女になった俺と、

六月 鵺

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魔法回路と代償

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「頼み?珍しいと言うか、初めてだな。ワンリアが頼みなんて」

【オレだっていろいろ見てみたいもんがあるんだよ。無事に魔法回路を開いて魔法使いになれたら、オレと契約してくれないか?】

契約。マナを提供する代わりに、魔獣は魔法使いに従属する契約。まぁ一言に契約と言っても、いろいろと種類があるけど。

「契約?使い魔契約……みたいな軽い契約じゃなさそうだな」

【ああ。オレが言ってるのは、楔だよ。楔ならマナよりも深い魂で繋がるから、いつでもどこでも一緒にいられるしな】

「つまり、この森から出たいのか?」

【三百年生きてきて、外の世界をこの目で見たことがないんだよ。この森のことは知り尽くしてても、外の世界のことは聴いたことしか知らない。だから、ルーゲルと契約を交わせば外の世界を見れるし、ルーゲルだってオレの力をマナの代償なしに使えるしな。話し相手だって欲しいだろ?】

「なるほどな。お前とは付き合いも長いし、契約もいいか。無事に魔法回路開けたら、また明日来るよ。そうだ、もう一つ」

【ん~?なんだ?】

欠伸をしながら答える。ずらりと何重にも並んだ鋭い牙。あれで噛まれたらひとたまりもないどころか、胴体真っ二つであの世逝きだろうな。まぁワンリアが自ら襲うことはないから、心配する必要はないけど。

「戦争、どうなってんの?」

【あ~、案の定アラナジアはこの、ディンディアナに負けたよ。アラナジアの王族は、リアゲートの神託により皆殺し。男は戦争に駆り出され、女は慰み者。子供は奴隷か殺処分。人間の話とは言え、聴いてて気分が悪い。妻と子供を人質に取られて、戦争で命を落としてるかもしれない間に妻は男共の餌食にされて、子供は奴隷にされんだぞ?使えなかったら親の目の前で、首を刎ねて殺すんだ。それが、世界の頂点に立とうとする国がやってることだぜ?】

「…………」

ディンディアナ。それがこの国の名前だ。いずれは世界を統べるであろう、最大勢力を誇る国。
この広大な魔の森も、ディンディアナのほんの一部に過ぎない。
普通に暮らしてる人間にとって魔の森は恐ろしい悪の巣食う森なんだろうけど、俺にとっては居心地のいい、家同然の場所。逆に街の方が居心地が悪い。身分は絶対だから、貴族は踏ん反り返ってるし、庶民は庶民で貴族の機嫌を常に窺って。
貴族の陰口を誰かが言ったら、それを貴族に知らせて報酬を貰う奴だっている。どの国だってそんなもんなんだろうけど、街は嫌いだ。
でも、アラナジアの王族を皆殺し……か。それを、リアゲートの神託により決定した。
神託を下したのはきっと、アマネなんだろうなぁ……。誰よりも強い神降ろしの力を持ってるのが、アマネだから。何もリッシェンリーダンまで行って、アマネに神降ろしをさせる必要ないだろう。
だから、俺が守ってやるんだ。
魔法使いになって、強くなって。
今度は俺が、守ってやる。
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