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102.私だけを見ていて欲しいとか言わないから空気は読んで欲しい
しおりを挟む自分がピンチだからって仲間がピンチかというとそうでもない。
何故ならメイドがピンチなのにも関わらず、女の子とよろしくやっている男があそこに一人。
――はい?
それはあまりにもこの物語の主人公である私を無視した衝撃的な出来事だったので、たぶん見間違いかなと思い一旦目を閉じた。というわけで、気を取り直してもう一度確認してみましょう。3、2、1、はい!
映った姿は勿論さっきと変わらなかった。君、馬鹿なのか?
「……」
こっちは結構シリアスな状況なのに、なんだこの差は。ほら見てこの姿、いかにもピンチって感じじゃない? それを談笑って。
しかも更によく見ると手を握り合っているじゃないか。
――うわーおい馬鹿。本当馬鹿。クソな雇い主って呼んでもいい?
あまりの衝撃映像にさっきの悪寒はどこへやら。その悪寒を遥か越え、もっと激しい悪寒が全身を伝う。言うなれば身の毛の逆立つような、これはもしかして憎悪?
――あ、こっち気付いた。
ようやくレイズ様と目が合う。
――やっとこの状況に気付いたか馬鹿者め。お前のメイドがピンチだっていうのに、なんだその楽しそうな雰囲気は。ん、なんだ、こっちに向かって何か言うことでもあるのか?
読唇術を持っているわけでは無いけれど、その動きからなんとなく言葉を読み取ろうと試みた。
――あいつが、だれと、けっこんしようが、おれには、かんけいない、だと?
「…………ふっ、ふふへへへ」
「る、ルセリナちゃ……」
――当ったり前だ!!!!!!
ここにアルミ缶があったらグシャッとやっていただろう。私は強く拳を握り締めた。
そんな事、何故お前に断定されなければいけないのか。私の人生はお前が左右してるんじゃないんだよ、馬鹿野郎!!
「……ベルさん」
「は、はい」
ぐるりと体の向きを百八十度回転させる。ベルさんが若干引きつった顔で私を見上げた。
魔法? そんなの知るか。この不快感に勝るものなど他に無いわ。
マリアさんの魔法の力が強まり暴れ出しそうな右腕にぐっと力を込め拳を作る。よし動く。
「好きです、結婚してください!」
そう言って右手を相手の椅子の背もたれに向けて伸ばした。
ベルさんの手を取るためではない。制御出来ない右手をどこかに押し付けようとしたからだ。
どんっ
鈍い音が腕に伝わる。それはまるではたから見たら、壁ドンしてるように見えただろう。この場合は椅子ドンだが。
「ルセリナちゃん……」
――どうだ見たかこの野郎。魔法で混乱に陥れたマリアさんも身の程知らずのレイズ様も、このルセリナ様の強さに恐れおののくといいわ!
「……」
「……」
シンと静まりかえる会場内。
椅子に突き立てた私の腕の間から、不安そうベルさんの顔が覗いた。
「大丈夫?」
「……心配かけてごめんなさい。ちゃんと、私言えたよ」
「そうだね」
たぶん周りには聞こえない。
この距離だから聞こえる二人の会話。
「だからさ……」
ふわっと足の力が抜ける。おぼつかない体はそのままゆっくりと膝をついた。
「ごめん、ちょっと休ませて」
魔法に抵抗するってのは思いの外体に負担がかかるらしい。
私はそのまま前のめりに倒れた。
「お疲れ様」
地面ではない柔らかい感触。
あれ、なんだかベルさんの声がさっきより近い気が。確認しようにも、疲れて目が開かない。
でもまあいっか。
今はちょっと一休み……。
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