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第13話 勇者の土下座と契約書

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久々の一人だ。

今日はガイアもマリア達も居ない。

暫くはゆっくりしているか…

トントントン…

どうした?

三人は朝食のブッフェの予約をしたから恐らくは10時過ぎまで帰ってこない。

ガイアだってオールナイトコースで入れているから、まだ2時間は帰ってこない筈だ。

だれだ一体。

こんな朝早くから迷惑だ。

本当に誰だ…

「はい、今ドア開けますよ」

俺はドアを開けた…そこには…

「どうした…ガイア随分と朝早いじゃないか? まだ時間過ぎて無いだろう?」

「いや、この時間なら、エルザ以外は起きていないだろう?親友のお前に折り入って頼みがあるんだ」

態々起きてない時間を選んだって事は三人に聞かれたくない話しの筈だ。

「それは三人には内緒の話し、そういう事だな」

「ああっそうだ、親友のお前にしか頼めない事だ」

「三人は別の所に泊まっている、だがあと2時間もすれば帰ってくるから場所を変えようか?」

「ああっ、そうしてくれると助かる」

「解った」

なんだ…あのガイアが相当思い詰めている気がする。

それに目に隈があって凄く眠そうだ。

まぁ、こっちはあれの疲れだろうが…


俺はガイアと一緒に近く別の宿屋に来た。

前の世界と違って早朝から空いているファミレスみたいな物は無い。

定食屋を兼ねた酒場は空いているがこの時間は混んでいる。

だから自然と落ち着ける場所はこうなる。

前世のラブホと違い普通の宿屋だ。

討伐に夜間出ている冒険者は昼間眠る事もあるから、男同士で入っても可笑しいと思われない。

俺は宿屋に入り、オプションの朝食2人分を頼んだ。

「それでガイア、頼み事ってなんだ?」

いきなりガイアが俺の前に土下座をした。

あのプライドの高いガイアが土下座だと…このまま足で踏みつけたらさぞかし爽快に違いないが…流石に、今はしない。

「理人、頼みがある、俺に金貨1200枚貰えないだろうか?」

金貨1200枚だと前世でいう1億2千万じゃないか?

しかも貸してくれじゃなく…貰えないかだと。

「どうしたんだ…そんな大金、何に使うんだ」

「実は…」

ぼそぼそと話し始めた。

何となく話が読めてきた。

本当に呆れた…

幾ら童貞を卒業した純情ボーイでも勇者だろう。

恐らくは水タバコに麻薬か媚薬を仕込まれたんだよ、気付けよな。

そうしたら…通常よりかなりの快感を感じる。

その状態で二人で頭が一杯になったガイアを口説いたんだな。

「金貨1200枚か、流石に用意は難しいぞ」

こうなる事も考えて行動もしていたが…早すぎる、この状態になるまで俺の予想ではまだ2か月は掛かると思ったんだが…間に合わなかったか。

「理人お願いだ、その金額を用意できればイザベルとジザベルが結婚して側室になってくれるんだ、この通り頭を下げる、お前しか頼りになる奴が居ないんだ…なぁこれをどうにかしてくれたら、お前の願い、何でも聞いてやるから、本当に頼む、親友だろう?」


幾ら美人でも娼婦だお金さえ払えば抱ける女だ。

それに娼婦である以上は『身請け』か『年季明け』しか自由になる方法はない。

ましてダークエルフなら奴隷として買われてきて『年季明け』が無いかもしれない。

すると…『身請け』しか自由になる方法はない。

多分誰にでも『身請け』して欲しいと言っている筈だ。

爺だろうが誰だろうが娼婦をしているよりましだからな。

「…」

普通なら『無理だ』『馬鹿な事を考えるな』そう言う。

前の俺なら殴って目を覚まさせたが…今の俺はしない。

「なぁ理人そうだ、リタ…そうだお前にリタを返してやる、それでどうだ? 幼馴染で婚約者、好きだったんだろう? 返してやるからな…それで良いだろう? 金貨1200枚でリタがお前の物だ、俺も親友から奪う気は無かったんだ、なぁこれなら良いだろう?」

「…(どうすれば良い)」

金貨1200枚か…幾ら俺でも難しいな。

ワイバーンが1羽、金貨500枚だが、2羽じゃ足りなくて3羽必要だ。

俺じゃ頑張っても1日1羽が限界だ。

だが、空を飛ぶワイバーンを3羽も短期間で狩れるわけない。

どうやれば良いんだ。

ガイアが娼婦を側室にするチャンスだ。

是非ともどうにかしたいな…

「ああっもう解った、確かに彼奴らじゃ俺には釣り合わない! だがお前は幼馴染好きだろう? 『思い出が欲しいんだろう』もう、そんな必要は無い…マリアもエルザもリタも全員お前にくれてやるどうだ? これなら…良かったなもう『思い出』じゃない全員お前のもんだ…そして俺はお前に感謝するぞ…友情フォーエバーだな」

