーしてるんだろうな。僕はまた腹の奥がじんわりした。今夜は桐島の惨め片想い大胆オナニーで僕も気持ち良くなろうかな。桐島は責任取らなきゃなんないよ。僕はもう、可愛い女の子の大きなおっぱいにもきっつきつのあそこにも反応しなくなっちゃったんだから。もう夜が待ち遠しいよ。なんであの時写真を撮っておかなかったんだろう。網膜にはばっちり残ってるんだけれども。
「じゃあ僕ともデートする?」
 桐島に話すことが増えた。あとは達央の返事次第だ。別に達央とはよく出掛けるんだし、この前は温泉旅館まで行った。その前は海行ったし。でも桐島に話すほどことじゃないし、そんなこと桐島に話したってね。きちんとここは桐島と関連性がないと。
「するか?どこか行きたいところがあるならリストアップしておけよ。予定空けておく」
「旅行とかじゃなくて、もっと普通に食べ歩きとかさ。後学のために達央のデート術教えてよ~」
 組んだままの腕を揺るがす。桐島が見てたらいいのに。似合わないのになんで達央をデートになんか誘ったのさ。惨めだね。おとなしくオナニーでもしてろよ。それか僕がしてあげる。
「オレよりお前のほうが得意だろ、そういうの。むしろ成瀬のデート術ってやつを知りたいな」
 可哀想な桐島とは違うからね、僕は誘った相手に気拙い思いさせないし、僕と達央の仲なら無言だって別に苦じゃない。桐島とは違うから。っていうか僕が桐島とデートすればいいんじゃないの?みんなに人気で誰もが付き合いたい達央をつまらないデートに誘うくらいなんだから当然僕の誘いも断らないでしょ、予定さえ合えば。
「楽しみにしてる」
 どんなカオするのかな、可愛いカオするだろうな。釣り合わないってことに気付いたら、僕にしなよ。僕なら話回すし、僕なら桐島といるだけで楽しいし気にしなくていいんだから。
「オレも…」
 組んだ腕を外すと達央は僕の手を握った。甘えただな~。それとももう達央のデート術は始まってるのかな。桐島はやってもらえなかったんでしょ、可哀想だね、桐島。下を向いて桐島が僕等を追い越した。呼び止めようとしたけれどあの情けない姿を見ているのも悪くなかった。遅れてあの優しい匂いがした。桐島に、地味な女が声を掛けて、2人ともぶっさいくな愛想笑いを浮かべて、僕は達央を置いて2人の間に割り込んでいた。
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