王都のモウカハナは夜に咲く

咲村門

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眠りを誘う甘い芳香

#1

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 年が明けてもう半月は経過致しました。
 窓の外は雪が降っており、外にいなくても寒さが伝わってきます。

 最近はフィルマに室内に入るように告げ、彼も私の部屋の中にいる事が増えました。
 彼もリィもですが、最近は会話が出来るようになったため外出の際に声をかけてくれるようになりました。
 ほんの少しのやり取りですが、季節に合わない温かさを感じる事があります。
 ビャンコ様には本当に感謝をしなくてはなりませんね。

 私は少し遅い昼食を食べながらいつもの習慣で新聞に目を通します。
 年末から時間も経っていますし、そろそろ年末のハナビに関する記事が消えて欲しいと考えています。

『聖獣局長からの贈り物に諸外国からたくさんの恋文レッテラ・ダモーレ!』

 ビャンコ様は元々女性から好意が寄せられる事が多いと聞いた事がありますが、それが加速しているようです。

 恋文レッテラ・ダモーレではありませんが、私にも年始にお手紙が届きました。
 ケータ様とギュンター様からです。
 送り主の名前を見た時はとても嬉しく思いましたが、ケータ様からの物がとても斬新な文面だったため返信に困っております。
 ギュンター様の方にはゾフィ様からも一文を頂き、相変わらずかなりの長さがあります。
 内容を要約すると、年が明けて少ししたらこちらに来る用事があるようです。

 お手紙を頂いてからそれなりに日数が経過しておりますので、そろそろ何か返さなければと思います。
 私はこういった経験が少ないため、どのように返すのが正しいのか分かりませんし、ケータ様の文章の比喩を理解する必要があります。
 今日はこの後市場に買い出しに行くついでに本屋へ立ち寄ってみることにしましょう。

​───────

 開店して一時間ほど経過した今夜は、今年初めてカズロ様とネストレ様がご来店されております。
 カズロ様はトロータのテリヤキの後でモチを、ネストレ様は白菜カブロチネーゼのアサヅケを召し上がっております。
 お二人は今日の新聞にあったビャンコ様への手紙の事をお話されているようです。

「去年より派手なハナビだったし、去年の話聞いた観光客が今年はいたそうだぞ」
「聖獣局宛の手紙凄いよね、ウチでもやってくれ! みたいな手紙が多いみたいだけど」
「まぁビャンコに言ってもどうしようもないがな」
「手紙も困ってたけど、最近イライラしてるのってアレだよね」

 カズロ様がフォークを置き、ジュンマイシュの入ったグラスに持ち替えます。

「リュンヌの人達どんどん厚かましくなってるよね……」
「今日もご夫人が来てたし、エルミーニも大変だが慣れてきてるようだな」

 それは慣れなくても良い範囲ですが、頻繁にいらしてるならそちらの方が楽なのかもしれません。

「懲りないよね……暇なのかな」
「わざわざ護衛に俺を指名するぞ、だからその間俺も暇だ」
「暇って、護衛しなよ」
「護衛も何も庁舎内だぞ。剣の出番などある訳がない」

​───────

 会議室にはミヌレ公爵夫人と付き人が数名、外務局の局員と局長が向かって座っている。
 正面を避けた位置に聖獣局の局員と局長、入口のすぐ横に必要性が見えない護衛のネストレがいる。

「本日こちらへ足を運んで頂きましたが、ご用件をお伺いしても良いですか?」

 笑顔など全く見せずに外務局の局員が夫人に問う。
 夫人は扇子で口元を隠しているが、眉間のシワと逸らした視線で不愉快に思っているのが伝わってくる。

「エルミーニ様、並びにビャンコ様、だったかしら?」
「私が何か?」

 エルミーニが「声をかけられたので」答える。
 ビャンコは全く反応を示さない。

「何度も言っているように、この国の名だたる方々を夜会へ招待したいのよ」
「オランディの場合でしたら商人か庁舎の職員やその関係者、騎士団並びに両陛下と殿下でお間違いありませんか?」

 エルミーニがテーブルを指でコツコツと叩きはじめる。
 それなりに苛立ってはいるようだ。

「だから、商人なんかじゃなくて高貴な家柄の者を紹介するように言ってるのよ」
「高貴と言われますと、こちらでは両陛下と殿下のみです」
「それじゃあ少ないわ、もっといるでしょ?」

 夫人は扇子を閉じてそれで持っていない手の平を打つ。
 パシンと軽快な音が響く。

「そもそもオランディでは家柄に関する文化はありません」
「とりあえず術士の家系を紹介しなさい、そこのビャンコ様の家系なら招待しても構わないわ」

 横目でビャンコを見る。
 彼は夫人の視線に気付いているが、無表情でテーブルの上を見ている。

「彼の血縁者はオランディにおりません」
「他にもいるわよね? サチとかいう異世界人の付き人」
「そのような方はおりません」

 今度は見下す角度でエルミーニを見る。

「なら娘の妾に合うような見目の良い男で良いわ、紹介なさい」
「個人の主観による部分が大きいのでこちらで選定するのは難しいかと」
「つべこべ言わずにこちらの要求に応えなさい!」

