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第2話 学舎と姫君
責任と覚悟
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心地好い陽射しが射し込む学長室で、史月は龍麗に告げる。
「学舎では、本家筋の方でも一切特別扱いは致しません。他の学徒と同じように生活してもらいます。いいですね?」
「はい!」
それこそ、龍麗の求めていたものだ。
龍麗の返事に、初めて史月が笑顔を見せた。
「では、この学舎の学徒として、立派に卒業できるように、頑張りなさい」
「はい!」
史月の眼差しは優しい。
龍麗が学長室に入って来たときのような、睨め付けるような視線はどこにもない。
「そうだは、龍麗さん」
ふと、史月の表情が真剣なものになった。
「一族の名を継ぐ者として、その名を名乗ることに大きな責任が必要になるのと同じくらい、いいえ、それ以上に、名乗らないことにも、その名を捨てることにも、大きな責任と覚悟が必要なことを、貴女は学ぶべきかもしれません」
「責任と、覚悟……」
龍麗はたった今、史月に言われた言葉を頭の中で反芻する。
けれど、その言葉の意味を理解するには、龍麗は世界を知らなすぎた。
「さて、話はこれで終わりです。お行きなさい」
「失礼します」
「失礼しますっ」
音葉と連れ立ち、龍麗は学長室を出る。
けれど、史月が最後に告げた言葉の意味はいくら考えても龍麗には理解できなかった。
「ねえ、音葉」
「ん?」
長い学舎の廊下を歩きながら、龍麗は音葉に問う。
「さっきの、名乗らない責任と覚悟って、どういう意味かわかる?」
一族の次期当主として、当主というものが如何なるものか。
当主を名乗ることの意味、その責任。
それは龍麗が一族の中で成長する過程で、あらゆる場面で教えられてきた。
それ故に敬われ、歳の近い者であっても龍麗を特別視し跪いた。
それを嫌悪し、みんなと対等でありたいと、龍麗は自らをルリと名乗り、そう呼ばれることを望んでいる。
けれど、そうすることにも責任と覚悟を要するのだと、史月は言った。
それが、どんな責任と覚悟になるのか、龍麗には見当もつかない。
「……まあ、なんとなく」
答えた音葉の脳裏には、さまざまな言葉が、過去が、過ぎ去っていく。
けれど、それを音葉が龍麗に告げる日はきっとこない。
「きっとルリも、学舎通ってればわかるよ! たぶん」
――できれば一生、知らないままでいてほしい……。
その想いを隠すように、音葉は明るく振る舞う。
「それより早く行こうぜ! 同じ歳の奴らが、同じ部屋に集まってるんだ。ルリ、初めてだからきっとびっくりするぜ!」
「うん!」
一族の中でm龍麗と同じ歳の子供といえば音葉しかいない。
それが新鮮でないはずがなかった。
これから始まる生活に、訪れるであろう出会いに、龍麗は心を躍らせた。
「学舎では、本家筋の方でも一切特別扱いは致しません。他の学徒と同じように生活してもらいます。いいですね?」
「はい!」
それこそ、龍麗の求めていたものだ。
龍麗の返事に、初めて史月が笑顔を見せた。
「では、この学舎の学徒として、立派に卒業できるように、頑張りなさい」
「はい!」
史月の眼差しは優しい。
龍麗が学長室に入って来たときのような、睨め付けるような視線はどこにもない。
「そうだは、龍麗さん」
ふと、史月の表情が真剣なものになった。
「一族の名を継ぐ者として、その名を名乗ることに大きな責任が必要になるのと同じくらい、いいえ、それ以上に、名乗らないことにも、その名を捨てることにも、大きな責任と覚悟が必要なことを、貴女は学ぶべきかもしれません」
「責任と、覚悟……」
龍麗はたった今、史月に言われた言葉を頭の中で反芻する。
けれど、その言葉の意味を理解するには、龍麗は世界を知らなすぎた。
「さて、話はこれで終わりです。お行きなさい」
「失礼します」
「失礼しますっ」
音葉と連れ立ち、龍麗は学長室を出る。
けれど、史月が最後に告げた言葉の意味はいくら考えても龍麗には理解できなかった。
「ねえ、音葉」
「ん?」
長い学舎の廊下を歩きながら、龍麗は音葉に問う。
「さっきの、名乗らない責任と覚悟って、どういう意味かわかる?」
一族の次期当主として、当主というものが如何なるものか。
当主を名乗ることの意味、その責任。
それは龍麗が一族の中で成長する過程で、あらゆる場面で教えられてきた。
それ故に敬われ、歳の近い者であっても龍麗を特別視し跪いた。
それを嫌悪し、みんなと対等でありたいと、龍麗は自らをルリと名乗り、そう呼ばれることを望んでいる。
けれど、そうすることにも責任と覚悟を要するのだと、史月は言った。
それが、どんな責任と覚悟になるのか、龍麗には見当もつかない。
「……まあ、なんとなく」
答えた音葉の脳裏には、さまざまな言葉が、過去が、過ぎ去っていく。
けれど、それを音葉が龍麗に告げる日はきっとこない。
「きっとルリも、学舎通ってればわかるよ! たぶん」
――できれば一生、知らないままでいてほしい……。
その想いを隠すように、音葉は明るく振る舞う。
「それより早く行こうぜ! 同じ歳の奴らが、同じ部屋に集まってるんだ。ルリ、初めてだからきっとびっくりするぜ!」
「うん!」
一族の中でm龍麗と同じ歳の子供といえば音葉しかいない。
それが新鮮でないはずがなかった。
これから始まる生活に、訪れるであろう出会いに、龍麗は心を躍らせた。
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