60 / 154
60.あなたの忘れられないその味は、実は私が作りました
しおりを挟む「ったくお前こそ、人の心配してる場合じゃないだろ」
耳にはっきりと届く溜息。レイズ様は呆れたように私を見下ろしていた。
「次の審査、なんだか分かってるよな」
「ええ、分かってますよ。料理審査でしょう」
私も負けじと相手を見上げた。
一瞬だけ目が合った。
「……なんでそんなに自信ありげなんだよ」
レイズ様はそう言うとすぐにそっぽを向いた。悪かったな、自信があって。
料理審査。それはその名の通り、料理の腕前を披露する審査である。ベルさんの話によると小料理屋を経営出来る腕の人がゴロゴロいるらしい。
「だいたいお前、料理下手だろ」
うわ、ストレートな言葉。ちょっとはこう、オブラートに包まないのかね。ダイレクトアタックかよ。
「まあそうですね、ご存じの通りです」
「ご存知の通りって……大丈夫なのかそれ」
「……」
「おい、メイド」
ふう、やれやれ。そんなに答えを急かすなって。困ったお坊ちゃんだ。
「ルセリナちゃんなら大丈夫だよ!」
「大丈夫、みたいです」
「なんで料理を作らないベルの意見が優先されるんだよ」
いやほんと、なんででしょうね。
「作るのはお前だろ」
ごもっともで。
「ふふっ」
隣でマリアさんが肩を震わせていた。
「おい、マリア」
「あらごめんなさい。おかしくってつい」
「お前な」
眉間にシワが寄るレイズ様。でもマリアさんはあまり動じているようには見えない。
「ふふふっごめんなさい。でも私、ルセリナさんなら大丈夫だと思うわ」
「何を根拠に」
「なんとなく」
「なんとなくぅ?」
すごい。なんとなくで味方増えた。
「ほらレイズ様。マリアさんもそう言ってますし」
だから多分大丈夫。
「……ったくお前らは。こいつの作ったカレーを食べたことが無いからそういう事が言えるんだ」
カレー、そんな時もあったなぁ。
「懐かしいですね」
「懐かしいか、馬鹿! おかげで俺はしばらくカレーという存在を脳内から抹消したんだぞ」
それは可哀想に。
「あの頃は大変でしたからね。使用人がついに私とシュタイン先輩以外みーんな辞めて、仕方なく私が料理を作らなきゃいけなくなったりして」
おまけにそれ以外の家事も自分一人でこなさなきゃいけない状況で、いやー地獄だったなぁ。
「お前、何仕方なかったような雰囲気出してるんだよ。どう考えてもそんな事じゃ済まされないからな?」
「はいはい、まーまーまーレイズ。そんなに怒らないで。これだからお金持ちのお坊ちゃんは贅沢で困る」
「誰が贅沢だ」
「だってカレーでしょ? 誰が作っても美味しいに決まってるじゃない。それに文句を言うとか贅沢以外の何者でもないよ」
うんうん、ベルさんは良いことを言うなー!
「あのなー……毎日だぞ」
「毎日」
そう。あの時は色々面倒すぎて、とりあえずカレーでいいやって、連続で同じカレー出してたっけ。
「い、いやいや」
「……」
「カレーなんてのは、一日二日寝かせると美味しくなるって話で……」
「六日連続だぞ」
「………………六日?」
うん。それはなんというか、本当に申し訳無い。私もさすがにやりすぎたなって思ったよ。
それでもみんながお腹を壊さなかったのは、私の魔法のおかげです。
あってよかった防腐魔法!
0
あなたにおすすめの小説
裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです
ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!
キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。
だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。
「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」
そこからいろいろな人に愛されていく。
作者のキムチ鍋です!
不定期で投稿していきます‼️
19時投稿です‼️
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる