【完結】春、4月、出会い、いろいろ。

桐生千種

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4.紬と葉那

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 私立しりつ桜月学園さくらづきがくえん付属ふぞく桜ノ女子さくらのじょし高等学校こうとうがっこうには講堂というものがある。

 ステージがあって、映画館みたいな席が並んでいて、入学式をここでやったけど、用途はそういう式みたいなものに限らなくて、普通の全校集会でも使うらしい。

 体育館じゃないんだー。

 これから始まる「新歓」というものに向けて、続々と人が集まっている。

 ざわざわ、ざわざわ、と人の声が騒めく中、ひとり、一心に読書を続ける隣の子が気になった。

 教室でも読んでいて、ここまで持って来るなんて、余程の読書好きか、そんなに面白い小説なのか。

 聞きたい。

 聞きたい。

 声、かけちゃおうかな。

「なに読んでるの?」

 言っちゃった!

 どきどき。

「……」

 返事がない。

 聞こえなかった、わけじゃない。

 だって、本から顔をあげて、私のことを見てるから。

 読書の邪魔して、怒ってる……?

「あ、えっと、私、山本やまもとつむぎ! うしろの席だよ!」

 なんでここで自己紹介してるの、私!?

 絶対違う!

 そういうタイミングじゃない!

「えっと、ずっと読んでるから気になって!」

 それも違うでしょ、私!!

「えっと、その……」

「……」

「……邪魔して、ごめん」

 うー……。

 声かけるタイミング、間違った……。

 読書の邪魔されたら怒るよね……そうだよね……。

 ごめん……。

 すっと、項垂れた私の視界に1冊の本が差し込まれた。

 ブックカバーが外された本には、見覚えのあるイラストが描かれていた。

 タイトルには、『陛下に愛を誓うまで』の文字。

「これ知ってる! 面白いよね!」

 わざわざカバーを外して見せてくれた本は、私も持ってる恋愛ファンタジー小説。

「特に『ミーシャ』が」

「聞かない」

 むぎゅっと、口を抑えられた。

「ネタバレ厳禁」

 そう言われて「たしかに」と反省した。

「ごめん」

 まだ途中なのに、先の話をされたらイヤだよね。

 私のバカ。

「……山下やました葉那はな

 不意に発された脈絡のない言葉は、その子の名前だった。

 なんで? と考えて今の流れを振り返った。

 私が「なに読んでるの?」って聞いたから、本の表紙を見せてくれて、私が自己紹介したから、してくれた……?

 そう、なのかな……?

 それなら、「よろしく」って言ってもいいのかな……?

「えっと……よろしく?」

「……」

 返事が。

「……なにを?」

 えー……。

 なにをって、それは想定外。

 えーっと、えーっと。

「えーっと。な、仲良くしたいのでよろしくお願いします!」

「……」

 返事が。

「よろしく」

 ふにゃりと笑って応えてくれた。

 --- 4.紬と葉那 ---
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