「…(腹を括るか)」

仕方ない、このチャンスは逃せない。

危険だが地竜をか水竜を狩るしかない…

決めた、やってやる。

「おい、理人聞いているのか? 親友の俺がお前の為にだな」

「あっごめん、考え事していた、それでなんだ?」

「だから金貨1200枚用意してくれたら三人をお前にやるって…」

マジか…

ガイアは本当に大丈夫なのか?

だが、此処迄のチャンスは二度と無い。

「そこ迄言ってくれるなら、俺も死ぬ気で金を用意する…だが金貨1200枚は大きな話だ、ギルドで公正証書作って貰ってよいか?」

「ああっ構わないぜ、流石は親友だ」

確かに金を用意できるのは俺だけだしな。

勇者は基本討伐してもお金は貰えない。

その代わり必要なだけ幾らでも教会や国から金が貰える。

だが、流石にこんな理由でお金は貰いにくいだろう。

「下賜扱いの拝領妻扱いで良いんだよな」

「その辺りはお前の好きで良いよ」

「解った」 

◆◆◆

商業ギルドに来た。

「いらっしゃいませ、勇者ガイア様に理人様、今日はどういったご用件でしょうか?」

「公正証書をお願いしに来た…大きな話だから証人2名は出来るだけ地位の高い人間にして欲しい、あと三国王宮預かりで頼む」

「解りました…そうですな証人2人は商業ギルドのギルマスと冒険者ギルドのギルマス…そしてもう一人通信水晶ですがこの街の領主 ブラウン伯爵様を加えた三人で如何でしょうか?」

「さっさと済ませちまおうぜ、なぁ」

「そうだな、その三人なら文句ない、お願いする」

流石勇者ガイアが直接絡んでいるだけある…すぐに準備が整った。

「それで証書にしたいのはどういった内容でしょうか?」

「簡単な内容だ、理人が俺に金貨1200枚を渡す、その代り、マリアとエルザ、リタの三人を理人にやる、そういう内容を書け」

「えっ、冗談ですよね」

「ふざけんな冗談じゃない…急いでいるんだ早くしろ」

「ひぃ、畏まりました」

「ちょっと待って」

「待て」

「証人が口を出すのは違反ですよ」

口を挟まれたら不味い...

「そうだ、俺は急いでいるんだ、早くしろ」

「「あっ、解った」」

「はい」

「『拝領妻』の名目で『下賜』する者とする。それを付け加えて下さい」

「あのガイア様、本当に良いんですか?」

「さっきから言っている、俺は時間が惜しい…早くしてくれないか!」

「はいただいま…急ぎで処理します…出来ました、それでは…」

書かれた内容を読み上げた。

多分、二人のギルマスと水晶越しに見ている領主は破棄して欲しい。

そう思っているに違いないな。

「それでは内容に問題が無ければ二人とも署名捺印をお願い致します」

ガイアと俺が署名して拇印を押した。

今回は勇者絡みだから、三国扱いにした。

この証書と証書のコピーが商業ギルド、冒険者ギルド、王国、聖教国、帝国の三国の王宮預かりになる。

その結果絶対に誰であろうと破れない制約となる。

「以上で手続きは終わりました、お疲れ様でした」

無事手続きは終わり、ガイアと俺に預かり証が渡された。

「それで、いつまでなら金貨1200枚用意できそうなんだ?」

「そうだな…流石に1週間は欲しい」

「そんなにかかるのか?」

「ああっ、このお金をどうにかするなら地竜か水竜を討伐するしかない、幸いな事に塩漬け依頼にどちらもあったから行ってくる」

「おい、大丈夫なのか? 死ぬなよ」

「あはははっ、死んだらごめんな…だがガイアが土下座までしてまでの頼み事だ、それに俺の欲しかった者を全部くれたんだ、死ぬ気で頑張るよ…一応、三人には指名依頼で出かけたと言ってくれ」

「解った、伝えておく」

「あとこれ、渡しておくな」

「おい、この金は…なんだ」

「俺に必要な金を残した残りだ、これから身請けしようとする女が他の男に抱かれるのは嫌だろう、それ位あれば1週間は貸し切れる」

「そうか、重ね重ね済まないな」

「良いぜ、親友だろう」

俺は冒険者ギルドに行き悩んだ末、地竜の依頼を受けた。


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