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6.紛い物の箱庭
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施錠されているので、鍵を見つけますよとアピールしてから先に進む。
この階層では其処此処に瘴気が漂っている。薄紫の靄にぶつかると即座に窒息して死ぬから、目視で避けながら先を進む。靄だけに気を取られると、忘れたころに足元を刃物が奔り抜けていくから注意が必要だ。
男爵令嬢はハイヒールで良く着いて来るものだと思うが、三人がフォローしているので振り返る必要はないだろう。
順次部屋に入り、本棚を改めて壁の文字を読む。一階層目と同じ手順だが、机の引き出しが多いのでそこも忘れずに探索する。目に入らない棚の上は、椅子を移動させて乗るのが基本だ。
先程の施錠された部屋の鍵を見つけ、ヒントのメモもかなり揃った。魔法陣のある場所を確認し、更に隠し部屋で冤罪を晴らすための証拠を放り込む。
失われた生徒会の帳簿がそれだ。脳筋は初恋に我を忘れ、男爵令嬢の気を引くために多額の金銭を費やしていた。初めは家の金を盗んでいたのだが、次第に額がかさみ誤魔化しきれなくなる。そこで生徒会の帳簿とお金を盗み、私に横領の罪を擦り付けた。
貴族の子供たちが通う生徒会の扱う金銭は、それなりに多額だ。だから金貨よりも高額で嵩張らない白金貨が金庫に入っており、脳筋は盗んだ白金貨の替わりにそれを家の金庫に戻している。
だが脳筋は知らなかった。白金貨は高額であるゆえにシリアルナンバーが刻印されており、どこの家や商会でもナンバーを出納帳に記入していることを。
この帳簿を出すところに出せば、生徒会にあったはずの白金貨が脳筋の家の金庫に移動していることが解る。
そして家の金庫にあったはずの白金貨が脳筋の手によって持ち出され、両替されていることも銀行の記録を照会すれば判明するのだ。
隠し部屋から出ると、連中はまだ追い付いていないようで安堵する。冤罪の証拠は集めていることも知られたくない機密事項だが、男共は男爵令嬢に気を取られて私の動向を碌に確認できていないらしい。
泣き言を言う男爵令嬢に胸中で感謝しつつ、私はこの階層のメインイベントに向かうのだった。
やってきました、封印されし研究室。
等と言ってみたが地味なもので、見た所は植物の育成研究を彷彿とさせる部屋だ。広めの石畳には花壇様の区切りが成され、背の高い樹木の周囲を水路が奔っている。
その樹木の先端に果実を視認した脳筋が、俄然張り切って樹を登り出した。強アルカリ溶液で育つ樹木があるかと、友人であれば飛びついて止める所だ。
気配を消しつつ離れ、外敵を警戒していますと言わんばかりに出入り繰り付近に立つ。
落ちたときにお前のせいだと言われるのは知っているが、本人たちも言い掛かりと自覚できるときは直ぐに引き下がるから、時間の消費を考えれば自衛するに越したことはない。
見上げる先では案の定、体重を預けていた枝が折れて脳筋が落下していた。ここで捻挫することで、彼は唯一の取り柄である身のこなしを失うのだ。
男爵令嬢は回復魔法が使えるが、粛清の迷宮では魔力が封じられるため怪我を治せない。おまけに毟り取った果物は布とおが屑で出来た作り物だから、脳筋がいきり立つのは目に見えていた。
「貴様が止めないから、アレクが負傷したではないか!」
口がきけない私は言い返せないから、王太子どもは言いたい放題だ。止めた所で聞く訳もないだろうにと無表情で頭を下げると、これ見よがしに私を突き飛ばして連中は部屋を出た。
宰相令息…眼鏡と王太子が脳筋を支えているから、これからの移動は余計に時間がかかりそうだ。一先ず、付いていく前に脳筋が苛立ち紛れに放り出した作り物の果実を水路から拾う。
腐食した部分を石畳に擦り付けると、布が破れて中のおが屑が一斉に落ちる。作られた小山を探る指先が、硬い感触を探り当てた。
