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三章 魔界の門と二人の妹
9 転生した理由
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1・
大まかに作戦が決定したところで、扉に半分隠れている叔父さんが影を背負って僕を見て、手招きをしていた。
僕はそそくさと、呼び出しに応じた。
二人で僕の部屋に上がり、先に僕が切り出した。
「いちおう、あの作戦でお互いの利益が生まれると思いますよ」
「ああ、そうだとありがたい。でも、お前は大丈夫か? 頼んでおいておかしいと思うだろうが、それはそれ以外に手が無いからだ。俺、お前の親として護ってやりたい気持ちがあるのに、それより……他人の子供たちのために、人ならざる力に頼りたくなった」
叔父さんは、かなり思い悩んでいる。
この間の、ウィリアムさんみたいだ。
「頼ってくれて大丈夫です。そう言えるだけ、強い力を持っています」
「いや……やっぱりさっきのガラス球を返してくれ。あれが無ければ、お前はこれ以上の戦いに巻き込まれる事は無い。今日は仕方がない。もう手遅れだとしたって、明日のお前を護ってやりたい」
「いえ、これが無いと僕は大人になれないんです。だから、お返ししたくありません」
「返すんだ。そして、もうこの家に残れ。これからは普通の学生として生きろ。異世界になんか行くな。全員送り返したら、お前だけ残れば良いんだ」
「叔父さん……」
腕を強く掴まれ、引っ張られた。必死な様子の叔父さんを見て、僕は申し訳なくなった。
「でも、僕はすべき事があるんです。異世界で就職もしたんです。新たな知り合いも増えて、あちらで一生を過ごすと決めました。そうして人の役に立ちたいんです」
「人の役に立ってなんになる。お前の一生を捧げる意味なんかない。平穏無事に暮らすことを願え」
「そんなの、自分を殺してしまうより酷いことです。僕は、自分がそうしたいから人を助けるんです。自分が自分の世界を見回した時、自分と同じように幸せな人たちばかりがいればいいと思うから、そういう世界を作ります。これは僕のわがままなんです」
「それで自分が死んだらどうするんだ。また生まれ変わるのか? そんな事して、お前はいつ幸せになるんだ?」
「今、もう幸せですよ。僕、大好きな人がいっぱいいるんです」
にっこり笑って、叔父さんの腕を叩いた。
「僕、もう独り立ちできました。それは叔父さんが大事に育ててくれたからです。だから感謝して、恩返しします。僕を信じて下さい」
「けれど……なあ」
叔父さんは僕の腕を離し、俯いた。
「お前を死地に向かわせる親は、親失格だ。俺も、姉さんもな」
「……僕の母さんが何か?」
「むつみは、お前を父親と同じような魔界の大魔王にしたがっていた。それって、厳しい人生だろう? なのに笑って、そう言っていた」
叔父さんは顔を上げた。
「魔界の大魔王には会ったんだろう? どんな人に見えた? お前を引き取って連れていってくれれば良かったのに、俺に任せるって言って消えた。俺には少し、冷たく見える人だった」
「……優しい方でしたよ」
「そりゃ、そうか。実の息子には良くするか。でも大魔王を継いだりするな。楽して生きろ」
「大魔王には……なりません。僕はミネットティオルの麒麟という任務がありますので」
「前に説明を受けたけれど、そっちの仕事も何だか辛そうだな。だけど……って、これ以上は過保護か。取りあえず、今日を乗り越えたら、これ以上の戦いに首を突っ込むなよ。そう約束してくれるか」
「そう努力します」
そうできればと、思う。でもこれは嘘になるだろう。
僕は突然突きつけられた現実に動揺しながらも、知っていたようなふりを続け、叔父さんにガラス球を返さないまま話し合いを終えた。
叔父さんは最後に、親になっても大人になれる訳じゃなく、迷いも無くなり頼れる存在になれる訳じゃない。
だから、即座に命を張る決断が出来る僕が本当は羨ましいと呟いた。
僕はそれについて何も返せず、麒麟の力を使って彼を癒やした。
それから、これまでありがとうと感謝し、一度彼を抱き締めて一階に戻った。
すると応接間と台所に、魔物を封じる小さなツボが多量に置かれていた。
屋敷に取りに行っても良かったかもしれないが、僕が二階に行ってしまったので、その時間の活用で持って来たらしい。
