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一章
▽5.セス・ソエット好感度序盤
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「…………」
彼を見た時は、自らの種族特性を乱用して、学校を狩場のように思っている淫乱かと思った。
その…まともではないと思った生徒…トワ・ルトエが、僕のテリトリーである保健室に運ばれてきたのは彼がこの学園に入学して、間もない頃だった。
「生気不足?」
彼の青白い顔を見て、僕は彼を睨みつける。まったく…なんて迷惑な。
吸血用の誘因フェロモンを無節操にあれだけ振りまいていたくせに…何故、生気不足なんかで運ばれてくるんだ。
厄介な生徒だと思った彼は、目覚めると申しわけなさそうに僕に謝ってから、起きあがる。
その間も誘因フェロモンが出ていたのに呆れ、ふらつきながら出ていこうとする彼を、とめも支えもしなかった。
…教師相手にまで、誘因フェロモンを放つなんて正気を疑う。
その彼は懲りずに、何度も倒れては保健室に運ばれる。
「トワ・ルトエ…」
「はい」
「いい加減にしなさい」
「すみません」
そもそも生気不足のくせに、何故誘因フェロモンを放つ事をやめない。
誘因フェロモンを放つのをやめて、おとなしくしていれば…ここまで生気不足に陥る事もないだろうに…。
そういっている間にも、誘因フェロモンは放たれている。
「トワ・ルトエ…」
「はい」
「それをとめなさい」
「それ…?」
いくら僕にトワ・ルトエの誘因フェロモンに応える気がないからといって、閉じた室内でここまで吸血鬼の種族特性を向けられれば、落ち着かない。
それに…厄介な事に…この生徒の声は僕好みだ。こんなにおかしい存在だというのに…。
まったく本当に厄介だ。
「やめろ」
「!?」
僕は苛立ち混じりに種族特性を使って、命令する。
だというのに、彼は誘因フェロモンをとめない…それどころか…何をどう勘違いしたのか、呼吸をするのをとめた。
はくはくと口を動かし、生気不足に、酸欠を追加してしまった彼はまたベッドに沈んだ。
「は?」
意味がわからない。しかも…体に害を成す命令をあっさりと、実行した。
いくら僕の種族が、声で命令する力を持つ人魚だからといって、自身の体を損なうような命令にはもっと抵抗をみせるはずだ。
そもそも僕は誘因フェロモンを出すのをやめろといっただけで、呼吸をとめろとはいっていない。
では何故?…………いや、そんな馬鹿な。
僕の中に一つの仮説が浮かびあがる。
ひょっとして、彼は…トワ・ルトエは、自分の出来る範囲で、僕の命令をなんとか履行しようとしたのか?
その結果が呼吸をしない事だと?
…本来なら、理解されない不明な命令は、不明なままで履行などされないはず。
それなのに、彼は彼なりの範囲で、僕の命令に従おうとした…まさかそういう事なのか?
「…………」
だとするなら……また一つの仮説をひらめく。
しばらくして目覚めた彼は、僕の命令で酸欠に陥った事など、記憶していなかった。
また申しわけなさそうに謝りながら、ふらつき…授業を受けたいからと保健室を出ていった。
…これも妙だ。
自身の種族特性と僕の種族特性がぶつかるから、記憶を失うほどの効果が出るなどありえない。
それなのに…ここまで効くなんて…。種族特性を何も持たない人間より効きがいいかもしれない。
そしてまた彼…トワ・ルトエが保健室に運ばれてくる。
前以上に生気不足に陥って、より顔を白くした彼は…まるで…作り物のようだった。
寝ている彼の唇に手をやれば、むずがるように声が出る。
「…ん……んぅ」
やぁ、いい音だ。
あれから僕も彼の事を調べた。彼はあれだけ誘因フェロモンを出しているにもかかわらず、その誘いに応えた相手にたいして吸血もしていなければ、生気を貰う事もしていない。
誘われ応えた相手が彼にその先を促しても、きょとんとして何もおこらないまま終わっている。
戸惑った相手は、結局そのまま引くしかない……の繰り返し、今のところ彼の吸血は成功せず、生気も不足したまま…それが僕の調べた…いや調べるという言葉が馬鹿らしくなるほど、あっさりとわかった事だ。
そして、僕は自分の仮説を確かめる為に、目覚めた彼に命令する。
「トワ・ルトエ」
「……はい」
「誘因フェロモンを、とめろ」
「?」
以前のように誤解させないよう、命令にはっきりと対象を含む。
僕の種族特性に浮かされた、とろんとした目で…必死に考えているようだが、彼から出る誘因フェロモンは一向に引かない。
「じゃあ次」
「?」
「きみの誘いを受けるよ」
「……?」
僕が人魚の種族特性で、承諾を返したというのに…彼は何も行動をおこさない。
仮説が確信に変わる。つまり彼は…自身の種族特性を理解していないうえに、無意識に誘因フェロモンを放っているのか。
異常だね。
このような状態で親が放置…というのは少し考えづらいし、彼のこれは学園の寮生活が始まってからと推測する。
成長と…環境の変化が重なって、一気に事がおこったのかもしれない。
それなら…僕は、どうするべきだろう。
保健医として、親に相談をする?病院へ連れていく?他の教師に相談する?
いや……いいや。どれもしない。どれも断る。
そんなもったいない事を…する気はない。僕は彼をお気に入りの楽器に定めた。
教職なんかについてはいるけど、僕はあいにく真面目な教師じゃない。
最低限の仕事はするけど、生徒だって好きじゃない。
……まぁ彼の体調管理は、見てあげてもいいよ。
お気に入りの楽器を調律するのは、持ち主の役目だし。
そうして、僕は好みの音を奏でる、お気に入りの楽器を手にいれた。
彼を見た時は、自らの種族特性を乱用して、学校を狩場のように思っている淫乱かと思った。
その…まともではないと思った生徒…トワ・ルトエが、僕のテリトリーである保健室に運ばれてきたのは彼がこの学園に入学して、間もない頃だった。
「生気不足?」
彼の青白い顔を見て、僕は彼を睨みつける。まったく…なんて迷惑な。
吸血用の誘因フェロモンを無節操にあれだけ振りまいていたくせに…何故、生気不足なんかで運ばれてくるんだ。
厄介な生徒だと思った彼は、目覚めると申しわけなさそうに僕に謝ってから、起きあがる。
その間も誘因フェロモンが出ていたのに呆れ、ふらつきながら出ていこうとする彼を、とめも支えもしなかった。
…教師相手にまで、誘因フェロモンを放つなんて正気を疑う。
その彼は懲りずに、何度も倒れては保健室に運ばれる。
「トワ・ルトエ…」
「はい」
「いい加減にしなさい」
「すみません」
そもそも生気不足のくせに、何故誘因フェロモンを放つ事をやめない。
誘因フェロモンを放つのをやめて、おとなしくしていれば…ここまで生気不足に陥る事もないだろうに…。
そういっている間にも、誘因フェロモンは放たれている。
「トワ・ルトエ…」
「はい」
「それをとめなさい」
「それ…?」
いくら僕にトワ・ルトエの誘因フェロモンに応える気がないからといって、閉じた室内でここまで吸血鬼の種族特性を向けられれば、落ち着かない。
それに…厄介な事に…この生徒の声は僕好みだ。こんなにおかしい存在だというのに…。
まったく本当に厄介だ。
「やめろ」
「!?」
僕は苛立ち混じりに種族特性を使って、命令する。
だというのに、彼は誘因フェロモンをとめない…それどころか…何をどう勘違いしたのか、呼吸をするのをとめた。
はくはくと口を動かし、生気不足に、酸欠を追加してしまった彼はまたベッドに沈んだ。
「は?」
意味がわからない。しかも…体に害を成す命令をあっさりと、実行した。
いくら僕の種族が、声で命令する力を持つ人魚だからといって、自身の体を損なうような命令にはもっと抵抗をみせるはずだ。
そもそも僕は誘因フェロモンを出すのをやめろといっただけで、呼吸をとめろとはいっていない。
では何故?…………いや、そんな馬鹿な。
僕の中に一つの仮説が浮かびあがる。
ひょっとして、彼は…トワ・ルトエは、自分の出来る範囲で、僕の命令をなんとか履行しようとしたのか?
その結果が呼吸をしない事だと?
…本来なら、理解されない不明な命令は、不明なままで履行などされないはず。
それなのに、彼は彼なりの範囲で、僕の命令に従おうとした…まさかそういう事なのか?
「…………」
だとするなら……また一つの仮説をひらめく。
しばらくして目覚めた彼は、僕の命令で酸欠に陥った事など、記憶していなかった。
また申しわけなさそうに謝りながら、ふらつき…授業を受けたいからと保健室を出ていった。
…これも妙だ。
自身の種族特性と僕の種族特性がぶつかるから、記憶を失うほどの効果が出るなどありえない。
それなのに…ここまで効くなんて…。種族特性を何も持たない人間より効きがいいかもしれない。
そしてまた彼…トワ・ルトエが保健室に運ばれてくる。
前以上に生気不足に陥って、より顔を白くした彼は…まるで…作り物のようだった。
寝ている彼の唇に手をやれば、むずがるように声が出る。
「…ん……んぅ」
やぁ、いい音だ。
あれから僕も彼の事を調べた。彼はあれだけ誘因フェロモンを出しているにもかかわらず、その誘いに応えた相手にたいして吸血もしていなければ、生気を貰う事もしていない。
誘われ応えた相手が彼にその先を促しても、きょとんとして何もおこらないまま終わっている。
戸惑った相手は、結局そのまま引くしかない……の繰り返し、今のところ彼の吸血は成功せず、生気も不足したまま…それが僕の調べた…いや調べるという言葉が馬鹿らしくなるほど、あっさりとわかった事だ。
そして、僕は自分の仮説を確かめる為に、目覚めた彼に命令する。
「トワ・ルトエ」
「……はい」
「誘因フェロモンを、とめろ」
「?」
以前のように誤解させないよう、命令にはっきりと対象を含む。
僕の種族特性に浮かされた、とろんとした目で…必死に考えているようだが、彼から出る誘因フェロモンは一向に引かない。
「じゃあ次」
「?」
「きみの誘いを受けるよ」
「……?」
僕が人魚の種族特性で、承諾を返したというのに…彼は何も行動をおこさない。
仮説が確信に変わる。つまり彼は…自身の種族特性を理解していないうえに、無意識に誘因フェロモンを放っているのか。
異常だね。
このような状態で親が放置…というのは少し考えづらいし、彼のこれは学園の寮生活が始まってからと推測する。
成長と…環境の変化が重なって、一気に事がおこったのかもしれない。
それなら…僕は、どうするべきだろう。
保健医として、親に相談をする?病院へ連れていく?他の教師に相談する?
いや……いいや。どれもしない。どれも断る。
そんなもったいない事を…する気はない。僕は彼をお気に入りの楽器に定めた。
教職なんかについてはいるけど、僕はあいにく真面目な教師じゃない。
最低限の仕事はするけど、生徒だって好きじゃない。
……まぁ彼の体調管理は、見てあげてもいいよ。
お気に入りの楽器を調律するのは、持ち主の役目だし。
そうして、僕は好みの音を奏でる、お気に入りの楽器を手にいれた。
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