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第一章 護衛艦フワデラ
第35話 酔っぱらいの話
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シエラの動画とカラデアの仲介によって、私たちはイザラス村にすんなりと受け入れられた。
その日は村人あげて夜遅くまで宴会になった。もともと静かな田舎の村ということもあって、私たちの来訪は恰好の娯楽となったようだ。
「古代神殿に行ったことがあるというホドリスとミカエラという方に会いたいのですが」
宴が大盛り上がりする中、私が顔を真っ赤にしたシエラの父親に尋ねると宴席の中を指さす。
「その二人ならあそこにいますよ、おーい! ホドリス! ミカエラ! こっちゃこい!」
編み込んだ長髪、いかつい顔、筋肉もりもりの、いかにも北方人といった風体の大きな男が二人がぬっと立ち上がって私たちのところへやってくる。
二人とも顔が真っ赤で酒臭い。かなり酔っぱらっているようだ。
「このめんこい魔法使い様が、お前たち二人に古代神殿の話を聞きてーみてぇでな。お前ら行ったことあんべ? 話を聞かせてやってくれ」
二人の大男は『古代神殿』という言葉を聞いた途端、その表情を固くした。
「古代神殿は……恐ろしいところだった……」
彼らの語るところによると――
古代神殿のある山には冥界の化け物が巣食っているという伝承があり、この地方の人々は誰一人近づくことはなかった。
数年前、鬼人と少年、顔に傷を負った少女という奇妙な一行がイザラス村を訪れた。少年は村長に宛てられたギルドからの依頼書を携えていた。
依頼の内容は「古代神殿への道案内」。
ギルドからの依頼とはいえ通常であれば断る案件だった。
だが彼らが、古代神殿までの道が確認できる途中まででも良いと言ったこと、そして同行者に鬼人がいることから、村長はこの依頼を承諾する。
案内人には山道に詳しいホドリスとミカエラに任せることにした。
「いくら鬼人がいると言っても何せ魔の山だ。俺たちは命がけの道程になることは覚悟した」
髭面のホドリスが顔をしかめて言う。
「実際に山に入ると、そこら中に悪魔がいた!」
髭なしのミカエラが大袈裟な身振りを交えながら、私を脅かそうと怖い顔を作って見せた。
「もし俺たちだけだったら、間違いなく冥界に連れて行かれていたはずだ。脳みそのような頭を持った大きな羽虫は俺たちよりデカイだけでなく、それが群がる蠅のように次々と襲ってきたんだからな!」
ホドリスが「ガオーッ」という顔を作って、私を脅かそうとする。いつも子供相手に同じような話を聞かせているのだろう。なんだか手慣れている感じがする。
「よく無事で戻ってこられましたね」
私が尋ねると、二人の男は「その言葉を待ってました!」とばかりに満面の笑顔になる。
ちょっとイラッとした。
「そうよ! 俺たちは悪魔の群がる山から無事に戻ってきた!」
「そうだ! 実際、俺たちは危険な奴らに何度も何度も取り囲まれた! 脳みそ頭の巨大な羽虫! ブーン、ブーン! そこら中にいたのに、俺たちは恐れなかった!」
「恐れる必要がなかったからだ!」
なんだか二人で勝手に盛り上がり始めてきた。
要点だけ話せよ!とツッコミたい気持ちを私は鋼の精神で押さえつける。酔っぱらいにそんなこと言ったとしても、絶対に碌な結果にはならないからだ。
「す、すごーい! おじちゃんたち、凄く強いんだね!」
私はやけになって幼女を演じることにした。まぁ、幼女だしな。その言葉を真に受けて二人してニヤニヤ顔を私に向ける。
ホドリスが人差し指を立てて「ちっ、ちっ、ちっ」
キザかっ!
ミカエラが首を左右に振って「のん、のん、のん!」
おフランス人かっ!
銃を携帯してなくて良かった。手元にあったら撃ってたな。
「確かに俺たちは強い。北方人としてはな!」
「だが鬼人は大きな刃物を振るい、目に傷持つ女は鋭い拳と足技を使った。だが実際は小さな子供が一番すごかった」
二人はそこで言葉を止めて、私の反応を見る。えっ!? どんなリアクションが正解なの?
「えっ……と、知りたいなぁ! どう凄かったのか知りたいなー!」
私はやけになって手を胸の前で組、もじもじしながら二人の大男を見上げた。大男がにんまりと大きな笑顔になる。
「それはな……」
「そ、それは?」
「それはなぁ……」
「そ、それは……あっ? あー、わたし知りたいなー! 教えて欲しいなー!」
私は大サービスで腰を左右にフリフリする。するしかなかった。
すると満足したおっさん二人が満面の笑顔で……
「「実はその子供が大魔法使いだったんだ!」」
「へ、へぇ……」
私の心は一気に冷めていった。そろそろ切り上げて、明日、二人がシラフのときに話を聞くことにしよう。
「魔法使いは、次から次へと襲ってくる化け物たちを魔法を使って全部やっつけちまったんだ!」
「そう! 神殿を直前に出てきた山のようにデカイ羽虫、アレは怖かったよな!」
「おう! アレが出てきたときは、さすがの魔法使いでも駄目なんじゃないかと俺は思ったぜ!」
私はもうジト目になっていた。
話が長い。
もう寝たい。
「だけどなぁ、お嬢ちゃん! あの子供の魔法使いは一瞬で悪魔を子供に変えちまったんだよ!」
「そうそう! 悪魔があっという間に小さい女の子になってなぁ……」
「悪魔が女の子に!?」
ちょっと待て! なんか目が覚めた!
