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第50話 【過去】王女マリンSIDE 絶望

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「王宮にある神殿が光り輝いています」

そうメイドが急いで私の部屋にきました。

これは神託が下される時に起こる現象です。

暫くすると、神殿の責任者である司祭と枢機卿が私とお父様を呼びに来ました。

「私とお父様に神託が下される……そう言う事ですか?」

「はい、ですから、すぐに神殿まで来てください」

神殿につくとお父様が先についていて、女神像に跪いています。

私もすぐにその横に跪きました。

女神の裁きの光と共に神託が下されました。

『エルド六世、および王女マリン二人の罪を裁きます……罪なき異世界人の殺人実行指示により……寿命を10年減らします』

私とお父様が罪人……そんな謂れはありません。

この国の為に必死に生きて来たのです。

お父さまは賢王と呼ばれ、私も悪い事等していません。

それなのに……なんで罰されなければいけないのでしょうか。

「待って下さい! 私もお父様もその様な事をしておりません」

「待ちなさい! マリン……私もお前も……していたではないか? もう10年近く前だ……勇者たちが召喚された時に、名前ももう思い出せないが『強奪スキル』持ちの少年を殺さなければならないと平城殿を含む異世界の方々から請われ騎士を貸し出した。その事ではないですか」

『その罪です』

それなら、おかしいわ。

あの時の少年、理人を殺して欲しいという話は異世界人全員による総意だった。

私やお父様は具体的な話を聞かずに、その願いを叶えてしまった。

だけど……既に終わってしまった後とは言え、ちゃんと諫めたのだ。

それなのに……『罪』?

もう10年近く前の事なのに……それにたかが1人の命の為に女神様が介入してくるのがおかしい。

実際に、異世界人のかなりの人数は死んでおり、中には人間に殺された者もいるのに……

「それでも、なぜ私達なのですか? あの件は私達も騙されていたのです。全てを知った時は遅すぎましたが……ちゃんと諫めました」

『そうですか……ただ諫めただけ……それが罪なのです。地獄の様な生活に落とされながらも彼は生きていました……何故、すぐに捜索をさせなかったのですか? それは、貴方にも王にも出来た筈です』

「それは……」

人が生きていけない様な場所に放り込んだのだから、誰も捜索なんて出来ない。

だけど、それを言えば『そんな場所に殺す為に放り込んだ』そう言わなければならない。

それじゃ……『私達が悪くなく、異世界人が悪い』

本来は、これが事実だわ。

だけど、命がけでこの世界を救ってくれた者を悪くは言えない。

諦めるしかない。

しかも相手は女神なのだから……

「我々は人一人殺すような事をしたのだ! 潔く罪を認めるしかない」

「ええっ……罪を認めます」

『それでは罰を執行いたします』

私とお父様を光が包みました。

暫くすると……

「嫌、いやぁぁぁぁぁぁーーお父様が、お父様がーーっ」

『寿命が10年満たなかったようですね……足りない分は貴方から頂きました! これにて罪を償った事を私――』

「煩いーーっ!」

私は近くにあった燭台を女神像に放り投げた。

『私は慈悲深い女神……今の行動は特別に許します』

その神託が終わると光は消えていった。

◆◆◆
「お父様――っ! お父様――っ!」

お父さまは冷たくなって死んでいた。

息もしていないし、顔も真っ青だ。

心臓の音もしていない……

お父さま……

「「姫様……」」

近くにいた枢機卿と司祭が寄ってきた。

冷静に、冷静に話さないと。

だけど……自分の手を見てしまった。

10年の寿命という事なら24歳だった私は34歳の姿になっている筈だ。

だけど、この手はもう少し……上の年齢のような気がする。

「私とお父様は……10年前の異世界人、理人の件でその罪を償いました」

「ですが、その件なら、こちらに非は無く、悪いのは平城殿ではないですか?」

「そうです!」

「事の真偽も確かめず、その後も捜索もしなかった。その罪で裁かれたみたいです」

「そうですか……それはお気の毒としか言えません」

「……」

「父の葬儀を進めてください……頼みましたよ……私は少し休みます」

あとの事は枢機卿と司祭に頼み、私はその場をあとにしました。

◆◆◆

部屋に戻り鏡を見ました。

これが、私……

あはははははっ、もう多分おしまいだわ。

34歳には見えないわ。

気のせいか40歳越えに見えるわ。

ただでさえもう高齢なのにこれじゃ妊娠出産はむずかしいわ。

勇者である大樹とすぐに結婚して跡継ぎを作るつもりだった。

勇者との婚姻が決まってから、今迄、異性を知らない。

遠距離恋愛で手紙を送りあうだけの恋。

その結末がこれなのか……

あんまりだ。

今迄、魔王や魔族との戦争があり、幸せな人生なんて無かった。

まして、私の婚約者は勇者の大樹。

だから、他の仲の良い貴族の令嬢が結婚するなか、私は待つしか無かった。

それなのに……これなの。

婚約者に遭うのに、この姿……

「あはははははっ私、おばさんじゃない! ただでさえ歳上だったのに……あははははっ、跡継ぎも出来ないなら、次の王位は親戚から選ぶの? 」

この国は血筋を大切にするから、次の女王は私。

だけど、跡継ぎをつくれない私は数年後、親類から次の王を選ばないといけない。

つまり、王の候補である王子や王女はただの親類だ。

私の未来は……あははは終わりだ。

このおばさんの姿で婚約者に遭うの……地獄だわ。

お父様も亡くなって……これ……

うふふふ、あははははっ……あの時、馬鹿な事をやったのは異世界人なのに、私やお父様が責任をとらされた。

これも、あの平城綾子が悪い。

そうよ……王族である私達が責任をとったのだから……

『実行犯である異世界人』も責任をとらせないとね。

大樹達勇者が帰ってきてから……罪を償ってもらうわ。

あの時、王であるお父様と私は彼等の罪を許しました。

ですが、女神が『罪』だと言うなら仕方ないわね。


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