そのツボを、この世界に渡る前に大魔王様……に直々教えてもらった、異次元を使用する形の空間収納魔法にしまい込んでいった。
各自二十個ずつほどを持ったところで、国家公務員さんが封じるための呪文を教えてくれた。これは忘れないようにしないといけない。
そしてツボには魔物を主に封じるものの、魔人も言うこと聞かなかったら封じて下さいと言われてしまった。
それは相手が少し気の毒だが、拘束する手間が省けて時間短縮にはなる。
在庫はまだあるので、全て使い切ったら屋敷に取りに戻ればいいらしい。
これで準備は終わった。
僕は最後に一つ、大事なことをみんなに伝えた。
「この作戦はあくまで、ミネットティオルの名により実行されます。魔界政府は撤退していてここにはいません。何があっても、ミネットティオル以外の名を出さないようにお願いします」
セシリア王女とルナさんは普通に頷き、麒麟の護り人たちは微妙な笑顔で頷いた。
作戦が終わったら幾らでも叱られますと、僕は心で謝罪した。
2・
僕ら以外の二つの班には、国家公務員さんたちが道案内でついてくれた。
僕は二度の学生生活で親しんだ場所なので道案内はいらず、回収を引き受けた弱い魔物たちの生息場所をきちんと記憶するだけで良かった。
時間が惜しいので、八時半頃には出発した。
見送りの姫には、くれぐれも家から出ずに両親を護っていて欲しいと頼んだ。
姫は、私たちの両親ねと言ってテンションを上げたが、ここで言い返すのは止した。
何はともあれ、僕はセシリア王女とルナさんを連れて、まず近所の公園へと向かった。
夜の暗闇の中、普通に発見されそうな木々のウロの中に、小さな魔物がびっしり詰まっている。
駅近くで人の往来が夜でもある場所で、国家公務員さんたちがなかなか来れなかっただけで、小さな魔物たちは全然危険じゃない。
それらは数を確認し、全体を認識した後でなら、一つのツボにまとめて入れてしまえた。
このツボ、思った以上に万能そうだ。
後で作製方法を教わりたいと思いながらも、次の現場に向かった。
近所の神社、空き家の軒下。誰かの家の池の中、竹やぶ。ゴミ捨て場に学校の敷地内。
地道に現場を歩き回って回収できたのは、やはり弱くて逃げたいだけの魔物たちだった。
こうして作戦を決めて迎えに来れて、本当に良かった。
作業を開始して二時間ほどが経過し、既に警察官や自衛隊隊員、それに魔術師だろう人たちの姿が目立つようになってきた頃。
僕は、菅原道彦の家の前に立っていた。
今の僕の記憶が始まる場所。前々々世の、僕の家。
時空を渡ったおかげで、彼が死んでからまだ三カ月と少ししか経っていない。
如月龍馬として生まれてからは、陸君との因縁を終わらせる事に必死で、意図して近付かず思い出さないようにした場所。
高校でクラスメイトになった菅原道彦にも近付かず、ただ監視するだけの存在として認識するに留めた。
でも今。もう遮るものは無い。
この時の両親もとても優しい人たちで、独りっ子の僕をとても大事にしてくれた。
窓辺のカーテンの隙間から、僕が飾っておいたUFOキャッチャーの縫いぐるみがまだ置いてあるのが見える。
庭には、さび付き始めた僕の自転車がある。まだ、手つかずで残してくれているんだろう。
他にも僕が子供の頃に使っていたオモチャが、庭の片隅に置いたままになっている。
僕は庭の奥に進んだ。
一階の一室のカーテンの隙間から、ぼんやりとした明かりが漏れている。
そこまで行き中を覗き込むと、僕の写真が飾られた仏壇が見えた。
仏壇には多くの花が飾られ、手紙のようなものも置いてあった。
一個だけ、大きく書かれた文字が見えた。
道彦君ありがとうって、カラフルなペンで書いてある。
僕が命を救った越野泉さんたちが、書いてくれたんだろうか。
この時の僕は目立たなくて地味で、帰宅部で普通のアニメ好きで、そんなに友達は多くなかったんだけど、手紙はたくさんあるように見える。
如月龍馬としての自分も、何か書けば良かっただろうか。
たまらなくなり、目から涙がこぼれていった。
僕が泣いている理由が分からないセシリア王女が、そっと僕の手を握りしめてくれた。
僕は仕事を思い出し、昔飼っていた犬の小屋に向かった。
薄汚れて古びた犬小屋の前に、新しい餌箱に食べかけの餌がある。
僕はその前にしゃがみ込み、手を振って見せた。
戸惑い気味に、犬小屋の中から犬に似た魔物が一匹出てきた。
魔物を飼っちゃう僕の両親は、偉大だ。
