Focus

高遠 加奈

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いいもの

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「親ってものは口ではどんなことを言っても、子供がかわいくてしかたないものなんですよ。私達は、ただ沙那に幸せになってもらいたいと思っています。

もちろん私が会社を経営していることに変わりはありませんが、いざとなったら他に経営を任せることだって出来ますからね」


そうは言うものの、どこか辛く悲しげな目をしている。


ずっと自分が携わってきた会社だ。思い入れもあるはずだし、安心して引退したいし、見守っていたいだろう。


沙那さんを思っての決断だろうが、辛いものであることは体から滲み出るほどに感じられた。


その時、後ろで何かが落ちる重い音がした。振り向くと顔色をなくした沙那さんが立っていた。


「本気なの、お父さま」


飲み物を落としたことすら気にならないくらい、動揺している。落とした缶を拾いあげてテーブルに置く。


「沙那の人生は自分で決めていいのだよ。押し付けられて辛かったろう。随分反発されたからね。無理に沙那に継いでもらわなくても、会社には優秀な人材だっているのだから心配しないでいい」


「隆晃おじ様? それとも松橋さん? どちらも社員のことを本気で心配していないし、経営を任せられないっておっしゃったわ」


父親のスーツにしがみつくように訴えている。それに対して沙那さんを安心させるかのように、お父さんはうっすらと笑みを浮かべている。


「いざとなったら、優秀な人材を引き抜いたっていいんだ。沙那は心配しないでいい」


沙那さんを落ち着かせるように、背中を撫でる。きっと子供の頃から何度もしてきた仕草なんだろうけれど、親子の強い絆を感じる。

お互いに対する深い愛情も。



「だって、お父さまはあんなにわたしがヤキモチを焼くくらい、会社や社員を大切にしていたじゃない」



「会社も大変な時で必死だった。沙那と沙夜子のために頑張っていたつもりだったが、寂しい思いをさせたな」


「……ちっともわかってあげられなくて、ごめんなさい。我が儘言って、ごめんなさい」

泣きそうな沙那さんを支えるお父さん、それを見守るお母さん。

それは優しい家族の絵のようだった。


「相模くんには、恥ずかしいところを見せてしまったわね」

うふふと笑いながら沙那さんのお母さんも、目尻に光るものがある。

「いいえ。いいもの、ですよ」


「本当、相模くんが来てくれていなかったら、まだ二人でいがみ合っていたわ。自分の気持ちを見せることが下手なのよ、二人とも。良く似ているでしょう? 」


「良く似ていますね」

沙那さんを見るお父さんと、泣き笑いで返す沙那さん。二人の目元は良く似ていた。




しばらくして落ちついた沙那さんとお母さんを囲んで、ノートパソコンを立ち上げる。

パソコンには、沙那さんのお父さんが持参したUSBがさしてあり、そのデータを開いて見せてくれた。

「ほら。新宿店の柏木店長だよ。去年生まれた子供も一緒に写っているだろう」

画面に大写しにされたのは、かわいらしい赤ちゃんを抱いた夫婦だった。女の子は、生えそろったばかりのふわふわの髪の毛をして、まあるい目でこちらを見ている。

「まあっ大きくなって! かわいいわ~」

「ほっぺたがぷりぷり」

女性陣には絶大な人気だ。


「社長なんてしているとね、従業員が家族のように思えてくる。息子や娘、孫が増えたようで嬉しいものだよ」


目を細めて沙那さん達を見る視線がとても優しい。情の深い人なのだろう。

その横顔を見ながら、ほっとしている自分と何かつかえている自分がいた。

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