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第15話 俺も傷ついていたのかも知れない。
しおりを挟む「ただいま~」
「おかえりなさい…」
しかし、一緒に出掛けられないって本当に不便だ。
デートとかしたいのにそれも出来ない。
アイカは今迄が今迄だったからか、良く元気がなくなる。
今も少し落ち込んでいる様に見える。
「アイカ、まぁ座って、座って」
「あの…リヒト様?! 私奴隷ですよ? これはなんでしょうか?まさか…これを食べて良いってことは無いですよね…給仕をしろって事ですよね…」
「違うから、ほら座っていて今準備するから」
「はぁ…」
俺はあの後、サプライズを兼ねて『有名なお菓子』を買い漁ってきた。
中には貴族ご用達のお店で買った高級品もある。
特にお勧めなのは『ショートケーキ』だ。
この世界には過去に転移者がいるからこういった物もある。
だが、転移者がもたらした物は、手間暇が大変だからかそれなりに高い。
前世で言う所の高級なお店レベル位高級品だが…S級冒険者の俺には関係ない。
それに勇者パーティのナインペタン3人組は元は村娘の癖に三職になってからやたら贅沢になったからこう言うのを探して買ってくるのは得意だ。
「アイカはコーヒーと紅茶どっちが良い?」
「あの、紅茶は解りますけど、コーヒーって何ですか?」
そう言えばガイア達にもコーヒーは不人気で飲むのは俺だけだったな。
確かに余りメジャーでないのかもな。
「ああっ、ちょっと苦い飲み物なんだ、知らないなら紅茶の方が良いな…それじゃ紅茶をいれるよ」
俺は紅茶を入れ、タップリとミルクを入れた。
所謂ミルクティーだな。
「あの…」
「どうした?」
「それ、私にですか?リヒト様が召し上がるのですよね!」
「違うよ、アイカの物に決まっているじゃないか? あっもしかしてミルクが嫌いだった?」
「そんな事はないですが…紅茶みたいな高級品滅多に飲んだことがなくて、それにミルクを贅沢にそんなに沢山…そんな高級そうな物、小さい頃数回飲んだだけなんですよ…グスッ」
「こんな事位で泣くなよ、もし気にいったのなら紅茶位、毎日入れてあげるから」
「あの、まさかと思いますが、このテーブル一杯に並んだお菓子も、私も食べて良いんですか?」
確かにこういった嗜好品は結構な金額だが、俺には大したことは無い。
「逆に食べて貰えないと困る、アイカの為に買ってきたんだからな、特にそこにある白い奴はショートケーキと言って凄く美味いぞ、ほら」
目がウルウルしている。
これはまた泣くかもな。
「それじゃ…いただきます。グスッ紅茶凄く美味しいです…これ凄く甘くて…グスッスンスン、美味しい…です…こんな美味しい物、もう、ずうっと食べた事…ありません…」
嬉しくて泣いている。
笑顔で泣いている。
これが見れるなら、こんな物位幾らでも買ってやるよ。
「そうか…好きなだけ食べて良いからな」
「うっうっうわぁぁぁぁぁー-ん」
「おいどうした? なんか嫌な事でも思い出したのか?」
「違いますよ…なんで、なんでリヒト様はこんなに優しくしてくれるんですかー-っ、どうしてです…グスッスンスン、うっうっうううっどうして?どうしてなんですか?」
「それなら言っただろう? アイカが俺の好みで好きだからだ」
「嘘ですよ…私は『化け乳』ですよ…醜い女の代表です…よ…リヒト様は、リヒト様はぁハァハァグスッグスッ…英雄様じゃない…ですか…なんで私なんですか?幾らでも可愛い子が夢中に…なりますよ…グスッ、私なんかじゃなくても、可愛い子が幾らでも付き合ってくれますよ? なんで私を買ったんですか…グスッわかりませんよ…本当に解り…ませんよ」
そう言われれば『俺はなんでアイカを買いに行ったのだろう?』
確かに理想の女性を探したかった。
それは嫌と言うほど解っている。
だがなぜ『奴隷』だったのだろうか?
