宵闇百鬼夜行・・・心得の上・・・

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宵闇御伽草紙

宵闇御伽草紙 第一章(04) 契り盃は、三々九度で

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宵闇御伽草紙 第一章(04) 契り盃は、三々九度で

[newpage]#01 言霊は、口約束の重さである
 ヨーロッパのケルト文明、日本の縄文文明は、文字ではなく記憶を基本とした、記憶文明世界でありました。神代文字というのは、しるしであり、しるべであったのです。神代文字は、言葉ひとつひとつにしるししるべをあてるような、現代社会で使う文字の認識ではなく、口伝の補助的要素だったのです。

 あやかしひとあらざるものにとって、口約束が守れないことは、最悪の罪でありました。

 オルフェウスが、後ろを振り返って、エウリディケを喪ったように、伊弉諾は伊弉冉を喪いました。神々との約束事は、口約束が基本であり、発する言葉は、何よりも重かったのです。
「しっかし、一寸には、驚いたものよ」
「何をだ、綾」
瘴気陰:おんに狂った、蛸を引き千切るだけでも凄いが、わらはを三日三晩抱けるとはの」
「俺は、初めて故、判らぬが、凄いのか」
 男というものは、どんなに頑張っても、女を一晩抱くのがやっと、一昼夜連続など普通はできないし、三昼夜連続ともなれば、異常な能力であった。
「そうじゃ、そなたには、頼まねばならぬ」
「頼み・・・なんだ」
あやかしひとあらざるものに、手を出すときは、わらはと一緒で頼む」 一寸は、真っ赤になって、
「いやいや、手を出すって、俺は綾のつまだ」
「そなたが、湯女狐を抱きたいと願えば、湯女狐は、喜んで抱かれるが、明日まで生きてはおらぬ」
「え・・・」
あやかしひとあらざるものは、弱肉強食、勝てねば喰われる」
 かつて、安倍晴明はあやかしひとあらざるもの神眷属しんしではなく、自分自身の式神しんしとして使役していた。それは弱肉強食のあやかしひとあらざるものにとって、絶対的な強者つわものに対する、隷属の証でもあった。
「俺に、そんな、力が・・・」
わらはや葛葉様、母様ならば、相手もできようが、ほとんどのあやかしひとあらざるものは、そなたに従うことしかできぬ」
 圧倒的強者つわものは、自分に敗れ去ったあやかしひとあらざるものに対して、生殺与奪の権を握る。
「わかった、俺は、綾だけを愛せば良いのだろ」
「嬉しいことを言ってくれる、だが家祖のように、強くなければ何も守れぬ」
 綾様の御先祖渡辺綱は、御伽噺のように、浪花の町では語られていた。あやかしひとあらざるものを妻として迎え、鬼火を使って鍛冶屋や鋳掛屋を開き、狐火を使って銭湯を興して、浪花の町を築いていった。ほとんどのあやかしひとあらざるものは、弱く寿命も短い、数年しか生きられぬあやかしひとあらざるものも多い。
「湯女狐も、人の血が混じって、寿命が延びたが、三十年ほどじゃ」
 湯女狐は、綾様の女官も務めて、着替えを行い、膳の支度を整えていく。
「家祖の意思を護るモノが、家祖霊代渡辺綾の務めじゃ」
「俺は、綾が護りたいモノを護る。それが、つまとしての務め」
 そう言って、一寸は用意された、「三日夜餅」を綾様と食べて、誓った。

[newpage]#02 日ノ本の契りは、盃事なり
 日ノ本の約束事は、「盃事」であり、政治まつりごとでありました。あやかしひとあらざるものにとって、約束事というのは決まりであり、絶対服従しなければならないものであったのです。あやかしひとあらざるものとの約束を破るのは、常に人であり、嘘を吐くことができる人間が、口約束を破って、神を裏切りあやかしひとあらざるものを滅ぼすのです。

 男女の性愛は、契りでしかなく、婚姻の誓いというのは、男と女が愛し合えば、成立するというのではありません。神の前に婚姻を誓っても、破るのが人間という生き物です。

<三日目に、餅を食べて、婚儀となす>
 そして、お披露目の祭りが始まります。親族を含めて、近親者を招いて、神前にて、二人は天津神・国津神・参加者Stakeholderに対して、誓いの儀を執り行います。

 三々九度の盃を交わし、神前にて三世を誓い、
<小盃で、天津神に前世を誓って、先祖へ感謝する>
<中盃で、国津神に今世を誓って、夫婦の契りを交わす>
<大盃で、宴の参加者Stakeholderに対して、来世を誓って、安泰と繁栄を願う>
神前にて、神酒みきを、三口に分けて飲み干す。

 Stakeholder利害関係者という言い方をして、男女の契りに「stake掛け金」を献上し、「hoder関係者」という形で、男女に契りに関わることを示します。

[newpage]#03 婚姻の儀も三日間
 武士もののふの婚儀が、三日三晩というのは、婿むこ入りして一日、三々九度の「契り盃」で一日、披露の祝言で一日と数えるので、簡易的に行うと、一日か二日で終わることも多かったのです。

 しかしながら、一寸法師と渡辺綾様の婚儀は、三日三晩にわたって、執り行われました。
 祝詞が流れる・・・
  高砂や この浦舟に 帆を上げて
  この浦舟に帆を上げて
  月もろともに出潮いでしお
  波の淡路の島影や、
  遠く鳴尾の沖過ぎて、
  はやすみのえに 着きにけり
  はやすみのえに 着きにけり

 神前の巫女は、斎様いつきさまと千年白狐葛葉様が、生國魂いくたまの社で執り行います。「契り盃」の三々九度は、坐摩の社で執り行って、神前にて前世今世来世を誓って、祝言をあげました。

 宴は、渡辺館にて、様々な人とあやかしひとあらざるものが、お祝いを述べていきます。

 渡辺一族郎党と一寸法師の両親だけでなく、町衆やら来客が集まって、披露の祝宴が、渡辺館で執り行われました。綾様が本性ほんしょうに戻り、俺を肩に乗せて、祝宴に参加することとなった。

 来客も一族も、様々であり、鬼のように角を持つ者や、羽のある者、長い兎のような耳を持つ者が、祝いの席に集まっていた。大きい者は、一丈300cmを超えて、兎の耳をした二尺60cmに満たない者も居たけれど、一番小さいのは一寸法師、身の丈五寸150mmであった。

 綾様は、白地に金銀刺繍の狩衣を纏い、拵えを新しくした太刀を佩いて、上座に座っていた。綾様の肩には、型を合わせた皮に敷布がかけられ、小さな座椅子が据え付けられて、俺が座れるようにしてくれていた。

 どっかと下座に、一本角に大日如来の五智の宝冠を頭巾ときんにつけて、作務衣姿で座った女が、盃を差し出す。
「俺は、鍛冶の一角いっかく、婿殿へ祝いだ」
盃に酒を注ぐ。受け取った俺は、盃の酒を呑み干していく。
「良い飲みっぷりだ、了解したぞ、綾殿」
「そうか、打ってくれるか」
「打刀で良いのだな」
「あぁ。腰に差すからな」
「了解した」
 刀鍛冶の一角は、そう言うと、盃に酒を注いで、自分で飲み干して、席を立っていった。
「刀を造るのか」
「あぁ、一寸に扱えるように、腰に差す打刀にしてもらった」
「俺に扱えるかな」
わらはが教える」
 綾様は、楽しそうに言います。
「うんっ。ありがとう、綾」
 三日目となれば、元気となっていた二人は、綾が一寸を肩から掌に抱き上げて、閨へと下がっていったのです。

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