【完結】龍の姫君-序-

桐生千種

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第3話 少年と姫君

木の上の少年

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 1日の授業を終えた3年の教室。

「ルリごめん!」

 音葉が頭を下げた。

 今日の授業は全て終わった。
 通常ならば、あとは荷物をまとめて帰るだけ。

 通常ならば。

「ほしゅう……?」

「今日の試験、3点足んなくて。帰るの遅くなっちまう……」

「いいな。私も補習したい」

「いや、ルリは満点だったろ。本当ならもう帰れるのに、だからって1人で帰らせるわけにはいかないし、他の奴らはまだ授業が残ってるし……。本当ごめん」

 本当に申し訳なさそうに頭を下げる音葉に、龍麗は笑う。

「いいよ? 私、待ってる。学舎も見て回りたいし」

「え゛、1人で?」

「ダメ?」

「ダメじゃ、ない、けど……」

 できるなら、1人で出歩かせたくはないのが音葉の心境だった。

 けれど、「1人で歩くな」と言えるような権限を、音葉は持っていない。

「き、気をつけろよ? 変なところ行くなよ? 俺、終わったらすぐルリのところに行くから」

 結局、痺れを切らした教師が音葉を教室へと引っ張り込むまで、音葉の注意は続いた。

 間違っても門の外へは出るな、変な人には近づくな、声をかけられたらすぐ逃げろ、迷ったら声を出せ。

 学舎の中で、そうそう滅多なことは起こらないだろうに、と龍麗は笑う。

 そして今、龍麗は中庭へとやって来ていた。

 丁度真ん中に、大きな木が1本そびえ立つ。

「これからよろしくお願いします」

 大木に近づいた龍麗は、片手を幹に添えて話しかけた。

「お前、何してんの?」

 突如として聞こえてきた声を辿って龍麗が見上げると、そこには枝に寝そべりながら龍麗を見下ろす少年――キバの姿。

「何だよ、お前」

 何も言えず、キバを見つめるだけの龍麗に、キバはムッとした表情を見せた。

「お前も俺みたいな下位のヤツとは口利きたくねぇって? 悪かったな、声かけて。俺なんか無視して続きをどーぞ」

 フイ、とキバは顔を背け、仰向けに寝そべる。

 「下位」とキバは言った。

 それはつまり、本家の者ではもちろんなく、分家だったとしても、第3位以下の、今まで龍麗が関わることのなかった立場の人間。

 ともすれば、家位すら持たない立場の人間かもしれない。

「あのっ!」

 龍麗は、木の上にいるキバに向かって声をかけた。

「何だよ、同じ場所にもいたくねぇって? イヤならお前が出て行けば? ここは俺が先にいたんだからな。どけてなんてやんねー」

「違うのっ! そうじゃなくてっ!」

 龍麗は声をかけ続ける。

「ちょっとびっくりしただけで! あなたのこと、イヤだんて思ってないっ!」

「ふーん」

「私、あなたと話したい!」

「は?」

 龍麗の思いもよらない言葉にキバはキョトン、と目を見開いた。
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