天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

文字の大きさ
39 / 139

現場

しおりを挟む
楽しくて長かった冬休みも終わり、学校が始まった。
少しずつ春が近づいているといっても、フィルニースは冬が長く春の訪れを感じるのはまだだいぶ先だろう。
園芸部にいると特に春まで長いと思う。

『雪解けまで活動は停止です』

そう掲示板に張り紙が貼ってあるのを見てアレンシカはため息をついた。

園芸部はアレンシカにとって無心で活動が出来る上、大好きな花に囲まれる素晴らしい部活であるというのに、ここ最近は活動も出来ない上に気を暗くすることばかりだ。
それは、少し花壇に近づくと顕著になる。

「好きです!」

そう大きな声が聞こえた。ここ最近はよく聞く言葉だった。
卒業式が近づき、家の関係で卒業式まで学園には通わないという生徒も多い。だから自分や相手が学園にいる間に、告白しようと思う者も多いのだ。

いつもだったら、思いが遂げられるようにと微笑ましく思いながらも邪魔しないように通り過ぎるだけなんだろう。
相手が相手ではなければ。

「ウィンノル殿下……。」

ちらりと目線をずらすと、そこにいる告白を受けていた相手はアレンシカの婚約者で想い人だった。
ウィンノルはけして自分には向けない笑顔で、少し気を使いながらも相手に告げていた。

「気持ちはとても嬉しいよ、ありがとう。でも私には決められた相手がいるからごめんね。」

にっこり、優しい笑顔。
その優しげな瞳は自分には絶対に向けられないものだ。その紡ぐ言葉が相手には望まれない言葉であっても、優しく暖かな笑みを浮かべるその彼は自分を前にした時とは大違いの笑みだった。

「卒業する人達が王子に告白してるらしいっすね。」

「ルジェ…。」

ぼんやりとその様子を見ていると後ろからルジェが現れた。
ルジェは少しだけウィンノルへ目を向けたが興味はないようでアレンシカと話す。

「ここ最近は一日一回は誰かしらに告白受けてる感じです。あんまり庭園には近づかない方がいいっすよ。雪で覆われてても告白スポットですわ。」

「そうなんだ……。」

さすが王子は告白の嵐らしい。告白の相手はまだ名残惜しいのかウィンノルと話し込んでいる。それに嫌な顔もひとつせずに穏やかなにウィンノルは談笑していた。

「ルジェはどうしてここに?」

「……まあ、見てなきゃいけないんすよ。いろいろ、報告しなきゃいけないことがあって……。」

「そうなんだ……。」

「そういえば聞きました?ユース王子から。」

「……ああ、うん。」

次の学年からアレンシカはウィンノルと同じクラスになるらしい。
というのも、昨日突然邸宅にユース王子が来て言ったからだ。

「なんでも、ユース王子がクラス編成について進言したからだとか。」

「そうなの?」

「はい。王立の学園だからっていろいろやりすぎてる感じありますよね。確かにクラス編成は成績の他にも、仕えてる家とか婚約関係とかも考慮されるといってもあんまりじゃないっすか?」

「……そう、かな。」

「そうっすよ。……なーんかユース王子もフィラル様も王族だからって理由の他に別の考えがあるんじゃないかと思う時があるんですよね。」

「別のって……?」

「さあ……。そこまでは。王子の考えなんて俺には分からないので何とも。」

「そうだよね。」

アレンシカも婚約者である彼の気持ちが全く分からない。その気持ちはよく分かっていた。

「あ。」

どうやら告白は終わったようだ。告白した相手はどことなくスッキリした顔をしていた。だが目にはまだ恋情を携えているように見える。
二人は別れ、別の方向に歩き始めた。

「俺もそろそろ行きますわ。」

「うん、またね。」

「……まあ、王子ともなると単純に好意以外の他の理由で告白されることもあるんで、そんな気落ちする必要はないですよ。」

「えっ。」

「ちょっと落ち込んでるみたいなんで。」

「あは…。」

「……全部が全部、好きだからじゃないと思うんで、そんな気にせずに。じゃあ。」

ルジェは少しだけ手をあげてアレンシカと別れるとウィンノルの歩いた方へと歩きだした。

「そう、なのかな……。」

アレンシカにはみんながウィンノルへの好意があって告白しているようにしか見えなかった。
だって自分以外にはとても優しくて、丁寧で、素敵な微笑みを浮かべるのだ。誰だって好きになるに決まっている。そうとしか思えない。
羨ましくて、ないものねだりだって分かっているのに、断られていても優しい笑みを向けられる彼らがひどく羨ましい。

「……こういうところが駄目だって、分かってるのに。」

アレンシカにはどうしても欲しかった。
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

奇跡に祝福を

善奈美
BL
 家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。 ※不定期更新になります。

遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。

月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」 幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。 「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」 何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。 「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」 そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。 僕、殿下に嫌われちゃったの? 実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。 月・木更新 第13回BL大賞エントリーしています。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

好きで好きで苦しいので、出ていこうと思います

ooo
BL
君に愛されたくて苦しかった。目が合うと、そっぽを向かれて辛かった。 結婚した2人がすれ違う話。

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

処理中です...