あの時の俺の中には『奴隷』一択しか頭になかった。
だが…俺はS級冒険者だ。
普通に考えたら奴隷を買う前に『パーティ』を探しに行くはずだ。
アイカを見つけたのは運が良かっただけだ…少なくとも奴隷商に売られている人数より冒険者の方が数は多い筈だ。
そして俺は元勇者パーティでS級冒険者。
パーティの仲間として引く手あまたなのは間違いない。
『なぜなんだ』
そうか、俺は今迄気がついて無かったが、結構傷ついていたのかもな。
考えてみれば、俺の友人はガイア達4人しか居ない。
幾ら恋愛感情が無いとはいえ、あの一瞬で親友と幼馴染を全部失った。
だからだ、きっと。
「そうだな、俺は思った以上に寂しがり屋だったようだ。きっと何があっても傍に居てくれる存在が欲しかったのかも知れない」
「だけど…それでなんで私なんですか? リヒト様なら…幾らでも相手は選び放題じゃないですか…何も私みたいな『化け乳』を選ばなくてもいい筈ですよ…それにお金がこんなにあるなら、綺麗な奴隷だって買えた筈ですよ…可笑しいですよ…」
もう話した方が良いのかも知れないな。
「俺にとってアイカは『理想の女の子』なんだよ」
「それは聞きましたよ? だけど、私は『化け乳女』です…気持ち悪い脂肪の塊を二つもぶら下げた女なんです…幾ら顔が好みでも選ぶなんて可笑しいですよ…」
「アイカは俺に選ばれて迷惑なのか? アイカは俺の事嫌いなのか?」
「そんなわけない! こんなに優しくなんてされた事ないです…嫌いな訳ないじゃないですか…」
「俺はアイカが好きだ…本当に好みなんだ、本音で言えばその胸も本当に好きだ」
「嘘ですよ…グスッスンスン、こんな醜い塊好きな…グスッ訳ない…そんな人…この世に居ませんよ…」
「俺は好きだよ…その胸…大きくて柔らかくて、好きだ」
「同情は良いですよ…グスッこんな化け乳好きな訳ない、リヒト様は優しいから同情でそう言うだけですよ! 同情は惨めになるだけですから…やめて下さい…」
「俺は転生者だ…だから前世の記憶があるんだよ。俺の居た世界では胸の大きさなんて気にしない世界だった、歌姫にだって綺麗だと言われるお姫様にだって胸の大きな子が居た…だから気にならない」
本当は嘘だ。
俺は…どうしようも無い位に巨乳が好きなんだが…流石にそこ迄言わなくて良いよな。
「あはははっ冗談ですよね! リヒト様はグスッ優しいからそう言うだけですよね…こんな醜い乳なんですよ…気持ち悪くないわけ無い…絶対にない…グスッですよ…」
「それがアイカの物だって言うなら、俺はその胸も愛せる…」
いや、寧ろその胸が好きだ。
「本気で言ってますか? こんな醜い胸の私が好きなんて…グスッ同情じゃなくて…本気で言ってますか…」
「ああっ本気だ」
「リヒト様は…変態のブス専ですよ…化け乳女が好みなんて言ったら、誰もがそう言うと思いますよ…それが解ってても、私が好きなんですか?」
「アイカが好きだ…その胸も含んで」
「そう…ですか…リヒト様は変態ですよ…ブス専ですよ…こんな私が好きだなんて…もう知りませんよ…グスッ…こんな醜い女の子に、そんな事言うなんて…こんな私にそんな事いうなんて…リヒト様はそんなにカッコ良くて綺麗なのに、化け乳好きの変態ブス専なんですね…」
「いや違う、アイカが好きなだけで別に変態でブス専な訳じゃない」
巨乳好きは本当だけどな…
「もう解りましたよ…此処迄沢山親切にされた事なんてありませんから…信じますよ…グスッ、まさか本当にリヒトさんは変態だったんですね…こんな化け乳女が好きだなんて…この世界にリヒトさんしか居ませんよ…皆から変態のブス専扱いされる位可笑しいんですよ…それでも好きだっていうなら、もう何も言いません…よ…その代り責任とって下さい…嘘じゃないんですよね」
リヒトさん? 呼び方が急に変わった。
どうしたんだ?
いきなりアイカが土下座の様なポーズをとり三つ指をついた。
「おい」
「こんな化け乳女を買ってくれてありがとうございました。こんな化け乳女を好きと言ってくれてありがとうございました。もう身も心もリヒトさんに捧げます…何でもしますから…ずうっと傍に置いて下さい…何でもしますから…グスッ」
「本当に何でもするんだな!」
不味いな、鼻血が出そうになった。
「はい!なんでもします…よ」
「それなら俺もアイカと同じで願いで良いよ…何があっても俺の傍に居て欲しい」
「それで良いんですか…私何もできないですよ…良いんですか?」
「ああっ」
「それなら…死ぬまで、ううん死んでもずっと傍にいます…もう離れませんからね…知りませんから…」
そういうアイカの顔は涙顔で目が少し腫れていたけど、今迄見た中で一番可愛いい笑顔に見えた。
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