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5章 トゥルースオブマインド

156話 変わらない感情

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 本当によく分からないことに、ソニアさんやシャーナさんとの結婚の話まで進んでいるらしい。
 おかしいとしか言いようがないのだが、決まりそうだから受け入れるしかない。
 嫌いという訳ではないのだが、結婚なんかを考える相手だったかという疑問はある。
 いや、どういう状況なんだよ。ただの師弟だぞ? ロマンスなんてなかっただろうが。
 まあいい。決まったことは仕方がない。嫌な訳ではないからな。

 それで、今日はディヴァリアの準備でソニアさんとシャーナさんと過ごすことになった。
 もう、完全に手綱を握られているな。いや、ディヴァリアと周囲の関係が良好なのが分かってありがたいが。
 シャーナさんなんて、ディヴァリアを明確に恐れていたからな。
 最悪の場合は殺されてしまうのだと言っていたよな。だから、今は大丈夫なのだろう。

「ミナ様が忙しい中で、小生だけがリオン殿と会うのも申し訳ない気がしますね」

 まあ、ミナは俺に好意を持ってくれているとは思う。
 いつか、俺への気持ちを砂糖菓子のようだなんて言っていた。
 今思えば、告白でもおかしくはないようなセリフだからな。当時は余裕がなくて受け止められなかったが。
 とはいえ、ミナに会いに行っても邪魔になるだけだろう。自分の能力はよく分かっているつもりだ。
 だから、状況が落ち着いたら時間を作りたい。大切な友達に、穏やかな時間を過ごしてもらうために。

「俺はミナとも結婚することになるのだろうか。相手は王になる人間なのだが」

「うちの見た未来では、可能性は高いじゃろうな。ちょうど、しばらく先に起こる事件の結果で、リオンの名声が高まるからな」

 なんだろうか。事件というくらいなのだから、また戦いだろうか。
 できれば平和であってほしいものだが。戦う覚悟はあるが、避けられるのなら避けたい。

「戦争のたぐいではない。負けたとしても、命は失われない。だが、ディヴァリアとお主の未来は大きく変わる。とはいえ最悪でも、うちが警告するほどではないが」

 なら、ゆっくりと準備していけば良いのか。
 一体何の事件なのかは気になるが、シャーナさんが言いたくなるのを待つ方がいいだろう。
 未来を見た上での判断なのだから、俺が適当に考えるようなことには対策されているはず。
 実際、これまでの経験ではシャーナさんに従っている方がいい結果になったからな。

「未来視の力。体験した時には驚きましたが、有効だということは分かります。リオン殿は、勝つべくして勝ったのですね」

 なるほど。シャーナさんは未来視の力を周囲に伝えたのか。なら、ディヴァリアも知っているのかな。
 俺がレックスに勝てたのは、絶望の未来を避けられたのは、周囲の支えがあってこそ。
 感謝の心を忘れないようにしないとな。これから俺がもっと強くなったとしても、みんなへの恩はなくならない。
 だから、圧倒的な力を持ったままでも、自分を見失いたくない。

 トゥルースオブマインドの力は、あまりにも強すぎる。俺の行動次第では、みんなの想いを無に帰してしまう。
 簡単に誰かを傷つけられるからこそ、扱いは慎重にしないとな。俺の心は弱い。過去の経験で分かり切っているのだから。

「みんなの関係が悪く無いようで、ありがたいな。板挟みになると困るからな」

「安心せい。お主が中心にいる限り、うちらの関係が破綻することはない。結局のところ、お主がいてこそのつながりなのじゃから」

「同感です。リオン殿の心配は杞憂です。同じ輝きを見た同志なのですから」

 いつかの目標だった、誰かの希望。ある程度は叶っているのだな。
 親しい人達には俺の存在の影響は大きいということは。
 まあ、俺が助けた相手も多いからな。命だって、心だって。
 自分で言うと恥ずかしいが、本人達の言葉もあるからな。間違いではないだろう。

