【完結】龍の姫君-序-

桐生千種

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第2話 学舎と姫君

噂の人

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 音葉に連れられて学舎の長い廊下を歩いて、1つの扉の前で音葉は立ち止まった。

「ここが3年の教室。心の準備はできてるか?」

「……うん」

 この扉の向こうに、初めての光景が広がっている。

 扉の向こうから漏れ聞こえてくる人々の騒めき。

 初めての経験に、心臓が高鳴る。

「開けるぞ」

「うん」

 ガラリ、と音葉が扉を開けた。

 途端――

 それまで聞こえていた騒めきがピタリと消えた。

 一斉に向けられた視線に、龍麗は怯んだ。

 ざわり、ざわり。

 ぽつぽつと、騒めきが戻ってきて、けれど龍麗に向けられた視線の数は減らない。

 ちらり、ちらり、と龍麗と視線を合わせないように、龍麗のことを見ている。

「な? すげーだろ?」

 音葉は何も気にしていないように振る舞う。

 たしかに、音葉の言う「すごい」の意味はわかる。

 今まで、こんなにたくさん同じ歳の者が集まっているのを、龍麗は見たことがなかった。

 けれど、彼らが龍麗のことを歓迎しているとはとても思えなかった。

「席は、俺の隣でいいだろ?」

 ぐいっ、と龍麗の手を引いて音葉は室内へと入って行く。

 その様子に、騒めきが一層大きくなった。

「うそ――」

「本当に本家の――?」

 微かに聞こえる言葉が、龍麗たちのことを話していることを示していた。

「気にすんなよ」

 音葉が言った。

「龍が珍しいんだ。2、3日もすればみんな慣れてくれるよ」

「そ、なんだ……」

 その言葉は、龍麗をとても残念な気持ちにさせた。

 史月は、『本家筋でも特別扱いはしない』とそう言っていた。

 けれど実際はどうだろう。

 ここにいる誰もが、龍麗のことを龍を継ぐ者として見ている。

 龍の従者であるはずの音葉が、龍麗に気軽に話しかけ、手を引いていることに驚いている。

 龍麗が望んだ関係だけれど、それは異常だと世界に否定されているような気がした。

 現実を、突き付けられたような気がした。
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