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4章 少女と妖精
5.妖精の名前
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「妖精さんの名前は、ヴァネッサでいいのかな?」
少女が突然そんなことを言い出した。
少女の言葉に、妖精はとても驚いていたようだったけど、少年だって同じように驚いていた。
『ヴァネッサ』は特別な蝶の名前のはずだったから。
「どうして、そんなことを言い出すのよ?」
「そうだよ、それは特別な蝶の名前のはずだよ?」
少女は言った。
「そうかなって、思っただけ。いつまでも妖精さんじゃ、他人行儀だもの」
「変な子」
妖精は言った。
「人間が、私たちの名前を気にするなんて。妖精は妖精でしょ?」
そう言う妖精に、少年は自分が恥ずかしく思った。
少年は、妖精に助けを求めて、よその土地から連れ帰って、少なくない時間を一緒に過ごしていたのに、妖精の名前を知らなかった。
知ろうとも思わなかった。
妖精は妖精で、魔物は魔物で、そう言う存在だと思っていた。
野良猫は野良猫で、野良犬は野良犬。
そう言うのと、変わらない感覚だった。
特別な蝶が、『ヴァネッサ』と呼ばれる存在であると知ってもなお、今、目の前にいる妖精の名前を聞こうともしていなかった。
「それでも、あなたはあなたでしょう?」
同じ木が2つと存在しないように、同じ人間が2人と存在しないように、同じ妖精も存在しないのだと。
「……ネッサ」
妖精が呟いた。
「私は、ネッサって言うのよ!」
そう言う妖精――ネッサは、今度ははっきりと自分の名前を口にして胸を張ってみせた。
「よろしくね。ネッサ」
そう言って笑う少女に、ネッサも笑って返していたけれど、少年にはそれが、どこか寂しそうに見えてならなかった。
少女が突然そんなことを言い出した。
少女の言葉に、妖精はとても驚いていたようだったけど、少年だって同じように驚いていた。
『ヴァネッサ』は特別な蝶の名前のはずだったから。
「どうして、そんなことを言い出すのよ?」
「そうだよ、それは特別な蝶の名前のはずだよ?」
少女は言った。
「そうかなって、思っただけ。いつまでも妖精さんじゃ、他人行儀だもの」
「変な子」
妖精は言った。
「人間が、私たちの名前を気にするなんて。妖精は妖精でしょ?」
そう言う妖精に、少年は自分が恥ずかしく思った。
少年は、妖精に助けを求めて、よその土地から連れ帰って、少なくない時間を一緒に過ごしていたのに、妖精の名前を知らなかった。
知ろうとも思わなかった。
妖精は妖精で、魔物は魔物で、そう言う存在だと思っていた。
野良猫は野良猫で、野良犬は野良犬。
そう言うのと、変わらない感覚だった。
特別な蝶が、『ヴァネッサ』と呼ばれる存在であると知ってもなお、今、目の前にいる妖精の名前を聞こうともしていなかった。
「それでも、あなたはあなたでしょう?」
同じ木が2つと存在しないように、同じ人間が2人と存在しないように、同じ妖精も存在しないのだと。
「……ネッサ」
妖精が呟いた。
「私は、ネッサって言うのよ!」
そう言う妖精――ネッサは、今度ははっきりと自分の名前を口にして胸を張ってみせた。
「よろしくね。ネッサ」
そう言って笑う少女に、ネッサも笑って返していたけれど、少年にはそれが、どこか寂しそうに見えてならなかった。
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