小指よりもまだ小さい、装飾の無い銀色の鍵。それをストレージに入れた私は、身を翻して彼らの後を追った。
この階層では其処此処に瘴気が漂っている。薄紫の靄にぶつかると即座に窒息して死ぬから、目視で避けながら先を進む。靄だけに気を取られると、忘れたころに足元を刃物が奔り抜けていくから注意が必要だ。
男爵令嬢はハイヒールで良く着いて来るものだと思うが、三人がフォローしているので振り返る必要はないだろう。
順次部屋に入り、本棚を改めて壁の文字を読む。一階層目と同じ手順だが、机の引き出しが多いのでそこも忘れずに探索する。目に入らない棚の上は、椅子を移動させて乗るのが基本だ。
先程の施錠された部屋の鍵を見つけ、ヒントのメモもかなり揃った。魔法陣のある場所を確認し、更に隠し部屋で冤罪を晴らすための証拠を放り込む。
失われた生徒会の帳簿がそれだ。脳筋は初恋に我を忘れ、男爵令嬢の気を引くために多額の金銭を費やしていた。初めは家の金を盗んでいたのだが、次第に額がかさみ誤魔化しきれなくなる。そこで生徒会の帳簿とお金を盗み、私に横領の罪を擦り付けた。
貴族の子供たちが通う生徒会の扱う金銭は、それなりに多額だ。だから金貨よりも高額で嵩張らない白金貨が金庫に入っており、脳筋は盗んだ白金貨の替わりにそれを家の金庫に戻している。
だが脳筋は知らなかった。白金貨は高額であるゆえにシリアルナンバーが刻印されており、どこの家や商会でもナンバーを出納帳に記入していることを。
この帳簿を出すところに出せば、生徒会にあったはずの白金貨が脳筋の家の金庫に移動していることが解る。
そして家の金庫にあったはずの白金貨が脳筋の手によって持ち出され、両替されていることも銀行の記録を照会すれば判明するのだ。
隠し部屋から出ると、連中はまだ追い付いていないようで安堵する。冤罪の証拠は集めていることも知られたくない機密事項だが、男共は男爵令嬢に気を取られて私の動向を碌に確認できていないらしい。
泣き言を言う男爵令嬢に胸中で感謝しつつ、私はこの階層のメインイベントに向かうのだった。
やってきました、封印されし研究室。
等と言ってみたが地味なもので、見た所は植物の育成研究を彷彿とさせる部屋だ。広めの石畳には花壇様の区切りが成され、背の高い樹木の周囲を水路が奔っている。
その樹木の先端に果実を視認した脳筋が、俄然張り切って樹を登り出した。強アルカリ溶液で育つ樹木があるかと、友人であれば飛びついて止める所だ。
気配を消しつつ離れ、外敵を警戒していますと言わんばかりに出入り繰り付近に立つ。
落ちたときにお前のせいだと言われるのは知っているが、本人たちも言い掛かりと自覚できるときは直ぐに引き下がるから、時間の消費を考えれば自衛するに越したことはない。
見上げる先では案の定、体重を預けていた枝が折れて脳筋が落下していた。ここで捻挫することで、彼は唯一の取り柄である身のこなしを失うのだ。
男爵令嬢は回復魔法が使えるが、粛清の迷宮では魔力が封じられるため怪我を治せない。おまけに毟り取った果物は布とおが屑で出来た作り物だから、脳筋がいきり立つのは目に見えていた。
「貴様が止めないから、アレクが負傷したではないか!」
口がきけない私は言い返せないから、王太子どもは言いたい放題だ。止めた所で聞く訳もないだろうにと無表情で頭を下げると、これ見よがしに私を突き飛ばして連中は部屋を出た。
宰相令息…眼鏡と王太子が脳筋を支えているから、これからの移動は余計に時間がかかりそうだ。一先ず、付いていく前に脳筋が苛立ち紛れに放り出した作り物の果実を水路から拾う。
腐食した部分を石畳に擦り付けると、布が破れて中のおが屑が一斉に落ちる。作られた小山を探る指先が、硬い感触を探り当てた。
小指よりもまだ小さい、装飾の無い銀色の鍵。それをストレージに入れた私は、身を翻して彼らの後を追った。
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