「ちょうど嬢ちゃんくらいの子供に変わっちまったんだよ!」
完全に目が覚めた!
その日は村人あげて夜遅くまで宴会になった。もともと静かな田舎の村ということもあって、私たちの来訪は恰好の娯楽となったようだ。
「古代神殿に行ったことがあるというホドリスとミカエラという方に会いたいのですが」
宴が大盛り上がりする中、私が顔を真っ赤にしたシエラの父親に尋ねると宴席の中を指さす。
「その二人ならあそこにいますよ、おーい! ホドリス! ミカエラ! こっちゃこい!」
編み込んだ長髪、いかつい顔、筋肉もりもりの、いかにも北方人といった風体の大きな男が二人がぬっと立ち上がって私たちのところへやってくる。
二人とも顔が真っ赤で酒臭い。かなり酔っぱらっているようだ。
「このめんこい魔法使い様が、お前たち二人に古代神殿の話を聞きてーみてぇでな。お前ら行ったことあんべ? 話を聞かせてやってくれ」
二人の大男は『古代神殿』という言葉を聞いた途端、その表情を固くした。
「古代神殿は……恐ろしいところだった……」
彼らの語るところによると――
古代神殿のある山には冥界の化け物が巣食っているという伝承があり、この地方の人々は誰一人近づくことはなかった。
数年前、鬼人と少年、顔に傷を負った少女という奇妙な一行がイザラス村を訪れた。少年は村長に宛てられたギルドからの依頼書を携えていた。
依頼の内容は「古代神殿への道案内」。
ギルドからの依頼とはいえ通常であれば断る案件だった。
だが彼らが、古代神殿までの道が確認できる途中まででも良いと言ったこと、そして同行者に鬼人がいることから、村長はこの依頼を承諾する。
案内人には山道に詳しいホドリスとミカエラに任せることにした。
「いくら鬼人がいると言っても何せ魔の山だ。俺たちは命がけの道程になることは覚悟した」
髭面のホドリスが顔をしかめて言う。
「実際に山に入ると、そこら中に悪魔がいた!」
髭なしのミカエラが大袈裟な身振りを交えながら、私を脅かそうと怖い顔を作って見せた。
「もし俺たちだけだったら、間違いなく冥界に連れて行かれていたはずだ。脳みそのような頭を持った大きな羽虫は俺たちよりデカイだけでなく、それが群がる蠅のように次々と襲ってきたんだからな!」
ホドリスが「ガオーッ」という顔を作って、私を脅かそうとする。いつも子供相手に同じような話を聞かせているのだろう。なんだか手慣れている感じがする。
「よく無事で戻ってこられましたね」
私が尋ねると、二人の男は「その言葉を待ってました!」とばかりに満面の笑顔になる。
ちょっとイラッとした。
「そうよ! 俺たちは悪魔の群がる山から無事に戻ってきた!」
「そうだ! 実際、俺たちは危険な奴らに何度も何度も取り囲まれた! 脳みそ頭の巨大な羽虫! ブーン、ブーン! そこら中にいたのに、俺たちは恐れなかった!」
「恐れる必要がなかったからだ!」
なんだか二人で勝手に盛り上がり始めてきた。
要点だけ話せよ!とツッコミたい気持ちを私は鋼の精神で押さえつける。酔っぱらいにそんなこと言ったとしても、絶対に碌な結果にはならないからだ。
「す、すごーい! おじちゃんたち、凄く強いんだね!」
私はやけになって幼女を演じることにした。まぁ、幼女だしな。その言葉を真に受けて二人してニヤニヤ顔を私に向ける。
ホドリスが人差し指を立てて「ちっ、ちっ、ちっ」
キザかっ!
ミカエラが首を左右に振って「のん、のん、のん!」
おフランス人かっ!
銃を携帯してなくて良かった。手元にあったら撃ってたな。
「確かに俺たちは強い。北方人としてはな!」
「だが鬼人は大きな刃物を振るい、目に傷持つ女は鋭い拳と足技を使った。だが実際は小さな子供が一番すごかった」
二人はそこで言葉を止めて、私の反応を見る。えっ!? どんなリアクションが正解なの?
「えっ……と、知りたいなぁ! どう凄かったのか知りたいなー!」
私はやけになって手を胸の前で組、もじもじしながら二人の大男を見上げた。大男がにんまりと大きな笑顔になる。
「それはな……」
「そ、それは?」
「それはなぁ……」
「そ、それは……あっ? あー、わたし知りたいなー! 教えて欲しいなー!」
私は大サービスで腰を左右にフリフリする。するしかなかった。
すると満足したおっさん二人が満面の笑顔で……
「「実はその子供が大魔法使いだったんだ!」」
「へ、へぇ……」
私の心は一気に冷めていった。そろそろ切り上げて、明日、二人がシラフのときに話を聞くことにしよう。
「魔法使いは、次から次へと襲ってくる化け物たちを魔法を使って全部やっつけちまったんだ!」
「そう! 神殿を直前に出てきた山のようにデカイ羽虫、アレは怖かったよな!」
「おう! アレが出てきたときは、さすがの魔法使いでも駄目なんじゃないかと俺は思ったぜ!」
私はもうジト目になっていた。
話が長い。
もう寝たい。
「だけどなぁ、お嬢ちゃん! あの子供の魔法使いは一瞬で悪魔を子供に変えちまったんだよ!」
「そうそう! 悪魔があっという間に小さい女の子になってなぁ……」
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