最初のものがたり

ナッツん

文字の大きさ
55 / 87

どちらか選ぶなら

しおりを挟む
勇磨を真っ直ぐに見つめた。

「トモはその目標を達成する為の、
パートナーなんだよ。
好きとか嫌いとかじゃなくて、
パートナーなの」

眉間にシワを寄せて左上を見る勇磨。

「パートナー?なんだ、それ。解消しろ」

は?何言ってんの!

そんなの無理だよ。

私にとってその目標は大事なんだよ。

トモが一緒じゃないと叶えられない。

「アイツはナナをただのパートナーとは、
思ってないんじゃないのか。」

いや、それはパートナーだと思う。

勇磨の言ってる意味のような事はない。

「トモは今は好きな女より私を優先するって。
それは好きな人がいるって事だよね。
だから、今は目標までのパートナーだよ」

それを聞いて益々、感じ悪くなる勇磨。

「やっぱり嫌だ。
何で好きな女より優先できるんだよ。
それは本気で好きじゃないんだ。
俺ならナナ以外に優先する事なんて1つもない。」

言い切られてドキッとした。

私以外、優先する事ない。

嬉しい。

私も勇磨が1番だ。

でも、トモと約束したんだ。

今は好きな男よりもトモを優先するって。

勇磨よりトモの言葉を聞くって。

でも本当にそうなんだろうか。

どちらかを選ばないといけないのかな。

分からない。

私の迷いが顔に出た。

「ナナも今はアイツを優先するの。
だからアイツの言葉しか聞かないの?」

黙って勇磨を見た。
勇磨の瞳が願うように私を見つめる。

どうしょう。

どうしたらいいんだろう。

言い方を間違えたらまた怒らせる。

また私を見ない勇磨に戻っちゃう。

怖くて言葉が出ない。

勇磨を失いたくない。

私はまた何も言えなくなり、
黙り込んだ。

「黙ってるって事はそういう事だよね。
結局、最後はアイツなんだな」

大きなため息をついて勇磨は諦めた。
私の肩をそっと自分から引き離した。

「もう下に着くな。降りようぜ」

黙って立ち上がり、開くドアから降りた。

私も後から続く。

険悪な雰囲気が漂ってる。

いや、違う。

勇磨は怒ってない。

泣いてるみたいに冷たく寂しい背中。

なんでこうなっちゃうんだろう。

さっきまで本当に、
夢みたいに幸せだったのに。

私は何度、間違えちゃうのかな。

勇磨が好きなのに。

結局、好きって事も伝えられない。

勇磨の後ろ姿を必死で追う。

何も言わずにどんどん歩いて行く勇磨。

何がいけなかったんだろう。

トモを、目標を優先するって事?

でも、簡単にみんなの目標を壊す事は出来ない。

私にとっても大切な目標だから。

でも勇磨の冷たい後ろ姿を見てると、
ダンスなんてもうできなくていいから、
勇磨といたい!って叫びたくなる。

目標も夢もステージもどうでもいい。

勇磨の腕に戻りたい。

優しく笑って欲しい。

でも、別の私もいる。

踊りたい、みんなと。

ステージを成功させたい。

やっと見つけた夢と目標を手放したくない。

だけど。

どっちか選ばなきゃいけないなら、
それは決まってる。

勇磨を優先すると言おうと決めた。

例え勇磨が私を受け入れてくれなくても、
私の好きは変わらない。

もう諦めたくない。

勇磨の事だけは嫌。

勇磨だけは絶対に嫌!

好きだって、言いたい。

思いっきり走って勇磨に近付いた。

背中に手を伸ばしたその時、
急に勇磨が立ち止まった。

私は対応出来ずその背中に激突した。

「痛っ!何で止まるの?」

勇磨の背中が緊張してこわばった。

「何?」

勇磨の返事を聞く前にトモを見つけた。

「トモ!」

勇磨の後ろから顔を出した私に気がつくと、
トモはにっこりと笑って勇磨に片手をあげた。

「ちび、探したんだよ。ここにいたのか。
アイドルくん、ごめん、ちびを借りたいんだけど。」

その言葉に勇磨は私の肩を引き寄せ、
ぎゅっと力を入れた。

「嫌だ。ナナはお前には渡さない。」

トモは大きくため息をついた。

「なんだよ、ホント、ガキだな。
別に君からナナちゃんを奪い取ろうって訳じゃないし、
俺達の目標達成の為にはちびが必要なんだ。
お前の気持ちがどうとかって話じゃない。
ちびは所有物じゃないだろ。
彼女だって自分で選ぶ権利があるはずだよ。」

勇磨は腕の力を抜いて私を離した。

「ちび、おいで」

そう言われ私は迷った。

さっきまで勇磨を選ぶと決めてたのに。

私の迷いが勇磨に伝わる。

「行けよ」

勇磨がつぶやく。

冷たく響く。

その言葉に一歩、足が出た。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

五年越しの再会と、揺れる恋心

柴田はつみ
恋愛
春山千尋24歳は五年前に広瀬洋介27歳に振られたと思い込み洋介から離れた。 千尋は今大手の商事会社に副社長の秘書として働いている。 ある日振られたと思い込んでいる千尋の前に洋介が社長として現れた。 だが千尋には今中田和也26歳と付き合っている。 千尋の気持ちは?

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...