その子も回収し、そのまま行こうかと思ったけど、止めて木切れを拾い上げた。
そして犬小屋の汚れ部分を削り、文字を残した。
これまで大事にしてくれてありがとう。僕は今、とても幸せです。父さんと母さんも、お元気で。
そう書いて、家の敷地から出た。
「お兄様、何故泣いておられるのですか」
本当の妹かもしれないセシリア王女にそう呼ばれ、もう少し涙が出た。
「ここ、僕のもう一つの家なんです。前々々世なんですが、ここから僕の記憶が始まっています」
「そんなに前からなのですか。お兄様……とてもお辛いのですね」
「いや、もう大丈夫。少し感傷に浸ってしまっただけです」
今よりも、菅原道彦として死ぬ前の方がよほど辛かったと思い出した。
さっきの犬小屋の主人が、病気で死んだばかりだった。小学校の頃から一緒に育ち、これからもっと一緒にいれると思っていたのに、まだ若くして死んだ。
僕は毎日泣いていて、どうして救えなかったか悩んでいた。病なんか一つも無ければいい。そんな世界に住みたいと願い、夢想した。
たった一つのかけがえのない命を取り戻したいし、もう二度と失いたくもない。
そうできる力を手に入れて、どうあっても絶対護るって……方法も分からずただ祈っていた。
その時の事を思い出し、今の僕が何故こんな人生を送っているのか気付いた。
誰かの運命に巻きこまれたんじゃない。僕は最初から、渦の中心にいた。
自分の祈りが麒麟の素養を高め、死んだ時にバティスタ様に拾わせた。
そして僕は、二つの人生を経て望み通りの人生を送っている。
それは全部、僕の意志で決めたこと。僕自身が、祈りという魔法で全てを作り上げた。
全てに気付いた僕の涙が結晶化し、アスファルトの上に落ちて澄んだ音をさせた。
僕の魂の中の麒麟の力が脈動し、これまで隠すことしか考えていなかった覆いの部分を崩壊させ、本来の麒麟の姿を取り戻させた。
白と金色の光をまとう、白馬に似た麒麟の姿に。
僕は慈悲の心に力を注ぎ、空中に浮いたまま鼻先を地面に近付けた。
争いの大地に祝福を与えると、滞り闇を留めていた大地の流れがスムーズになり、自然界のあらゆる物の活動を活発にさせた。
白の力と言えどみ、急激な変化は破壊に繋がる。
僕は変化を適度に調整し、生命体がダメージを受けないところで力の操作を切り上げた。
大まかに作戦が決定したところで、扉に半分隠れている叔父さんが影を背負って僕を見て、手招きをしていた。
僕はそそくさと、呼び出しに応じた。
二人で僕の部屋に上がり、先に僕が切り出した。
「いちおう、あの作戦でお互いの利益が生まれると思いますよ」
「ああ、そうだとありがたい。でも、お前は大丈夫か? 頼んでおいておかしいと思うだろうが、それはそれ以外に手が無いからだ。俺、お前の親として護ってやりたい気持ちがあるのに、それより……他人の子供たちのために、人ならざる力に頼りたくなった」
叔父さんは、かなり思い悩んでいる。
この間の、ウィリアムさんみたいだ。
「頼ってくれて大丈夫です。そう言えるだけ、強い力を持っています」
「いや……やっぱりさっきのガラス球を返してくれ。あれが無ければ、お前はこれ以上の戦いに巻き込まれる事は無い。今日は仕方がない。もう手遅れだとしたって、明日のお前を護ってやりたい」
「いえ、これが無いと僕は大人になれないんです。だから、お返ししたくありません」
「返すんだ。そして、もうこの家に残れ。これからは普通の学生として生きろ。異世界になんか行くな。全員送り返したら、お前だけ残れば良いんだ」
「叔父さん……」
腕を強く掴まれ、引っ張られた。必死な様子の叔父さんを見て、僕は申し訳なくなった。
「でも、僕はすべき事があるんです。異世界で就職もしたんです。新たな知り合いも増えて、あちらで一生を過ごすと決めました。そうして人の役に立ちたいんです」
「人の役に立ってなんになる。お前の一生を捧げる意味なんかない。平穏無事に暮らすことを願え」
「そんなの、自分を殺してしまうより酷いことです。僕は、自分がそうしたいから人を助けるんです。自分が自分の世界を見回した時、自分と同じように幸せな人たちばかりがいればいいと思うから、そういう世界を作ります。これは僕のわがままなんです」
「それで自分が死んだらどうするんだ。また生まれ変わるのか? そんな事して、お前はいつ幸せになるんだ?」
「今、もう幸せですよ。僕、大好きな人がいっぱいいるんです」
