【番外編更新中】生まれた時から「お前が悪い」と家族から虐待されていた少女は聖女でした。【強火ざまぁ】

ラララキヲ

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7>> 暴かれるもの 

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 カリーナの言葉を聞いて壇上に居た聖女の一人が動いた。小走りでエーに駆け寄るとエーと視線を合わせるように膝を突いてしゃがみ、椅子に座っているエーの顔を覗き込むようにしてエーに微笑みかけた。

「大丈夫よ、わたくしが……、! きゃっ……!」

 エーの顔を覗き込んだ聖女ノエルが小さく悲鳴上げてエーから体を離した。仰け反った反動で尻もちをついてしまった聖女ノエルにアシュフォードが驚く。

「どうしました?!」

 そんなアシュフォードの声に聖女ノエルは困惑した表情でアシュフォードを見上げた。

「お、お顔が……」

「え……?
 ……失礼するよ」

 要領の得ないその言葉にアシュフォードは自分の目で確かめる為に自分でエーの顔を覗き込んだ。

「……っ! な、んだ、これは……」

 アシュフォードはエーの顔を見て驚き、そして姿勢を戻すと怒りが滲んだ表情でビャクロー侯爵家の面々を睨んだ。

「……何故、彼女の顔がこんなことになっているんだ?」

 言われた言葉にランドルは戸惑い、カリーナはアシュフォードから視線を逸した。

「な、なんの事ですかな?」
「そ、それは…………」

 そんな2人を厳しい目で見つめたアシュフォードが後ろを振り返って声を掛けた。

「……誰か、お湯で濡らしたタオルを持ってきてくれ!」

 その言葉に数名がそれぞれに動いた。
 聖女ノエルは悲痛な顔で体勢を戻すと、今度は躊躇ためらいもなくエーを抱きしめた。
 ビクリッ、と傍目からでも分かるほどにエーがビクついた。しかし彼女は何も言わない。抵抗もしない。
 ただ椅子に座っていた。
 そんなエーを抱きしめて聖女ノエルが涙を流した。

「大丈夫よ……大丈夫だからね……」

 そんな言葉しか、聖女ノエルは今のエーに掛けることができなかった。




  ◇




 運ばれてきたぬるま湯と濡れタオルが聖女ノエルに手渡され、ノエルは優しくエーの顔を拭いてあげた。

 それを見てカリーナが焦る。

「お止め下さい!」

 叫んだカリーナの言葉をアシュフォードが睨んで黙らせる。

 顔を拭いたタオルをお湯の入った桶に浸けるとお湯は直ぐに白っぽく濁った。それを見た周りの人たちからは困惑の声が小さく上がり、それはエーや聖女ノエルを直接見れない人たちの為にさざ波の様に小声で聖堂の隅々まで伝えられて行った。
「お化粧?」
「それにしては濃い……」
「まだ取れるのか?」
 そんな声が周りから上がる。
 そしてエーの顔を拭いているノエルの表情は濡れタオルでエーの顔を拭く度に険しくなり、そして遂にはノエルが泣き出してしまった。
 それを見ていたアシュフォードが体を屈めてエーの顔を覗き込む。そしてアシュフォードも眉間にシワを寄せて険しい表情を作った。
 その、痛々しいものを見た様な表情に、エーの顔をまだ1度も見ていない人たちの顔にも険しいものが浮かんだ。不安に眉を下げる人も居る。ザワザワと緊張感だけが聖堂内に広がっていった。

 ノエルはエーの顔から邪魔な物を全て拭き取ると、自分の手を優しくエーの頬に添えて聖女の力を使い始めた。ポウッと淡く光るその様子を目にして周りの人々はエーが顔に怪我をしていたのだと知る。
 聖女の力は瘴気を祓う力だが、小さな怪我などなら治せるとも知られている。その様子を見ていた人々から小声でエーの様子が伝えられ、聖堂内に居る人々からビャクロー侯爵家の人間は厳しい目を向けられる事になった。
 この状態で『子供が怪我をしている』と知って『虐待』を疑わない大人は少ない。ランドルとカリーナは自分たちに向けられる視線の不愉快さに小さく歯軋りした。ランドルは周りを威嚇する様に睨みを飛ばし、カリーナは怒りで震える手を握りしめて自分は可哀想な女なんだと周りに訴えるように眉尻を下げてアシュフォードを見ていた。

「大丈夫よ……」

 ノエルがエーに優しく声を掛けるがやはりエーは顔さえも上げることはない。
 そんなエーを見てアシュフォードはカリーナに視線を合わせた。

「……彼女に動いてもらうにはどうすればいいのかな?」

 既にアシュフォードには一番の元凶が分かった気がしていた。
 ランドルとカリーナの態度の差。
 エーの顔を拭くことを嫌がったカリーナの態度や、先程のカリーナの言葉からアシュフォードはこの母親をエー彼女に近付けさせてはいけないと考えた。

 ランドルは理由もわからず青褪めた顔でアシュフォードどカリーナを交互に見ていた。
 カリーナだけが悔しそうに唇を噛んでいた。既に高位貴族の夫人として表向きの態度を取り繕っては居られない様だった。

「ビャクロー夫人。
 彼女に私の言葉を聞いてもらうには、どうすればよいのだ?」

 アシュフォードの声は優しげだったが、拒絶など受け付けない強さが含まれていた。
 王太子であるアシュフォードにジッと見つめられて、カリーナは視線を逸らして奥歯を噛み締めて沈黙した。

「ビャクロー夫人」
「か、カリーナっ!?」

 アシュフォードと、妻の態度が理解できずに焦るランドルに名を呼ばれて、カリーナは視線をアシュフォードに戻した。
      
        
      
      
            
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