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4 茉帆の場合
3 そういうのが好み?
しおりを挟むその日はなんだかおかしい気がした。
いつもより男性社員が馴れ馴れしい気がしたし、女性社員はいつもよりよそよそしい気がする。
とにかく普段通り仕事を上げてさっさと帰宅した。
……帰りの電車内でも痴漢にあった。
けれど朝より全然マシで、たぶん手の甲を当ててるくらいだから放っておいた。朝ほど激込みなわけじゃないから、声上げたら絶対ヒソヒソされてメンドイだろうし。
玄関を開けてすぐにバスルームに飛び込んだ。
スーツ以外の全てを洗濯機に放り込んでお風呂に入った。
あそこを洗った時、自分で引くほど濡れてて心臓がバクバクして痛いほどだった。
お風呂につかっていると洗濯機の回る音が聞こえてきて、私のショーツと今朝の人のハンカチが一緒に回ってると気づいてまたバクバクした。
今朝の人、どういうつもりだったんだろう。
普通に考えたらナンパだよね。恩売っといてあわよくば的なやつだよね。
それにしても雅斗とはまた違うタイプのイケメンだったなぁ。
雅斗は男らしい感じのイケメンだけど、今朝の人は優男系イケメンというか……ハッ!? なに考えてるの、私は雅斗一筋なんだからっ。もうすぐ結婚して、苦しい満員電車ともバイバイなんだからっ。
妄想を振り切るようにお風呂から上がり、スマホを見ながら適当に夕食にした。
雅斗は一時帰国が近いので忙しいらしく、SNSメッセのみだった。
だけどHな指示はあって、次のスカイブでどんな一人Hをしたか聞くからとあった。
ドクンと心臓が音を立てる。そして体がキューっと甘い痺れを走らせた。
なんで昨日の快感アプリでした事が思い浮かんだの。
なんで今朝の事が思い浮かんで体がビリビリしたのっ。
あそこがキュンキュン疼いてたまらない。
呼吸が早まって目が潤む。
だってこれは雅斗の指示だから……っ。
そう言い訳して快感アプリを開き、目についたドリームソフトを私は買った。
________ ___ __ _
その朝はやっぱりぼーっとしていたんだろう、意図しない車両の列に押し流され押し込められた。
別に女性車両に乗りたいわけでもないし、毎朝決まった車両に乗るわけでもないからいいんだけど。
とにかくここから特急で20分。どちらのドアも開かずに耐えなければいけない。幸い連結扉の前で、少なくとも一方は壁で人がいない。
ホッとしたのも束の間、お尻に違和感があった。
カバンが当たってるだけかもしれないし……。しばらく耐えてみるも、明らかに電車の揺れと違う動きをしていた。何度か手で払いのけてもしつこく当ててきていた。
いい加減にしろと、払いのけずに掴んで声を出そうとしたら、逆に手首を掴まれた。
「気の強い子超好み」
「すごい可愛いしついてるな」
壁に押し付けられて体中を弄られる。ゾワゾワと気持ちの悪い怖気が全身を走る。
「ちょっと……っ! やめて!」
「そういうのいいよね」
「静かにしてないと見られちゃうぞーってやればいいのかな?」
男たちはくすくす笑いながらスカートやジャケットをたくし上げていく。
せめて正面向かなきゃちゃんと反撃もできないと、私は無理やり体をひねって男たちに対面した。
声の感じからして若そうだとは思っていたけれど、もっとチャラそう、もしくは悪そうな人を想像していたら、二人ともものすごいイケメンだった。なんでこんな人たちがと驚いて体が固まってしまう。
「あ、あなたはー」
「あぁ、この前の子じゃん、何それすごい。もう運命だよねって言うか、君、犯罪者だったんだね」
「はっ!?」
男の一人は、この前電車で痴漢から助けてもらい、ハンカチを貸してくれた男性だった。
あの時はすごい優しそうで爽やか系で、実際あの時は痴漢から助けてくれたのに、なんでこんな。
しかも犯罪者って何。
私、犯罪者なんかじゃない。
「なんだ、じゃあこの前助けない方が良かったのかな」
「何を言ってるの?」
「まぁ今日、会えたからいいか。じゃあよろしく」
「だから何を言ってるの!」
腕を二人から掴まれても必死に虚勢を張る。
じゃないと泣いちゃいそうだ。
「君こそ何言ってるんだ? ここ、痴漢専用車両だぜ?」
ハンカチの人じゃない男が言う。こっちの人はインテリ系イケメンで、やっぱり痴漢なんてしそうにないのに。
そして私はやっと気付いた。
そっ、そうだった――!
増加する犯罪に刑務所がパンク、財政も逼迫し、法律が改正されたのだ。
すなわち、軽犯罪者は罪状に見合った社会奉仕をすること。
この電車はその政策のうちの一つ。
痴漢予備軍の犯罪防止を見込み、且つ受刑者の罰にもなるということらしい。
「わ! わたし! 私違うんです! 本当です! 人に押し流されて間違えて乗っちゃって!!」
「あ、君、そういうのが好み?」
「やっ! 本当に! 違って!」
「散々駅ホームでもアナウンスされてたでしょ。テレビでも国の情報メールでもずっと流れてんだから」
「とにかく自己責任だから。知ってると思うけど」
「だから本当はこういうプレイがしたいって事なんだろ?」
「あ~そうなの? 気を付けた方がいいよ? 今回は軽犯罪の中でも軽い方だからさ、俺らみたいなフツメン以上が集められてるけど。罰になってないと判断されたら、キモオヤジの方に回されるよ?」
「ほら、彼女とかは次回キモメン行きだろうね~」
指差された方に目をやれば、男性の上に全裸で跨り、腰をグリングリン振って喜んでいる女性がいた。他の男性のモノまで握って扱いたりもしている。
他の女性は男性に囲まれていてあまり見えないけど、中にはどう見ても感じている人がいるのがわかる。嫌がる声の中に、明らかな嬌声が混じっている。
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