「責任重大な気もするな。みんなの未来が、俺の肩に乗っているような感覚がある」

「お主の考えは正しい。じゃが、今のお主を心配はしておらん」

「ですね。以前よりも、目に力がありますから」

 なるほどな。本心を理解したことで、信念のようなものが固まった感覚はある。
 もう、つまらない言い訳で自分をごまかす必要はない。
 いま手の中にある大切なものを守ること。それだけを考えているからな。
 ディヴァリアとみんなが仲違いしないのであれば、俺は二度と迷わなくて良い。
 やはり、俺の心はみんなでできているのだろう。ディヴァリアへの好意が一番大きいとはいえ。

「ありがとう。尊敬する2人に言ってもらえるのなら、自信になるよ」

「はい。まっすぐに進んでください。小生達が支えますから」

「とある計画をお主に黙っているのは悪い気がするが、未来のためじゃ。少しだけ、負担をかけることになる」

「シャーナ殿。それも、未来への影響を考えての言葉ですか?」

「じゃな。リオンが本格的に追い詰められるのは、ディヴァリアの望むところではない」

 なるほど。予告がなければ本格的に追い詰められるのか。
 嫌な予感しかしないが、黙っているというシャーナさんの判断を信じるしかない。
 シャーナさんが心を読むに近しいことができるという前提だと、仲違いが?
 今の考えが正しいと、それは追い詰められるだろうさ。
 実際のところは分からない。シャーナさんは黙ったまま。だが、覚悟は必要かもしれない。

「分かりました。気を強く持っておきます」

「それでいい。未来視の魔女が保証する。お主の未来は悪いものではないと」

 それは、最高の保証だな。どんな言葉よりも信じられる。
 俺達の未来のためにも、耐えるべき場面なのだろう。
 知らないところで何かが動いているのだろうが、構わない。
 きっと、俺のことだって考えてくれている。そう信じられる人ばかりだから。

「聖女様の笑顔が変わったのも、リオン殿のおかげなのでしょうね。だから、今の聖女様は以前よりも好ましい」

「そうじゃな。だからこそ、リオンの望む未来に近づけたのじゃろう」

 まあ、穏やかにはなったよな。それに、以前ほど積極的に殺さなくなった気がする。
 教国での戦争でだって、ディヴァリアが望めばもっと死人が増えたんだからな。
 俺の心を考えてくれている面もあるのだろうが、やはり変わったのだろうな。
 いつの日か本当の聖女になる日が来ると考えたこともあるが、そう遠くない未来なのかもしれない。

「ディヴァリアが好かれるのは、自分のことのように嬉しいな」

「リオン殿の心が、聖女様に伝わっているのだと思いますね。だから、小生にも優しくなられた」

 これまでは優しくなかったのだろうか。
 ソニアさんとディヴァリアの関係は、俺とソニアさんが知り合う以前のものだというのは知っている。
 仮説として、ユリアの故郷を襲ったのはソニアさんだという考えもある。
 ディヴァリアの本性をソニアさんが知っていたのだとなると、意味が大きく変わるセリフだ。
 まあ、どちらでもいい。ソニアさんは穏やかな顔だから。本当に今のディヴァリアを好ましく感じているのだろうから。

「かつてのディヴァリアは、研ぎ澄まされた剣のようじゃった。今は、包丁のほうが近いかもしれん」

 以前の例えはよく分かる。触れれば切れる。そんなイメージだった。
 今はどう変わったのだろうか。同じ切れ味だが、人のためになる。そうだと良いな。

「穏やかになった聖女様とリオン殿の結婚式。小生達も祝いますから。だから、その先も。待っていてくださいね」

「お主のそばで、未来までずっと見守る。うちも、よろしく頼むぞ。関係の形など、何でも良い。お主を近くで見ていられるのなら」

「そうですね。リオン殿の輝きが、これからも曇ることのないように。小生達も力を尽くします」

 やはり、俺達の関係には恋愛感情は挟まらないのだろうな。
 それでも、尊敬する師匠がそばに居てくれるのは嬉しい。俺の方こそ、未来が楽しみだな。
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