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はじらう
しおりを挟むケーキを切り分けたミオから、最初の一切れをもらう。
ケーキはウエディングで使われるような、フルーツとチョコレートのプレートが乗った大きめのものだ。
取り分けたケーキに、ひょいとチョコレートのプレートが置かれる。
「これは誕生日の人の特権だから」
「子供みたいだな」
苦笑いを浮かべて見せたけれど、本当は嬉しい。
「自分の名前があるんだから、責任持って食べてよね」
チョコレートをかじりながらミオを見る。
ケーキを切り分けるために俯いた睫毛が、すべすべした頬に影を落としている。
綺麗になった。
ふざけて話してる時には気づかないけれど、こうして何かしている時に無防備な首筋をさらしていたりするとどきりとする。
白い首筋にかじりついたら、どうなるだろう。
ミオに色気を感じて、自分の男の部分を自覚した。仲のいい女友達が、自分の知らない所で綺麗になっていくことがくやしい。
ミオを綺麗にした誰かに嫉妬していた。自分のほうがずっとミオを知っているのに。
ケーキを分け終えたミオが、ためらいがちに箱を取り出した。
その頃にはケーキを食べ終えた俺は、他のスタッフがいれてくれた紅茶を飲んで誰ともなく話をしていた。
沙那さんも、仲のいいメイクさんとの話で盛り上がっていた。
「ケーキの試作なの。結輝、味見してもらえない? 」
小振りの箱には、プレゼントのようにリボンがついていた。
「バースデープレゼント?」
からかうように言ってミオを見たら、真っ赤になって固まってしまった。いつもみたいに言い返してこない。
「違うわよ。コンクールに出すケーキの試作がやっと出来たから……」
真っ赤になって俯くミオを見たら、もっと困らせたくなる。
自分にそんな気持ちがおきるなんてどういうことだ。普段、気の強いミオが恥ずかしがるのが珍しいからだ、きっと。
「それじゃ遠慮なく」
テーブルに置いてリボンを解くとラズベリーとブルーベリーの飾られた丸いチョコケーキが現れた。表面には粉砂糖がかけられていてシンプルだけれど、かわいらしい。
「いいね。女性受けしそうなケーキだよ」
まだ赤くなっているミオが差し出したフォークを貰って、ケーキを切ると中からとろりとしたチョコレートが流れ出てきた。
「チョコレートフォンダンよ。フルーツを絡めて食べてみて」
濃厚なチョコレートとベリーを一緒に口にすると、チョコレートの甘さとベリーの酸味が絡まり、今まで味わったことのないデザートだった。
「……旨い」
にこっとはにかみながらもミオが笑ったので、幸せな気分になる。
「このケーキの売りはチョコレートの濃厚さとベリーの酸味なの。中のチョコレートに負けないように生地もどっしりしたタイプにして食べごたえをだして満足感を出したの。チョコレート生地、チョコレート、ベリーを混ぜて食べることで、パフェにも負けないスイーツにしたつもりよ」
嬉しそうにミオが話す。本当にケーキが好きでたまらないんだろう。目もキラキラとしてほんのりと染まる頬がかわいらしい。
「すげー旨い。なんか今の季節には合わないくらいチョコチョコしてる」
初夏の日差しの中で食べるには濃厚なスイーツだった。どちらかといえば、秋や冬に恋しくなる味だ。
「いいのよ。迷わないことにしたの。たくさんの人に対して作ることもいいけど、ひとつのケーキをひとりのために作るのも大事なことなのよ」
ケーキを考えていた時の悩みが感じられない、ふっ切れた様子に安心する。
ミオはこうでないと。
ふいにざわめきが起こって目をやる。人が動いていく先に、ちらりと沙那さんの髪が見える。
入り乱れる人で、何かが起こっているのがわかった。ミオを見ると眉間にしわを寄せて不安そうに見上げてきた。
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