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2章 希望を目指して

34話 親しい者たちの日常

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 今日は体を休めておけと指示されたので、知り合い達とのんびり過ごしたい。
 まあ、科学的にも休息というのは大切だ。だから、急ぎすぎるべきでは無いだろうな。
 無理をして体を壊すというのが、最悪の展開だ。みんなを守るためにも、抑えるべきところは抑えよう。

 そこで、ディヴァリアとサクラ、ミナにシルク、ルミリエを誘った。
 メルキオール学園にいる仲の良い者は、これで全員。
 マリオやキュアン、エギルとはまだそこまで親しくないし、何よりディヴァリアたちが困るだろうからな。

「ひさしぶりだな、こうして集まるのも。以前のパーティ以来じゃないか?」

「そうだね。リオン以外が集まったことはあったけれど。最近のリオン、忙しそうだから」

 俺がいないところでも親しくしてくれているようで、嬉しい。
 こうしてサクラと他のみんなが仲を深めていってくれれば、防げる悲劇はそれなりにあるはず。
 そもそも、ディヴァリアとサクラが敵対するという事態を一番避けたかったからな。サクラになにかあったら、この世界はおしまいかもしれないのだし。
 単純に、俺にとってサクラが大切な存在へと変化したということもあるが。

「まあ、充実してはいるよ。シルクの世話になる事もあるかもしれないな」

「同意します。リオン君は訓練に熱が入っているようですから。無理をしないか心配です」

「そうよね。あたしも混ぜてくれてもいいのに。ディヴァリアもそうは思わない?」

「私は一緒に戦うのは難しいからね。でも、リオンとサクラが協力するのはいいと思う」

 俺はもともと、サクラと協力することが目的で近づいたわけだからな。思惑おもわく通りではあるのだが。
 とはいえ、俺がこれから立ち向かうであろう戦場は、過酷なものばかり。
 だから、サクラを本当に巻き込んでしまっていいのか、悩ましいんだ。

「まあ、俺1人では限界があるのは事実なんだよな。だが、命の取り合いに参加してほしくない気もする」

「そんな心配はしなくていいの。あたしもディヴァリアも、みんなも。あんたが大切なんだから。どうしてもダメなら、一緒に死んであげるわ」

「そんな後ろ向きじゃダメだよ。もっとギラギラしていいよ。敵なんてみんなやっつけちゃえ!」

「わたくしもルミリエと同じ気持ちです。仮にどれほどの人を地獄に送ったとしても、あなた方には無事でいてほしいのですから」

 みんなの心配はありがたい。だからこそ、俺は全力で生き延びてやるつもりだ。
 だが、俺だってみんなには無事でいてほしいから。安全なところで帰りを待っていてくれるのが理想ではある。

「はは、地獄に送るのはできれば止めておきたいが。お前たちを悲しませるよりはマシか」

「そうね。あたしはリオンが死んだら泣くだけじゃ済まないわ。だから、かならず生きて」

「同意します。私達を泣かせたくなければ、分かりますよね」

「うんうん。ウルウルとかじゃ収まらないからね。ちゃんとしてね。でも、サクラちゃんも気をつけてね」

「そうだね。サクラだって、私達の大切な友達だから。死なないでほしいな」

 ああ、俺も同じ気持ちだ。かつてサクラを原作の主人公だと見ていたから、安易に巻き込んでしまった。
 でも、今は違う。大切な友達だから。俺もサクラをかならず無事に帰すために、全力を尽くさないとな。

「ええ、気をつけるわ。あたしを本当に大切にしてくれる人が、こんなに力をくれるなんてね。今なら何でもできそうよ」

「分かります。わたくしも、人から期待されるという経験が、大きく変わるきっかけでしたから。まさに、乗り手のいない馬車に馬がついたように」

「そうだね。ミナちゃんの言う通り。歌が楽しいって感覚も、みんながバリバリ応援してくれたからだから。大切な人って、嬉しいよね」

「同感ですね。ルミリエの気持ちはわかります。私の力を心から必要としてくれること、本当に嬉しいですから」

「シルクもそうなんだね。やっぱり、理解者がいてくれること、最高だよね」

 ディヴァリアも理解者を求めていたのか。まあ、サクラ達ならば最高の理解者になれるだろう。
 もし仮に本性が知られたとしても、うまくやれるのではないかと思えるほどに。
 なんだかんだで、みんな他人よりも身内を優先する性質を持っているようだから。俺も含めて。

「そうだな。俺も理解してくれる相手はより大切に感じてしまう気がする」

「分かる気がするわ。人を大切に思えることが、こんなに幸せなんてね。みんなのおかげだわ」

 サクラは華やいだような表情で、本当に心から幸せを感じているのだろう。
 これからも今のような顔ができるように、俺も力を尽くしたい。やはり、大切な誰かの幸せは、俺自身の幸福でもある。

「こちらこそ、ありがとう。サクラが私達を大切に感じてくれること、嬉しいよ」

「わたくし達も、サクラを大切な友達だと感じていますよ。あるいは食事や睡眠よりも、ね」

「同感ですね。もちろん、ミナさんやルミリエさん、ディヴァリアさんにリオン君も大切ですよ」

「分かるよ。みんながいてくれるから、ルンルンできるんだよ」

 俺達が出会えたのは最高の幸運だった。疑いようのない事実だ。
 これ以上無いほどの友達と出会えて、色々なことで協力して。これからの人生で支えになってくれるだろう、大切な思い出だ。
 だから、みんなが同じように感じてくれているだろうことが、素晴らしく嬉しい。