にっこり笑って、叔父さんの腕を叩いた。
「僕、もう独り立ちできました。それは叔父さんが大事に育ててくれたからです。だから感謝して、恩返しします。僕を信じて下さい」
「けれど……なあ」
叔父さんは僕の腕を離し、俯いた。
「お前を死地に向かわせる親は、親失格だ。俺も、姉さんもな」
「……僕の母さんが何か?」
「むつみは、お前を父親と同じような魔界の大魔王にしたがっていた。それって、厳しい人生だろう? なのに笑って、そう言っていた」
叔父さんは顔を上げた。
「魔界の大魔王には会ったんだろう? どんな人に見えた? お前を引き取って連れていってくれれば良かったのに、俺に任せるって言って消えた。俺には少し、冷たく見える人だった」
「……優しい方でしたよ」
「そりゃ、そうか。実の息子には良くするか。でも大魔王を継いだりするな。楽して生きろ」
「大魔王には……なりません。僕はミネットティオルの麒麟という任務がありますので」
「前に説明を受けたけれど、そっちの仕事も何だか辛そうだな。だけど……って、これ以上は過保護か。取りあえず、今日を乗り越えたら、これ以上の戦いに首を突っ込むなよ。そう約束してくれるか」
「そう努力します」
そうできればと、思う。でもこれは嘘になるだろう。
僕は突然突きつけられた現実に動揺しながらも、知っていたようなふりを続け、叔父さんにガラス球を返さないまま話し合いを終えた。
叔父さんは最後に、親になっても大人になれる訳じゃなく、迷いも無くなり頼れる存在になれる訳じゃない。
だから、即座に命を張る決断が出来る僕が本当は羨ましいと呟いた。
僕はそれについて何も返せず、麒麟の力を使って彼を癒やした。
それから、これまでありがとうと感謝し、一度彼を抱き締めて一階に戻った。
すると応接間と台所に、魔物を封じる小さなツボが多量に置かれていた。
屋敷に取りに行っても良かったかもしれないが、僕が二階に行ってしまったので、その時間の活用で持って来たらしい。
そのツボを、この世界に渡る前に大魔王様……に直々教えてもらった、異次元を使用する形の空間収納魔法にしまい込んでいった。
各自二十個ずつほどを持ったところで、国家公務員さんが封じるための呪文を教えてくれた。これは忘れないようにしないといけない。
そしてツボには魔物を主に封じるものの、魔人も言うこと聞かなかったら封じて下さいと言われてしまった。
それは相手が少し気の毒だが、拘束する手間が省けて時間短縮にはなる。
在庫はまだあるので、全て使い切ったら屋敷に取りに戻ればいいらしい。
これで準備は終わった。
僕は最後に一つ、大事なことをみんなに伝えた。
「この作戦はあくまで、ミネットティオルの名により実行されます。魔界政府は撤退していてここにはいません。何があっても、ミネットティオル以外の名を出さないようにお願いします」
セシリア王女とルナさんは普通に頷き、麒麟の護り人たちは微妙な笑顔で頷いた。
作戦が終わったら幾らでも叱られますと、僕は心で謝罪した。
2・
僕ら以外の二つの班には、国家公務員さんたちが道案内でついてくれた。
僕は二度の学生生活で親しんだ場所なので道案内はいらず、回収を引き受けた弱い魔物たちの生息場所をきちんと記憶するだけで良かった。
時間が惜しいので、八時半頃には出発した。
見送りの姫には、くれぐれも家から出ずに両親を護っていて欲しいと頼んだ。
姫は、私たちの両親ねと言ってテンションを上げたが、ここで言い返すのは止した。
何はともあれ、僕はセシリア王女とルナさんを連れて、まず近所の公園へと向かった。
夜の暗闇の中、普通に発見されそうな木々のウロの中に、小さな魔物がびっしり詰まっている。
駅近くで人の往来が夜でもある場所で、国家公務員さんたちがなかなか来れなかっただけで、小さな魔物たちは全然危険じゃない。
それらは数を確認し、全体を認識した後でなら、一つのツボにまとめて入れてしまえた。
このツボ、思った以上に万能そうだ。
後で作製方法を教わりたいと思いながらも、次の現場に向かった。
近所の神社、空き家の軒下。誰かの家の池の中、竹やぶ。ゴミ捨て場に学校の敷地内。
地道に現場を歩き回って回収できたのは、やはり弱くて逃げたいだけの魔物たちだった。
こうして作戦を決めて迎えに来れて、本当に良かった。
作業を開始して二時間ほどが経過し、既に警察官や自衛隊隊員、それに魔術師だろう人たちの姿が目立つようになってきた頃。
