君は煙のように消えない

七星恋

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2章

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 結局授業は殆んど頭に入ってこなかった。スライドに写された文字を必死でノートに写していたつもりだが、気づくと複数の文字が一ヶ所に重ねられている。気合いを入れようと姿勢をただす。2分後には腰が曲がる。頚椎を切断されたかのように頭が真下にガクンと落ち、目が覚める。いつの間にか語られている資料が変わっている。超短時間睡眠の効力か、授業終了五分前くらいに目が冴え始める。 
 授業が終わり、いつものようにガラガラと机の上を片す音が木霊する。例に漏れず、僕も筆箱にシャーペンと消ゴムを入れているところに廉がやって来た。
「一服しに行こう。」
「そのつもりだった。」
 雲一つ無い青空の下、複数の学生たちが時代遅れな雲を作る。作っては消え、消えては作るを繰り返す。
「ノート取ってた?」
「そんなわけない。」
廉があっけらかんに答える。
「だよね。」
 廉はわりとなんでもそつなくこなす。どんな分野の学問でも、一度聞けばある程度は理解できるため、授業中にノートは取らず、テスト期間や課題が出たときだけみんなの勉強会に参加して知識を盗む。という事を知っているから尋ねるだけ無駄だとは知っていた。
「なに、寝てたの?珍しい。」
 廉とは真逆で自分は授業内である程度のメモをとる。テスト前に忙しくなるのが嫌だから。それに知識偏重型の自分は数字を扱う分野がとにかく苦手なため、そういう授業の対策のため少しでも学習時間を作りたい。
 ため息と一緒に吐いた煙はやはり頼りない。
「やっぱり紗綾でいいんじゃないの?」
廉が急に会話の舵を切る。
「何を根拠にしたやっぱりなわけ?」
「根拠なんてないよ。何かを好きになったり、なられたりするのに理由が必要か?」
「それを言えば恋愛は誰々でいい、でするものじゃないだろ。」
「言えてるな。」
そう言って廉は笑った。
「でもさ、マジな話、今の状態はあんまり良くないよ。自分で理解してるだろうけどさ。」
 煙草を加えた彼が少し真面目な顔をする。
「きっとお前は終わらせる勇気が無いんじゃなくて、終わらせ方を知らないだけさ。もしくは知ってはいるが機会に恵まれていないか。」
続けて彼は言う。
「終わらせ方を知ることも大人になるのに必要なんだよ。」
「誰の言葉?」
「俺の親父。」
そう言って廉が、また屈託なく歯を見せる。
 人は生を受けた時から色々な事を始め、その際に周りの誰かから何かを学ぶ。歩き方を、話し方を、感情や表現を。だが往々にして誰も止め方は教えてくれない。人は死に方を教わらない。きっとそれは大人になる過程で自分で学ぶのだ。他者から受けとるのではなく、歩む道の途中に落ちているものを拾うのだ。そういう意味ではたまたま僕の歩んだ道には落ちていなかったのかもしれない。そして今がそれを拾うときなのかもしれない。
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