「みんな、俺と出会ってくれてありがとう。おかげで、今俺は幸せなんだ」

「それはみんな同じだと思うよ。だから、私も幸せだよ」

 ディヴァリアの言葉は本当にありがたいものだ。今見えるやわらかい顔も。
 今戦争を引き起こそうとしている人間とは思えない、まるで天使のような笑顔。
 これで、外道ではなかったのなら。誰も比較にならないほどの存在だったのだろうな。

「それもこれも、リオンの優しさがあってのこと。女神アルフィラ様と比べられそうなほどの、ね」

「極端ですね。でも、分かります。ミナさんだって、私だって、ルミリエさんだって。優しさに助けられているわけですから」

「あたしもね。シルクの言うように極端だけど、でも、ミナの気持ちもわかるわ。リオンがいなければ、あたしはどうなってたことか」

「キラキラした出会いのおかげで、いま歌を楽しく歌えるわけだからね。私も分かるな」

 また持ち上げられている。そこまで言われるほどの事をした記憶はないぞ。
 俺としては、俺自身が何もしていないとしても、みんなが幸せなら十分ではある。
 だから、本当に楽しそうなみんなが居るから、分不相応なくらいの持ち上げだって楽しいくらいだ。

「お前たち自身が魅力的だからこそだと思うぞ」

「ふふ。私達を魅力的って言ってくれることが嬉しいんだよね。みんな、味方が少ない時期があったから」

 ディヴァリアの言葉からすると、味方が少ないと感じていたこともあったのか。
 今では聖女と呼ばれているくらいだし、もっと昔だろうとは思うが。いつだろう。
 まあいい。今は味方がしっかりいると、みんな思えているのだろう。だから、十分だ。

「王になることを誰からも求められていなかった、わたくしですからね」

「共感できます。誰を癒やしても当然という顔をされていた私だから」

「そうだよね。歌なんて何の役に立つんだって言われていたから。心がジクジクしていたんだ」

「平民だからって誰からも軽んじられてくれたあたしを見つけてくれたのも、リオンだから」

 みんなそれぞれに暗い過去を抱えている。あらためて、俺は運が良かった。両親は全力で愛してくれていたからな。
 そんな愛を一身に受け取っていたからこそ、みんなとのつながりを得ようと思えたのだし。
 結局、父さんと母さんのおかげだな。そして、ディヴァリアも。
 エインフェルト家とのつながりがあったからこそ、ミナと出会って、それからみんなに繋がっていったのだから。

「お前たちが今幸せなようで、嬉しいよ」

「リオンこそ、いまは幸せですか? おとぎ話のような幸福は、手に入れていますか?」

 ミナの長い金髪から覗く青い瞳にじっと見つめられる。これは、よほど真剣なのだろうな。
 普段は庇護欲を感じさせるミナも、強い意志をのぞかせる瞬間がある。その落差が深みなのだろう。

 俺は間違いなく今幸せだと言える。だが、おとぎ話のようかと言われると怪しい。さて、どう答えればいいだろうか。

「幸せだよ。お前たちと過ごせる時間は最高だからな」

「感謝します。その幸福に、私達の力は役立っていますか?」

 シルクはいつものようにピンと張った背筋のまま、こちらに黒い瞳を向ける。
 首筋までの青い髪も相まって、普段は柔らかい雰囲気のシルクだが、いまは鋭い雰囲気だ。

 みんなの力が役立っているかどうかなど、悩むまでもないことだ。だから、答えは決まっている。

「当たり前だ。お前たちが居るから、俺は今でも無事でいられるんだから」

「なら、私達はリオンちゃんにとってキラキラしているかな?」

 ルミリエは赤い髪と瞳に似合う、熱のこもった目で見てくる。
 活発そうな外見とは裏腹に、いつものルミリエはもう少しゆるい空気感なんだよな。

 みんなが輝いていることなど、疑う余地はない。だからこそ、大好きな友達なのだから。

「もちろんだ。最高の友達で、いつ一緒にいても楽しい相手だ」

「そうなのね。なら、あたし達と出会えてよかった?」

 サクラは桃色の髪を揺らしながら、黒い瞳で強く見てくる。
 いつもは凛々りりしいサクラだが、今日は少し不安も見える気がする。

 大丈夫だ、心配するな。みんな俺の大切な友達なんだ。良いか悪いかなど、論ずるまでもないよ。

「決まっているさ。良かったってな。何度繰り返したって、お前たちとまた会いたいよ」

「ふふ、じゃあ、ずっと一緒にいてくれるかな?」

 ディヴァリアは昔からのように、強い意志をこめた青い瞳で見つめてくる。
 銀色の髪が瞳の輝きを強調していて、暖かさのようなものすら感じさせた。

 ディヴァリアの言葉は、俺から聞きたいくらいだ。つまり、俺の意思は固い。

「無論だ。何があっても離れたりしないさ。お前たちが望んでくれる限りはな」

「なら、ずっと一緒だね。ねえ、みんな?」

 ディヴァリアの言葉に、みんな頷いてくれる。
 ああ、こういう感覚があるから、友達というものは良い。
 俺は大勢の希望になりたい。それでも、まず第一に、今みたいな時間を守るために戦ってみせるんだ。
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