僕は、菅原道彦の家の前に立っていた。
今の僕の記憶が始まる場所。前々々世の、僕の家。
時空を渡ったおかげで、彼が死んでからまだ三カ月と少ししか経っていない。
如月龍馬として生まれてからは、陸君との因縁を終わらせる事に必死で、意図して近付かず思い出さないようにした場所。
高校でクラスメイトになった菅原道彦にも近付かず、ただ監視するだけの存在として認識するに留めた。
でも今。もう遮るものは無い。
この時の両親もとても優しい人たちで、独りっ子の僕をとても大事にしてくれた。
窓辺のカーテンの隙間から、僕が飾っておいたUFOキャッチャーの縫いぐるみがまだ置いてあるのが見える。
庭には、さび付き始めた僕の自転車がある。まだ、手つかずで残してくれているんだろう。
他にも僕が子供の頃に使っていたオモチャが、庭の片隅に置いたままになっている。
僕は庭の奥に進んだ。
一階の一室のカーテンの隙間から、ぼんやりとした明かりが漏れている。
そこまで行き中を覗き込むと、僕の写真が飾られた仏壇が見えた。
仏壇には多くの花が飾られ、手紙のようなものも置いてあった。
一個だけ、大きく書かれた文字が見えた。
道彦君ありがとうって、カラフルなペンで書いてある。
僕が命を救った越野泉さんたちが、書いてくれたんだろうか。
この時の僕は目立たなくて地味で、帰宅部で普通のアニメ好きで、そんなに友達は多くなかったんだけど、手紙はたくさんあるように見える。
如月龍馬としての自分も、何か書けば良かっただろうか。
たまらなくなり、目から涙がこぼれていった。
僕が泣いている理由が分からないセシリア王女が、そっと僕の手を握りしめてくれた。
僕は仕事を思い出し、昔飼っていた犬の小屋に向かった。
薄汚れて古びた犬小屋の前に、新しい餌箱に食べかけの餌がある。
僕はその前にしゃがみ込み、手を振って見せた。
戸惑い気味に、犬小屋の中から犬に似た魔物が一匹出てきた。
魔物を飼っちゃう僕の両親は、偉大だ。
その子も回収し、そのまま行こうかと思ったけど、止めて木切れを拾い上げた。
そして犬小屋の汚れ部分を削り、文字を残した。
これまで大事にしてくれてありがとう。僕は今、とても幸せです。父さんと母さんも、お元気で。
そう書いて、家の敷地から出た。
「お兄様、何故泣いておられるのですか」
本当の妹かもしれないセシリア王女にそう呼ばれ、もう少し涙が出た。
「ここ、僕のもう一つの家なんです。前々々世なんですが、ここから僕の記憶が始まっています」
「そんなに前からなのですか。お兄様……とてもお辛いのですね」
「いや、もう大丈夫。少し感傷に浸ってしまっただけです」
今よりも、菅原道彦として死ぬ前の方がよほど辛かったと思い出した。
さっきの犬小屋の主人が、病気で死んだばかりだった。小学校の頃から一緒に育ち、これからもっと一緒にいれると思っていたのに、まだ若くして死んだ。
僕は毎日泣いていて、どうして救えなかったか悩んでいた。病なんか一つも無ければいい。そんな世界に住みたいと願い、夢想した。
たった一つのかけがえのない命を取り戻したいし、もう二度と失いたくもない。
そうできる力を手に入れて、どうあっても絶対護るって……方法も分からずただ祈っていた。
その時の事を思い出し、今の僕が何故こんな人生を送っているのか気付いた。
誰かの運命に巻きこまれたんじゃない。僕は最初から、渦の中心にいた。
自分の祈りが麒麟の素養を高め、死んだ時にバティスタ様に拾わせた。
そして僕は、二つの人生を経て望み通りの人生を送っている。
それは全部、僕の意志で決めたこと。僕自身が、祈りという魔法で全てを作り上げた。
全てに気付いた僕の涙が結晶化し、アスファルトの上に落ちて澄んだ音をさせた。
僕の魂の中の麒麟の力が脈動し、これまで隠すことしか考えていなかった覆いの部分を崩壊させ、本来の麒麟の姿を取り戻させた。
白と金色の光をまとう、白馬に似た麒麟の姿に。
僕は慈悲の心に力を注ぎ、空中に浮いたまま鼻先を地面に近付けた。
争いの大地に祝福を与えると、滞り闇を留めていた大地の流れがスムーズになり、自然界のあらゆる物の活動を活発にさせた。
白の力と言えどみ、急激な変化は破壊に繋がる。
僕は変化を適度に調整し、生命体がダメージを受けないところで力の操作を切り上げた。
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