 このやり取りを連日繰り返している。
 これに付き合うエルミーニも凄いが、夫人も飽きずに連日通うのだから大したものだ。

「誇り高いリュンヌ帝国の社交場に招待して差し上げるというのに何が不満なのかしら?」
「こちらからの要望はいらした時から変わっておりません」
「大使館も建ててあげたのよ? 本来ならそちらが建てて私達を迎え入れなければならないところよ?」
「こちらでそちらの大使館の建設に関しての認可はまだ下りておりません」
「偽りの王国が何を言ってるのかしら? 感謝されこそすれ認可なんて必要ないわ」
「他にご用件はございますか?」
「ないわ、今まで話した内容をよく考えなさい。どれだけの温情をかけられているのか感謝なさい」

 そこまで話すと夫人は立ち上がり部屋から出ようとする。
 そして、いつもと同じように……

「貴方は中々いい男ね、いつでもいらっしゃい? 相手をして差しあげてもかまわなくてよ?」

 ネストレに誘惑? のような言葉をかける。
 そして付き人と共に出ていき、足音が遠ざかっていく。

「ねぇポンちゃん」

 足音が去ったのを察してビャンコが話す。
 エルミーニは呼び方が気に入らないらしく返事をしないが、気にせず言葉を続ける。

「オレらいらないよね? もう呼ばれるのも面倒なんだけど」
「それを言うならこの場にいる全員必要ないかと」
「もう断ろうよ会うの」
「いつも挨拶と言ってくるので、帰国の挨拶の可能性があり断るのも良くないので」
「絶対違うじゃん! もう何回目?めんっどくさいなぁもう!」

 本気で苛立っているようで、それを隠しもしない。

「あと数回我慢して、陛下に報告します。今は実績の蓄積が必要で」
「オレらいなくて良くない?」
「いえ、局長が二人と副団長が拘束されている事実は有用なので」
「あぁーもうやだー! 大使館ぶっ壊して来ていい?」
「王妃様の許可を得られるなら」

 ビャンコの思っている事の一部は皆思っている。
 だがエルミーニが全く折れない。
 それだけに連日付き合ってはいるが、何かの意味があるに違いないとは考えてはいるが……

​───────

「言い回しは違うが大体毎回こんな調子だぞ、そろそろカズロも呼ばれるんじゃないか?」
「なんで僕が?」
「局長、作家の息子、見目よし、ビャンコの代わりで呼ばれる可能性は充分にあるぞ!」
「ないない、僕呼んだらどうなるかくらいエルミーニさんなら分かるんじゃない?」
「どうなるんだ?」
「リュンヌの領地経営に関する統計と輸出入の結果とか、そういう事聴くと思うよ」
「なるほど、それなら夫人が怒りそうだし呼ばれないな」

 カズロ様の言う通りならその通りでしょう。

「要するにあちらは身分? の高い人か術士と知り合いたいの?」
「おそらくな。オランディに身分なんてないし、本気でやるなら辺境騎士にも連絡が必要だな」
「商人はなんで駄目なんだろうね」
「さぁなぁ。だが見目の話なら、この間のここでの忘年会に来た客は彼らの目に止まりそうだがな」
「そうだよね、でも商人なら違うんじゃない?」
「俺の個人的な感想で言うなら、もう誰でも良さそうな印象もあるんだよなぁ」

 ネストレ様が腕を組んで首を傾げます。

「家柄、術士、見目、とまぁ色々条件出してはいるが、要は誰でも良いから男を紹介しろと言ってるようにしか聞こえんのだ」
「う、まぁ……凄いよね、国交の場で言う事が男性の紹介とか」
「しかもだ、社交場とやらに招待のが交換条件のようでな、本末転倒も良いところだ」
「結局紹介するだけだよねこっちが」
「最初は紹介の場を用意しろだったからほんの少しはマシになったぞ!」
「本当にほんの少しだね」

 流石に一ヶ月以上滞在していれば何か変化が起きてもおかしくはありません。
 一ヶ月……もうそんなに経つのですね。

「不思議なのがボイヤー侯爵とピエール子爵は男性で未婚と聞いているが、そちらから女性の紹介の話はないんだ」
「そういえばミヌレ夫人だけ来るんだよね」
「む、そう言えば」
「どうしたの?」
「社交場では何をするんだ?」
「え、ご飯食べるとか? 宴会みたいな感じじゃない?」
「男ばかり集めて? むさ苦しいな、性別問わずに開きたいものだな」
「年末の市場に行けばそれで済んだんじゃないかな」
「確かに! もう市場での宴会する人らはほとんどいないが、今度エルミーニ殿に打診してみよう」

 恐らく以前シオ様が話していた社交会を開きたいのかと思いますが、男性ばかりではペアのダンスを踊る事が出来ないので様にならないようにも思います。
 連日庁舎に赴いてまで何がしたいのかは不明ですが、帰国するご様子はまだ見えないようですね。
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