号泣しながら君を追放する!

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エピローグ

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 宴の翌朝。
 Dランクと記載されたギルドカードを握りしめて、ルナは街の大門を見上げていた。

 盛大な送別会が催されたその日のうちに、ルナはSランクパーティーを正式に脱退し、いよいよ一人で旅立つ時が来た。

「一時脱退なんだから、わざわざランクまで初期化しなくてもよかったんじゃないか?」

 ルナの見送りに来たルシフェンが、二日酔いに頭を抑えながら覇気のない声で笑う。その後ろでは、ノルンとタナトが寂しげに微笑んでいた。

 ルナはくるりと彼らの方に振り返って、ギルドカードをポシェットにしまいながら照れ臭そうに笑った。

「このランクがSになった時こそ、皆私がに相応しい実力になった証だから。分かりやすい目標があった方がいいでしょ?」

 ルシフェンたちが揃って顔を見合わせると、タナトとノルンが嬉しそうに頷いた。

「さすがウチのルナ。頭が良い」
「そうね。そういうことなら、ルナちゃんとは案外早く会えそうだわ」
「ああ。俺たちもSランクから降格しないように頑張らないとな!」

 最後にルシフェンがガッツポーズを取ると、ルナは大きく頬をむくれさせた。

「むぅ、みんなが強くなったらまた私が置いていかれちゃうじゃない」
「大丈夫、置いていかないわ」
「ルナ。待ってるからね」

 ノルンとタナトは微笑みながらルナに歩み寄り、固いハグを交わした。三年という長いようで短い付き合いだったが、彼らの絆はルナの家族よりも深くなっていた。

 もう日本に帰らなくていいかも、とルナの頭の片隅で悪魔が囁く。いっそ、独り立ちなんてやめて皆と過ごしたっていいかも知れないとすら思う。
 それでも強くなると決めたのだからと、ルナは甘い誘惑を振り切るように抱擁を終えた。

 それから、ルシフェンたちの後ろで静かに見守っていたスヴァロウたち冒険者たちをまっすぐと見つめる。

「皆さんも、見送りに来てくれてありがとう! お元気で!」

 瞬間、冒険者たちから号泣と声援の嵐が巻き起こった。

「元気でなぁー!」
「いつでも帰ってきなよ!」
「ルナちゃーん! 帰ってきたら結婚してくれー!」
「「誰だ今の不届きものはぁー!?」」

 ルシフェンとタナトが殺気立ち、ノルンはあらあらと二人を宥め始めた。ルナはいつもと変わらないやりとりに声を上げて笑い、滲む涙を指先でぬぐった。

 これから先は一人旅だ。しばらくこの街の冒険者の顔を見ることはできない。その代わりに、また新しい人々との出会いが待っている。寂しいのは今だけだ、とルナは自分に言い聞かせ、大きく息を吸いながら手を振った。

「じゃあ皆、行ってきまーす!」

 わぁ! と一斉に言葉が溢れ返り、その活力がルナの新たな冒険を彩り始めた。

 もう不安はない。まだ見ぬ新天地を思うだけでワクワクする。身体が軽くて、今なら世界一周だってできてしまうかもしれない。

 ルナは彼らに背を向けて、ほんの少し泣いてから勢いよく走り出した。

 何年掛かるか分からない。もしかしたらノルンの言うように、案外早く会えるかもしれない。どんな形であれ、たくさんのお土産話を持って、またルシフェンパーティの遺構士ルナになろう。

 ルナは息を切らしながら、丘の上に続く街道を走り続けた。




「ったく、最後まで人騒がせなパーティーだぜ」

 ルナの後ろ姿が見えなくなったあと、スヴァロウは寂しそうに呟いた。それから背後でゴソゴソ何かを準備するルシフェンたちに胡乱げな目つきになる。

「で、見送ったはいいけど、お前らなんだその大荷物は!?」
「決まっている。俺たちみんなでルナを影から見守るのだ!!!」
「「「「過保護すぎるだろぉ!」」」」

 スヴァロウや他の冒険者が驚愕するも、ノルンは仕方がなさそうに笑った。

「まあまあ。どちらにしても、タナトちゃんが黙っていられないのよ」
「そうだ! タナトが勝手にルナを追いかけてしまうなら、皆でまとめて行ったほうが安全だからな!」
「別に、ウチは頼んでないんだけど」

 拗ねたように追跡魔法を発動し続けるタナトに、ルシフェンはきょとんと眉を持ち上げた。

「何を言っているんだ。タナトも俺の大事な仲間だ」
「……バカ」

 真っ赤になって杖を抱きしめるタナトに気づかないまま、ルシフェンは広々とした大空を見上げ、腹の底から大声を上げた。

「待っているぞ。いや、待っていろ、ルナ! いついかなる時でも、俺たちは仲間だ! バレない範囲で、パーティ継続だからな!!!」

 ルシフェンの叫びが轟いたあと、街道のルナが小さくくしゃみをした。ルナは不思議そうに首を傾げたが、また笑顔を取り戻して、次の街へと走り出す。

 ルシフェンたちの存在がバレるのが先か、ルナがSランク冒険者になるのが先か。彼らの旅はこれからも続いていく。
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